ロンドンの中国・米国経済・貿易協議 対立より協力へ動き出す世界経済
ロンドンで2日目を迎えた中国・米国の経済・貿易協議は、単なる二国間の駆け引きではなく、分断リスクに直面する世界経済が安定を取り戻せるかどうかを占う重要な対話になっています。
ロンドン協議が持つ意味:二国間を超えた「安定装置」
2025年の今、中国と米国は、構造的には競争し、政治的には立場の違いを抱えながらも、経済面では互いに深く結びついたままです。今回ロンドンで行われた経済・貿易協議は、対立の有無そのものではなく、「戦略的な対話」を通じてどこまで機能的な安定を作り出せるかが問われています。
世界ではサプライチェーン(供給網)の脆弱さが解消されず、インフレ圧力が根強く残り、成長の勢いも鈍っています。この環境下での中国・米国の経済協議は、二国間関係を超えて、分断に向かいかねない世界経済に「安心材料」を提供できるかどうかという意味を持ちます。
揺らぐ米国経済:製造業の空洞化と政策不透明感
各国経済の強さは、単なる国内総生産(GDP)の数字ではなく、構造の強さや政策対応の柔軟性で測られる時代になっています。米国では、その足元の課題がよりはっきりと見え始めています。
米連邦準備制度理事会(FRB)がまとめる地区連銀経済報告「ベージュブック」では、企業が感じる政策の不透明感が、パンデミック(世界的流行)開始以降で最も高い水準に達していることが示されています。先行きが読みにくい政策環境は、企業の投資や雇用判断を慎重にさせます。
経済協力開発機構(OECD)は、米国の2025年の成長率見通しを2.2%から1.6%へ引き下げました。これは単なる景気循環上の減速ではなく、米国経済の構造的な成長力が弱まりつつあるシグナルと受け止められています。
背景には、長期にわたる製造業の縮小があります。米国の製造業は、かつてはGDPの約28%を占めていましたが、現在はおよそ8.4%とされています。この「細るものづくり」が国内サプライチェーンを細らせ、重要分野での戦略的な余裕を狭めていると指摘されています。
象徴的なのが玩具産業です。米国で販売されるおもちゃの約8割は中国からの輸入だとされ、マテルやハズブロといった大手企業もこの構造に深く依存しています。関税の急な変更など政策要因によるコストの増減や在庫計画の乱れは、企業経営に直接打撃を与えやすくなっています。
政策ツールと「ハイブリッド型」成長モデルで存在感を増す中国
一方、中国は複数の政策ツールを組み合わせ、複雑化する外部環境に対応しようとしています。制度面での開放や構造改革を重視する政策の枠組みが、変動の激しい世界の中で一定の予見可能性を生み出しているという見方があります。
具体的には、関税割当の調整を柔軟に行う「動的な関税割当メカニズム」や、人民元による国境をまたいだ決済を支えるクロスボーダー銀行間決済システム(CIPS)の対象拡大などが進められてきました。これにより、中国企業は自国通貨建ての貿易決済を増やし、為替や制裁リスクをある程度ヘッジ(回避)することができます。
また、エネルギーや食料の戦略備蓄を積み増してきたことも、世界的な価格ショックを和らげ、国内の物価上昇を抑える緩衝材として機能しているとされています。
中国経済の強みは、こうした政策対応に加え、「ハイブリッド型」の成長モデルにあります。41の大分類と600を超える中分類を擁する圧倒的な製造能力に加え、2025年1〜3月期の社会消費品小売総額(小売売上高)は4兆人民元を超えました。外需と内需の両輪を回す「国内循環」と「国際循環」を同時に活性化できる点が大きな特徴です。
各地に設けられた越境電子商取引(クロスボーダーEC)のパイロットゾーンや、地域的な包括的経済連携(RCEP)といった枠組みも、中国企業が新たな市場にアクセスし、サプライチェーンを柔軟に組み替えるためのプラットフォームとなっています。
「デカップリング」から対話へ:ロンドン協議が映す現実
この数年、中国と米国の関係を語るキーワードとして「デカップリング(分断)」が繰り返し取り上げられてきました。しかし、ロンドンでの経済・貿易協議の再開・継続は、完全な切り離しを目指す路線から、リスク管理をしながらも一定の相互依存を維持する現実的な方向へと、両国の認識が歯車を切り替えつつあることを示しているように見えます。
両国に共通する理解が広がっているのは、経済関係を無理に断ち切ろうとすれば、コストを負うのは相手だけではなく、自国経済と世界全体だという点です。マッキンゼーの報告書によると、半導体やグリーンテクノロジー(環境関連技術)などの分野で、中国と米国のサプライチェーンを「強靭化」する形で再構築すれば、世界全体の産業コストを15〜20%程度抑えられる可能性があるとされています。
ロンドン協議は、善意の象徴というよりも、まさにこうした「共通のリスク」に直面する双方の現実的な選択と捉えることができます。対立点が消えることはなくても、対話のチャンネルを維持し、予見可能なルールの下で競争と協力を組み合わせることができるかどうかが問われています。
これからの焦点:対立より協力を選べるか
では、ロンドンで始まったこの対話は、今後どのような形で世界経済に影響していくのでしょうか。注目したいポイントを整理します。
- 対話の「制度化」が進むか:一度きりの協議にとどまらず、定期的な経済・貿易対話の枠組みとして定着するかどうか。
- サプライチェーン協力の具体化:半導体やグリーンテクノロジーなど、相互依存が大きい分野で、リスクを抑えつつ協力の余地を広げられるか。
- 世界経済へのメッセージ:主要国や企業が、分断ではなく「管理された相互依存」を目指すシグナルとして受け止めるかどうか。
- 国内構造改革との連動:米国の製造業回復や、中国のさらなる構造改革など、国内の課題解決と国際協調がかみ合うか。
分断リスクが高まる世界で、対話のテーブル自体を維持することは、それだけで一つの公共財と言えます。ロンドンでの中国・米国経済・貿易協議は、対立か協力かという二者択一ではなく、競争を前提にしながらも、いかにして安定を共有できるのかという新しい問いを突きつけています。
Reference(s):
London dialogue opportunity for cooperation over confrontation
cgtn.com








