両肺を摘出後も48時間生存—「全人工肺」がつないだ二重肺移植への道
両方の肺をすべて取り除いた後も、体外の「全人工肺(Total Artificial Lung:TAL)」システムで48時間生命を維持し、その後の両肺移植につなげた——。そんな症例報告が、移植医療の現場で注目を集めています。感染の“震源地”を取り除き、移植までの時間を稼ぐという発想が、救命の選択肢を広げる可能性を示しました。
何が起きたのか:肺ゼロの状態で「48時間の橋」をつくった
報告によると、米ノースウェスタン記念病院(Northwestern Memorial Hospital)で、両肺を完全に摘出(両側肺全摘)した患者に対し、体外循環回路を用いたTALを装着し、肺が体内にない状態で約2日間(48時間)生存を維持しました。その間に致死的な感染からの回復を待ち、その後の両肺移植(ダブル肺移植)に移行できたとされています。
症例の詳細は、Cell Pressの学術誌「Med」に掲載されたとされています。
背景:インフルエンザBからARDS、壊死性肺炎へ
患者は、以前は健康だった33歳の男性です。2023年初頭にインフルエンザBウイルスに感染して入院した後、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と、肺の組織が壊死(えし)していく壊死性肺炎へと急速に悪化しました。
治療が行き詰まったポイント
- 人工呼吸器に加え、心肺補助(ECMO:体外式膜型人工肺)も使用していた
- それでも治療抵抗性の敗血症性ショック(refractory septic shock)が続いた
- 複数回の心停止、腎不全も起きた
- 肺の感染が深く、病変の肺が胸の中に残る限り、抗菌薬だけでは感染を断ち切れない状況だった
決断:感染源を物理的に取り除く「両側肺全摘」
死亡リスクが80%を超えると見積もられる中、ノースウェスタン大学ファインバーグ医科大学(Northwestern University Feinberg School of Medicine)外科・胸部外科主任のアンキット・バラット(Dr. Ankit Bharat)氏が率いるチームは、両側肺全摘に踏み切りました。狙いは、感染が根を張った肺そのものを取り除き、全身状態がさらに崩れるのを止めることです。
ただし、両肺を取り除くと「呼吸」だけでなく、胸の中の循環(血液の流れ)の構造自体が大きく変わります。そこで必要になったのが、単なる“酸素化装置”にとどまらない仕組みでした。
鍵になった技術:胸の中の「配管」を置き換えるTAL
チームが開発した体外循環型のTALは、患者の呼吸を代替するだけでなく、胸腔内で成立していた循環の“配管(内部の流れ)”を置き換える発想の回路だったと説明されています。これにより、肺が体内にない期間を乗り切り、感染からの回復に必要な48時間を確保しました。
この48時間が意味したもの
- 感染源(病変肺)を取り除いた状態で、全身の回復を待てる
- 移植までの「つなぎ(ブリッジ)」をつくれる
- 従来は救命が難しいと見なされがちな局面で、「サルベージ治療(salvage therapy)」としての位置づけが議論されうる
今後の論点:誰に、いつ、どう使うのか
この症例は、両側肺全摘という極めて大きな決断と、それを成立させる工学的な工夫が噛み合った例として示されています。一方で、同様の状況に置かれた患者すべてに当てはまるわけではありません。
今後の議論としては、たとえば次の点が焦点になりそうです。
- TALが検討されるべき臨床状況(感染の深さ、全身状態など)
- 移植へつなぐまでの時間をどう見積もるか
- ECMOなど既存の補助循環との役割分担をどう整理するか
肺を「治す」ことが難しい局面でも、移植という次の治療に“届く時間”をつくれるのか。2023年のこの報告は、集中治療と移植医療の境界に、新しい設計図を置いた事例と言えそうです。
Reference(s):
Artificial lung: A 48-hour bridge to life after total lung removal
cgtn.com








