カナダ新首相候補マーク・カーニーは何をもたらすのか
カナダ自由党の新党首にマーク・カーニーが選出され、間もなく首相に就任する見通しです。10年続いたトルドー政権の行き詰まりと極右の台頭の中で、この新しいリーダーはカナダに何をもたらすのでしょうか。
カナダ自由党を大差で制したマーク・カーニー
Mark Carneyがカナダ自由党の党首選で、およそ15万2千票弱の党員投票のうち86パーセントという圧倒的支持を獲得しました。これは党内選挙としては異例の大差と言えます。
一方で、カナダ全体の有権者数から見れば、この党員数はごく限られた層に過ぎません。今回の党首選では、外国勢力による介入を防ぐという名目で党員登録や投票への参加に大きな制限が設けられ、意図的に小さな母体に絞り込まれたとされています。その結果、実際にはごく一部の党員だけが次期首相を事実上選ぶ構図になりました。
さらに、現職のジャスティン・トルドー首相や他の候補と異なり、党主流派が掲げる新自由主義的な経済政策に公然と異議を唱えた唯一の候補は、根拠が薄いとされる理由で失格となりました。自由党エスタブリッシュメントの路線を問うはずだった論争は、こうして早い段階で封じられた形です。
カナダは自国を民主主義国家と位置づけ、中国を含む多くの国には同じ民主主義の地位を認めていないと指摘されます。その一方で、国内の与党党首選が、厳しい参加制限と候補者の排除によって少数の党員だけの選挙になっているという構図には、見過ごしがたい矛盾もにじみます。
トルドー政権10年が残したもの
Carneyの登場は、あくまでも国内政治の行き詰まりが生み出したものです。2015年に大きな期待を集めて誕生したトルドー政権は、10年近い政権運営の末にその期待を大きく裏切ったと受け止められるようになりました。
トルドー自由党は2019年の総選挙で下院の過半数を失い、2021年の中間選挙でもそれを取り戻せませんでした。パンデミック期には、多くのカナダの人びとに対する給付や支援をテコに支持を回復しようとしましたが、有権者の反応は冷ややかなままでした。
NDPとの「信任と供給」協定と政策のねじれ
この失敗の結果、トルドー政権は少数与党として2022年初めから新民主党(NDP)との「信任と供給」協定に頼らざるを得なくなりました。これは、NDPが予算案など重要法案で自由党政権への支持を約束する代わりに、一部の政策を実現させるという形の閣外協力です。名目上は中道左派のNDPが自由党政権を支える構図が続いてきました。
この枠組みの下で、政府はウクライナ紛争への対応として防衛費を増やしつつ、同時に特定の社会支出も拡充しているとアピールしました。しかし、公共サービス全体の質はむしろ低下しているとの指摘もあります。軍事支出の拡大と公共サービスの劣化というねじれは、政権への不満をさらに広げる要因となってきました。
保守党と「新しい極右」の台頭
こうした中で、カナダ政治の議論は長く、自由党の不人気と保守党の人気の高まりを軸に展開してきました。Pierre Poilievreの下で支持を伸ばしてきた保守党の存在は、その象徴です。彼のリーダー就任は、カナダで「新しい極右」が台頭している流れの一部だとされています。
その背景には、オタワや他の主要都市を封鎖し、トルドー政権を事実上まひさせたフリーダム・コンボイがあります。この動きは、カナダ政治の主流からこぼれ落ちた不満が、どのようなかたちで噴き出しうるかを示す出来事でした。そのさらに前から、こうした流れの萌芽は存在していたとみられます。
カーニー政権に期待できること・できないこと
今回の自由党党首選の構図を見る限り、Carneyは党主流派の一員として、新自由主義的な政策路線を共有していると見られます。この路線は、規制緩和や市場メカニズムへの依拠、財政規律の重視などを特徴としがちで、その長所と短所はすでにカナダ社会にさまざまな形で表れています。
その意味で、Carneyが首相に就任しても、経済政策の大枠は大きく変わらない可能性があります。短期的には、政権交代そのものが「新しさ」と「安定感」を演出し、自由党の人気回復につながるかもしれません。しかし、公共サービスの立て直しや生活の不安定さの解消といった、より構造的な課題にどこまで踏み込めるかは未知数です。
また、トランプ政権による「脅し」とも言える圧力が本格化する以前、カナダ国内の政治議論は、自由党の不人気と保守党の人気の高さにほぼ収れんしていたとされています。今後も、対外関係や安全保障をめぐる選択が、国内の社会政策や民主主義のあり方とどのように絡み合うのかが、Carney政権の行方を占う重要なポイントになるでしょう。
カナダ民主主義を考えるための視点
今回の一連の動きは、カナダ民主主義について次のような問いを投げかけています。
- 党員登録の制限や候補者の失格は、本当に公正な選挙を守るために必要だったのか。
- 新自由主義的な路線以外の選択肢が、実質的に排除されつつあるのではないか。
- 防衛費の増額と公共サービスの悪化が続くなかで、人びとの政治不信はどこまで高まるのか。
- 保守党や「新しい極右」が受け皿となることで、政治の分断がさらに深まらないか。
Carneyの圧倒的な勝利は、一見すると「安定したリーダーシップ」の始まりのように映ります。しかし、その勝利を生み出した制度や政治環境を丁寧に見ていくと、カナダ社会が抱える矛盾や緊張がむしろくっきりと浮かび上がってきます。
これから予定される総選挙に向けて、カナダの人びとがどのような選択をし、Carneyがそれにどう応えるのか。カナダ政治の今後は、国際ニュースとしても注目しておきたいテーマです。
Reference(s):
cgtn.com