EU、米国研究者を迅速ビザで誘致へ 科学予算削減で流出加速
欧州連合(EU)が、米国の研究者を誘致するためにビザ手続きの迅速化に動いています。米トランプ政権による科学・研究予算の削減で将来に不安を抱く研究者が増えるなか、EUは「世界の最も優秀な人材を呼び込む好機」と捉えているようです。
この記事のポイント
- EUが加盟国に対し、米国研究者向けのビザ手続きを迅速化するよう要請
- 2025~2027年を対象に、総額5億ユーロ規模の研究インセンティブ・プログラムを開始
- 米国では予算削減と人員整理が続き、研究者の約75%が国外移住を検討しているとの調査結果
米国研究者を狙うEUの新戦略
スタートアップ、研究・イノベーション担当の欧州委員会委員であるエカテリナ・ザハリエワ氏は最近、加盟各国に対し、米国の研究者を受け入れるためにビザ手続きを加速させるよう求めたと明らかにしました。
ザハリエワ氏によると、EUの研究担当閣僚は5月23日に会合を開き、米国に拠点を置きながらトランプ政権の研究予算削減を理由に国外への移動を検討している研究者を、どのように欧州へ引きつけるかを協議する予定でした。欧州委員会は、この分野で加盟国どうしの連携を強化するための提案も準備しているとしています。
5億ユーロの研究インセンティブ・プログラム
こうしたビザの迅速化と並行して、欧州委員会は2025年から2027年にかけて実施する、総額5億ユーロ規模の研究インセンティブ・プログラムを発表しました。目的は、世界中からトップレベルの科学者を欧州の研究機関に呼び込むことです。
詳細な設計は今後詰められるとみられますが、優秀な研究者や研究チームが欧州で活動しやすい環境を整えることが狙いとされています。ザハリエワ氏は「この勢いと機会を生かし、世界の最も優秀な人材を欧州へ引きつけたい」と強調しました。
「科学の自由」を法律に明記へ
欧州委員会は、制度面の魅力を高める取り組みも進めています。ザハリエワ氏は、欧州研究エリア法(European Research Area Act)と呼ばれる新たな法律の案を2026年に提案する予定であり、その中で「科学の自由」を法的に保障する方針を示しています。
研究テーマの選択や結果の公表を政治的圧力から守る「科学の自由」は、研究者が移籍先を選ぶ際の重要な条件の一つです。EUがこれを法律に明記することで、研究者にとっての安心感を高め、長期的なキャリア形成の場として欧州を選びやすくする狙いがあるとみられます。
米国で高まる研究者の流出意欲
背景には、米国政府による研究予算の相次ぐ削減と研究機関での解雇が続いている現状があります。ここ数カ月、米国の研究者の間では、将来のキャリアや研究環境に対する不安が高まっています。
英科学誌「ネイチャー」が3月下旬に公表した調査によると、回答した米国の科学者のおよそ75%が、現在の政権による政策でキャリアの見通しが立たなくなったとして、国外への移住を検討しているといいます。移住先としては、欧州とカナダが特に人気が高かったとされています。
グローバルな「人材獲得競争」の行方
EUがビザの迅速化や巨額の研究支援策、科学の自由の法的保障を組み合わせて打ち出していることは、研究者をめぐる国際競争が一段と激しくなっていることを示しています。優秀な人材を引きつけた国や地域が、次世代の産業や技術で優位に立つ可能性が高いためです。
日本やアジアの国々にとっても、これは他人事ではありません。米国からの研究者流出が現実となれば、その受け皿になれるかどうかで、各地域の研究力やイノベーション力に差がつく可能性があります。研究者が安心して挑戦できる環境や、明確な長期ビジョンを用意できるかどうかが問われているともいえます。
EUが打ち出した今回の動きは、単に米国からの「頭脳流出」を受け止めるというだけでなく、科学の自由と研究者のキャリアをどう守るのかという、より根本的な問いを各国に突きつけています。
Reference(s):
cgtn.com








