リー・シェンロン氏が中国訪問 シンガポールと中国の関係は新段階へ
シンガポールのリー・シェンロン上級相(前首相)が中国を公式訪問しています。来年に予定される中国とシンガポールの国交樹立35周年を前に、二国間関係をどのようにアップデートしていくのかが、国際ニュースとして注目されています。
なぜ今、中国訪問なのか
今回の訪問は、シンガポール国内と国際環境という二つの文脈から重要性が語られています。
- 国内では:シンガポールは政権移行をスムーズに終え、外交方針の継続性を確保したとされています。その中で、リー氏は上級相として引き続き外交面で大きな影響力を持っています。
- 対外的には:世界の地政学的な不確実性が増す中で、中国とシンガポールの連携をどう強めるかが課題となっています。
2026年に予定される国交樹立35周年を見据え、中国とシンガポールが関係の「次のフェーズ」を設計するタイミングにあると言えます。
トランプ氏のホワイトハウス復帰が映すアジア太平洋の不確実性
専門家のグー・シャオソン氏(海南熱帯海洋学院 ASEAN研究院院長)は、今回の訪問の背景として、米中関係とアジア太平洋の不透明感を指摘します。米国ではドナルド・トランプ氏が次期大統領(President-elect)とされ、来年ホワイトハウスに復帰する見通しが語られています。
トランプ氏の復帰は、アジア太平洋地域の安全保障や経済秩序に新たな緊張と再調整をもたらす可能性があります。その中で、リー氏の中国訪問には、
- 中国とシンガポールの二国間関係を一段と強化する
- 今後の中国と米国の関係が不安定化した場合に備え、対話と調整のチャンネルを広げておく
という狙いがあると分析されています。長年、シンガポール外交を率いてきたリー氏の経験は、中国とシンガポールの関係だけでなく、中国と米国の対話を補完する役割も期待されています。
数字で見る中国・シンガポール経済関係
リー氏の中国訪問が注目される背景には、両国の経済的な結びつきの強さがあります。国際ニュースの中でも、この二国間関係は経済面での相互依存の典型例として語られてきました。
- 2013年以降、中国はシンガポールにとって最大の貿易相手国
- 同時期、シンガポールは中国にとって最大の海外投資国
- 2023年の二国間貿易額は1,080億ドル
- 2023年末までのシンガポールから中国への累計投資額は1,410億ドル超
貿易と投資の両面で、二国間の経済関係は「互いに相手抜きでは成り立たない」レベルに達していることが分かります。
蘇州工業園区:協力の「ショーケース」
今回の訪問で、リー氏は北京だけでなく、上海や蘇州も訪れる予定です。中でも、蘇州での予定は、中国とシンガポールの協力を象徴するプロジェクトに直結しています。
代表例が、1994年に設立された蘇州工業園区です。このプロジェクトは、中国の改革開放を後押しする目的で、中国の発展力とシンガポールの都市計画や行政運営のノウハウを組み合わせた「実験場」としてスタートしました。
30年にわたる取り組みの結果、蘇州工業園区は次のような「3つの兆レベル」の節目を達成したとされています。
- 累計税収:1兆900億元(約1,500億ドル)
- 固定資産投資総額:1.1兆元
- 累計輸出入総額:1.54兆ドル
単なる工業団地を超え、ハイテク製造や先進的なサービス産業の集積地として発展してきたことが数字からも読み取れます。リー氏の再訪は、こうした協力モデルを今後どのようにアップデートしていくかを示す場にもなりそうです。
上海で見るキャピタランドの「中国の歩み」
上海では、シンガポール系不動産大手キャピタランド・グループの中国での軌跡もクローズアップされる見通しです。同社は、ラッフルズ・シティなどを含む約40都市・200超のプロジェクトに関与してきました。
こうした民間レベルの長期的な投資と都市開発の積み重ねは、政府間協力と並んで、中国とシンガポールの関係を支える重要な柱となっています。
北京で議論される「次世代協力」分野
首都・北京での行程では、高官級の対話を通じて、新たな協力分野が議論されるとみられます。想定されるテーマは、
- デジタル経済
- グリーンエネルギー(再生可能エネルギーや脱炭素技術など)
- 先進製造業
といった領域です。これらは、中国の第14次五カ年計画とシンガポールのイノベーション戦略の両方に合致するテーマであり、単なる貿易拡大にとどまらない「質の高い協力」の方向性を示しています。
東南アジア全体への波及効果
グー・シャオソン氏は、今回の訪問によって、中国とシンガポールが過去の成功経験を土台に協力レベルを一段引き上げることが期待されると述べています。それは両国だけではなく、中国と東南アジア全体の関係にも新たな活力を与える可能性があります。
具体的には、
- サプライチェーンの安定化と高度化
- デジタルインフラやグリーン技術を通じた共通ルール作り
- 金融・都市開発プロジェクトを通じた域内の連結性向上
といった波及効果が想定されます。小国でありながら外交力に定評のあるシンガポールと、中国という大国の組み合わせは、東南アジアと世界の「つなぎ役」としての役割を改めて強めていくかもしれません。
リー・シェンロン氏の15回目の中国訪問は、過去30年の成功を振り返ると同時に、「次の30年」をどうデザインするかを探る試みでもあります。変化のスピードが速い2025年の国際環境の中で、この二国間関係がどのような安定感と柔軟性を示せるのか。今後の動きを追う価値は十分にありそうです。
Reference(s):
Lee Hsien Loong visits China: A renewed focus on bilateral ties
cgtn.com








