中国のデジタル貿易改革:2035年にサービス貿易の半分をデジタル化へ
中国のデジタル貿易改革:2035年にサービス貿易の半分をデジタル化へ
中国当局が公表したデジタル貿易に関する新たな指針が、2035年に向けた大胆な目標を示しています。デジタル技術を通じて提供されるサービス貿易の比率を高めつつ、データ流通のルール作りや国際協力も進める内容で、日本を含む世界の企業や利用者にも影響が及ぶ可能性があります。
2035年に向けた「デジタル貿易国家」構想
今回の指針は、中国共産党中央委員会と国務院の弁公室が公表したもので、中国のデジタル貿易の改革とイノベーションによる発展を加速させることを目的としています。
とくに注目されるのが、サービス貿易に占める「デジタルで提供可能なサービス貿易」の比率に関する数値目標です。
- 2029年までに、サービス貿易全体に占める比率を45%超に
- 2035年までに、同比率を50%以上に
デジタル技術を活用したサービスが、サービス貿易全体の半分以上を占める水準を目指すものであり、サービス産業のデジタル化を一段と押し上げる方向性が明確になりました。
また、2035年までに「整然として安全かつ効率的なデジタル貿易ガバナンス体制」を全面的に確立し、制度面での開放も包括的に向上させるとしています。
何を伸ばすのか:デジタル製品・技術・サービス
指針の中では、どのような分野のデジタル貿易を伸ばすのかについても方向性が示されています。
- デジタル製品とデジタル技術の貿易を発展させる
- デジタルサービス貿易を最適化する
- デジタルで注文される貿易(デジタル注文型貿易)の高品質な発展を促す
- デジタル貿易に関わる企業・組織(デジタル貿易主体)を育成する
ソフトウェアやクラウドサービスのような無形のデジタル製品、オンラインで提供される各種サービス、電子商取引(EC)などを通じたデジタル注文型の貿易などが、重点領域として位置づけられていると考えられます。
「デジタル注文型貿易」が意味するもの
指針が掲げる「デジタル注文型貿易」とは、取引の注文や決済、契約などがオンラインで完結するタイプの貿易を指すものとみられます。プラットフォーム経由の国際取引が増えるなかで、この領域の質と信頼性をどう高めるかが課題になっていると言えます。
市場アクセスの緩和と投資の呼び込み
デジタル貿易の拡大には、市場の開放と投資環境の整備も欠かせません。指針では、デジタル分野での「制度的な開放」を進めるため、以下のような方向性が示されています。
- デジタル分野における市場アクセスを緩和する
- デジタル分野への海外からの投資を奨励する
- 通信、インターネット、文化産業などを、秩序立ててより広く開放していく
通信やインターネット、文化産業は、情報流通やコンテンツを担う基盤産業です。こうした分野の開放が進めば、国際的なデジタルサービス企業やスタートアップが中国市場で活動しやすくなる可能性もあります。
データの越境移転:開放と安全のバランス
デジタル貿易の中核には、データの越境移転(クロスボーダーデータフロー)が存在します。今回の指針は、この分野でも重要な方針を示しています。
- データの越境流通を「促進」しつつ「規律ある形で管理」する
- 高度な開放水準に対応したデジタル貿易のためのプラットフォームを構築する
- 重要データや個人情報の安全を確保しながら、効率的で便利かつ安全な越境データ流通メカニズムを整備する
つまり、「データを動かしやすくすること」と「データを守ること」の両立がテーマになっています。デジタル貿易が拡大するほど、個人情報保護や企業秘密の保護、サイバーセキュリティなどの課題も大きくなりますが、指針はそのバランスを取るガバナンス体制づくりを目指しています。
国際ルール作りへの積極的な参加
中国は、国内のルール整備だけでなく、グローバルなデジタル貿易ガバナンスにも積極的に関与していく姿勢を明確にしています。指針は次のような方向性を掲げています。
- 国際的なデジタル貿易ルールの策定に積極的に参加する
- デジタル発展にとって「開かれ、公平で、公正かつ差別のない環境」をつくることに貢献する
その一環として、指針は次の枠組みに関連する取り組みを進めるとしています。
- デジタル経済連携協定(Digital Economy Partnership Agreement, DEPA)
- 包括的・先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)
いずれもデジタル経済や新しい通商ルールを扱う国際的な枠組みであり、データ流通、電子商取引、デジタルサービスなどのルール形成で存在感を高めようとする動きと位置づけられます。
AI・ビッグデータ・決済での協力強化
指針はまた、デジタル貿易の周辺領域での国際協力の重要性も強調しています。具体的には、次の分野で協力を深めるとしています。
- 人工知能(AI)
- ビッグデータ
- クロスボーダー決済
- モバイル決済
- デジタルインフラ(デジタル基盤)の相互接続性の向上
デジタル貿易は、単にモノやサービスの輸出入にとどまらず、決済インフラや通信ネットワーク、データセンターなどの基盤とも密接に結びついています。インフラが相互に接続されることで、国境をまたぐオンラインサービスの利便性が高まり、企業にとっても新たなビジネス機会が生まれます。
2024年上半期、デジタルサービス貿易額は過去最高
こうした中で、中国のデジタルサービス貿易はすでに拡大傾向にあります。公式データによると、2024年上半期の「デジタルで提供可能なサービス」の輸出入額は、過去最高となる1兆4,200億元(約1,975億ドル)に達し、前年同期比3.7%の増加となりました。
これは、デジタル技術を活用したサービスが、中国の対外経済活動において着実に存在感を増していることを示す数字です。今回の指針は、この流れを2035年までの長期的な成長につなげていくための「ロードマップ」と位置づけることができます。
日本や世界のプレーヤーにとっての意味
今回のデジタル貿易指針は、中国国内の政策であると同時に、日本を含む世界のビジネスや政策にも波及効果を持ちうる内容です。ポイントを整理すると、次のようになります。
- 企業にとって:デジタルサービスやオンライン取引を中国と行う場合、越境データ流通や個人情報保護に関するルール、デジタル貿易のガバナンスの変化を注視する必要があります。
- 政策担当者にとって:DEPAやCPTPPといった枠組みを通じたデジタル経済ルール作りに、中国がどのように関与していくのかは、国際的なルール形成の行方を考えるうえで重要な要素となります。
- 利用者・市民にとって:デジタルサービスが拡大するほど、個人データの扱い、安全な決済、プラットフォームの透明性といったテーマが身近な問題になっていきます。
2024年上半期の実績と、2029年・2035年の数値目標をつなぐ今回の指針は、今後約10年にわたる中国のデジタル貿易戦略を示すものです。世界のデジタル経済が一層相互依存を深めるなかで、どのようなルールやインフラが整備されていくのか。日本の読者にとっても、注視しておきたいテーマと言えるでしょう。
Reference(s):
China pursues reform and innovative development in digital trade
cgtn.com








