トランプ次期大統領の関税構想に世界の反発
米国の次期大統領ドナルド・トランプ氏が、カナダやメキシコ、中国から米国に入るすべての製品に高い関税を課す方針を示し、国際ニュースの現場では世界経済への影響をめぐる懸念が一気に高まっています。過去の関税政策がもたらした誰も勝者にならない経験を踏まえ、今回の動きは本当に米国にとって得策なのでしょうか。
トランプ氏の新たな関税構想とは
トランプ氏は、カナダとメキシコから米国に入るすべての製品に25%の税を、さらに中国からの輸入品に追加で10%の関税を課すと警告しています。この発言は、保護主義的な動きが再び強まるのではないかという世界的な懸念を呼び起こしました。
直近の会談でカナダのジャスティン・トルドー首相は、トランプ氏との対話についてすばらしい会談だったとだけ述べ、具体的な関税方針には踏み込みませんでした。現時点で、トランプ氏が関税の脅しを撤回するとの発表は出ていません。
カナダ・メキシコの反応:同盟国も板挟みに
メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、トランプ氏の計画は両国でインフレと雇用喪失を招きかねないと強い懸念を示しました。関税が両国の共同事業を危険にさらし、やがて共通の企業活動そのものを危険にさらすことになると警告しています。
シェインバウム氏は、ゼネラル・モーターズやフォードなど、メキシコに工場を持つ米自動車メーカーも大きな打撃を受けると指摘しました。統合が進んだ北米のサプライチェーン全体が揺らぐ可能性があります。
- 物価上昇による家計負担の増加
- 製造業を中心とした雇用喪失のリスク
- 米墨・米加の共同ビジネスへの打撃
- 自動車産業をはじめとするサプライチェーンの混乱
自動車産業に走る緊張:17%の利益減も
格付け会社S&P Globalの報告書は、トランプ氏がヨーロッパやメキシコ、カナダなどの主要な同盟国に対して大幅な関税を発動した場合、米欧の自動車メーカーの年間の中核的利益が最悪のケースで合わせて最大17%失われる可能性があると試算しました。
自動車は、部品や素材が国境を何度も行き来する代表的なグローバル産業です。関税が一度かかれば、コスト増は最終的に車両価格や雇用、投資計画に跳ね返ることになります。
第1期トランプ政権の教訓:関税は誰の負担だったか
トランプ氏の1期目の政権では、2018~2019年にかけて相次ぐ関税措置が導入され、世界の貿易システムに大きな影響を与えました。
米連邦準備制度理事会(FRB)の2019年のベージュブック(経済報告)によると、多くの米企業は貿易摩擦に起因するさまざまな問題に直面していました。
- サプライチェーンの混乱や調達の遅延
- 関税による仕入れコストの上昇
- 先行き不透明さに対応するための在庫積み増し
- 顧客からの要請による関税コストの吸収と利益率の低下
2019年には世界の製造業も縮小局面に入りました。JPMorgan Global Manufacturing PMI(製造業購買担当者指数)は、8月の49.5から9月には49.7へとわずかに改善したものの、景気拡大と縮小の分かれ目とされる50を5カ月連続で下回り、多くの企業で生産縮小が続いていたことを示しました。
米シンクタンクのタックス・ファウンデーションは、トランプ政権が2018~2019年にかけて約3,800億ドル相当の輸入品に関税を課した結果、米国民にとって新たな税負担はほぼ800億ドルに達し、近年でも最大級の増税になったと指摘しています。輸入品を扱う企業や多国籍企業が大きな打撃を受けたと分析されています。
国内からの反発:バイデン氏と議会の声
ジョー・バイデン大統領も、トランプ氏の新たな関税構想について逆効果だと批判し、再考を促しています。
関税の脅威が高まるなか、複数の州から選出された民主党議員のグループは、米家庭の追加負担を問題視し、これに対抗する法案を提出しました。
法案起草者の一人であるスーザン・デルベネ下院議員は、広範な輸入品に一律の高関税を課せば、家庭が負担する消費財のコストが年間数千ドル増えると指摘しています。さらに、国内の物価を押し上げて景気後退を招き、同盟国との貿易関係を損ねることで報復措置を誘発し、米国の労働者や農家、企業に深刻なダメージを与えかねないと警鐘を鳴らしました。
国際経済研究で知られるピーターソン国際経済研究所も同様の懸念を示し、トランプ氏が構想するより大規模な関税案が実行された場合、平均的な米国世帯の負担は年間2,600ドル以上増える可能性があると試算しています。
鉄鋼・アルミ関税が示す現実:数字で見る影響
2023年に米国際貿易委員会(USITC)がまとめた報告書は、2018~2021年にかけて導入された通商拡大法232条(Section 232)や通商法301条(Section 301)に基づく関税の影響を具体的な数字で示しました。
- 鉄鋼輸入は24%減少し、米国内の鉄鋼価格は2.4%上昇
- アルミニウム輸入は31%減少し、国内価格は1.6%上昇
- 国内生産は小幅に増加したものの、原材料価格の上昇が下流産業に重くのしかかった
関税によって特定の産業を守る効果が一部で見られたとしても、そのコストは自動車や機械、建設など鉄鋼・アルミを使う多くの分野に広がり、最終的には企業の投資や雇用、消費者価格に跳ね返ります。誰が本当に関税のコストを負担しているのかという問いが、あらためて突きつけられています。
米中経済関係と勝者なき関税戦争
今回の構想には、中国からの輸入品に追加で10%の関税を課す案も含まれています。世界最大級の経済圏である米国と中国の貿易関係が緊張すれば、サプライチェーンの分断や世界的なインフレ圧力など、波及効果は計り知れません。
ワシントンの中国大使館の劉鵬宇報道官は、米中の経済・貿易協力は本質的に互いに利益をもたらすものであり、貿易戦争や関税戦争に勝者は生まれないと強調しています。このメッセージは、米国だけでなく、多くの国々にとっても耳を傾ける価値のある警告と言えます。
日本の読者への問い:保護主義のコストをどう見るか
関税は一見すると自国産業を守るための強力なカードに見えますが、これまでのデータや各国の反応を見ると、負担の多くは企業と家計が背負わされ、国際関係の緊張も高まりがちです。
日本を含む多くの国と地域は、米国や中国、カナダ、メキシコとの貿易に深く依存しています。もし関税の応酬が再び激化すれば、為替や株価、輸出産業、ひいては私たちの日常の物価にも影響が及ぶ可能性があります。
関税による保護と、開かれた貿易がもたらす利益。そのバランスをどこで取るべきか。次期米政権の動きは、日本にとっても遠い国のニュースではなく、自分ごととして考えるべきテーマになりつつあります。
Reference(s):
A lose-lose proposition: Trump's tariffs spark global backlash
cgtn.com








