中国の2025年経済方針:AI+と「ラットレース」是正が示す新局面
2025年の中国経済では、科学技術、なかでも人工知能(AI)が引き続き重要な役割を担いながら、過度な競争を是正する動きも打ち出されています。本記事では、中国の中央経済工作会議で示された「AI+」イニシアチブと「ラットレース(内巻き)」対策が何を意味するのかを、日本語で分かりやすく整理します。
2025年の中国経済と科学技術イノベーション
中国の経済政策の方向性は、毎年開かれる中央経済工作会議で示されます。最新の会議では、来年に向けた経済運営の九つの重点任務が示され、その中で科学技術イノベーションが引き続き柱の一つとして位置づけられました。
会議の情報によると、科学技術の役割は「新質生産力」の育成と結びつけられています。「新質生産力」とは、高度な技術、高い効率、高い品質を特徴とする新しいタイプの生産力を指す概念で、2023年に打ち出されました。
「新質生産力」で目指す産業構造の転換
中国では、製造業の競争力を段階的に高めてきたプロセスが語られています。中国国際経済交流センターのシニア専門家諮問委員会メンバーである朱民氏は、「改革開放の最初の20年で、中国の製造業を世界で最も安いものにした。過去20年で、それを安くて質の良いものにした。今後20年は、イノベーションと産業を結びつけ、安くて良く、かつハイテクなものにしていきたい」と述べています。
この発言から見えるのは、「新質生産力」が単なる生産量の拡大ではなく、技術力と品質を伴った成長を指しているという点です。科学技術イノベーションは、その転換を支える中核とされています。
優先順位の変化:2024年から2025年へ
中央経済工作会議の説明によると、2024年の経済運営では、科学技術イノベーションが最優先事項の一つとして掲げられていました。一方、2025年に向けては、消費拡大など内需のテコ入れが優先事項の先頭に置かれています。
それでも、科学技術分野、とくにAIは、経済構造を高度化するための中核として引き続き重視されています。その象徴が、新たに打ち出された「AI+」イニシアチブです。
キーワードは「AI+」:唯一名指しされた重点産業
今回の科学技術関連の任務の説明では、具体的な産業として名指しされたのは人工知能(AI)のみでした。前年の説明では六つ以上の重点分野が列挙されていたのに対し、2025年に向けてはAIに焦点を絞る形になっています。
「AI+」という表現は、AIを個別の産業としてではなく、さまざまな産業や分野に横断的に組み込む発想を示していると理解できます。製造業、サービス産業、さらには行政や社会インフラまで、幅広い領域でAIを活用して生産性と品質を引き上げていく構想です。
製造業の高度化とAI
中国の製造業は、世界の製造業全体の30.3%を占めるとされています。これだけ大きな比重を持つ製造業にAIによる自動化や最適化が入ってくると、国内だけでなく世界のサプライチェーンにも影響を与え得ます。
朱民氏が述べた「安くて良く、そしてハイテクに」という方向性は、AIによって生産プロセスを高度化し、コスト競争だけに依存しない競争力を確立しようとするものといえます。日本企業にとっても、取引先や競合として関わる中国企業の技術水準の変化は、注視すべきポイントです。
拡大する生成AI市場
中国では、生成AI(文章や画像、音声などを自動生成するAI)の市場も急速に拡大しています。2024年6月時点で、生成AI製品のユーザー数は2億3,000万人に達し、関連するコア産業の規模は約6,000億元(約828億ドル)に近づいたとされています。
ユーザー数と市場規模の双方がここまで拡大していることは、AIが一部の先端企業だけでなく、幅広い産業や一般のユーザーにも浸透し始めていることを示しています。2025年の経済運営で「AI+」が打ち出された背景には、こうした市場の広がりもあります。
政策レベルで高まるAIの重要性
中国では、AIの重要性はここ数年、国家レベルの会議でも繰り返し強調されてきました。2022年10月の中国共産党第20回全国代表大会では、情報技術、バイオテクノロジー、新エネルギーなどと並び、AIが発展を牽引する重要分野として位置づけられました。
さらに、2024年7月の中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議では、AIの発展と規律の両方を重視する必要性が強調されています。つまり、中国はAIの急速な普及を推進しながらも、ルールやガバナンス(統治)とのバランスを意識していることになります。
「ラットレース」からの脱却:内巻きへの対処
今回の中央経済工作会議では、科学技術の推進と並んで、「ラットレース」的な競争への対処も明示されました。ここで言われる「ラットレース」は、中国語の流行語「内巻き(ネイジュアン)」を指し、長時間労働や過度な競争が続くことで、個人にも企業にも十分な成果がもたらされず、疲弊だけが蓄積する状況を意味します。
清華大学中国発展計画研究院の董煜氏は、「意思決定者がこの問題を認識し、対処する意図を明確に示した」と述べています。そのうえで、この方針によって、利益配分の公正さが高まり、中小企業にとっても成長機会が増えることで、産業エコシステムが改善されることが期待されると指摘しています。
中小企業にとっての意味
ラットレース的な競争が強い市場では、大企業がシェアや投資を競い合う一方で、中小企業には十分な利益や成長余地が残らないことも少なくありません。董氏が期待を寄せる「より公正な利益分配」と「中小企業の成長機会の拡大」は、イノベーションの担い手を多様化し、市場全体の活力を高める方向性といえます。
AIやデジタル技術は、本来、中小企業にとっても生産性向上や新サービス開発の手段となり得るため、競争の質を改善する政策と組み合わされれば、新たなビジネスチャンスにつながる可能性があります。
地域・産業ごとに異なる成長パス
中国社会科学院工業経済研究所の李偉副研究員は、「ラットレースから脱するためには、狙いを定めた形で生産力を発展させる必要がある」と強調します。そのうえで、各地域や各産業がそれぞれの特徴や強みに合わせた発展ルートを選び、「一斉に同じ方向へ走る」ことや「バブルの形成」を避けるべきだと述べています。
これは、単に投資額や規模を競うのではなく、地域ごとの比較優位や産業ごとの専門性を活かしながら、質の高い成長を目指すべきだというメッセージです。AIや新質生産力の議論は、こうしたメリハリのある産業政策とも結びついています。
日本の読者にとっての意味:国際ニュースとしてどう読むか
日本の読者にとって、中国の経済方針や科学技術政策は、単なる隣国のニュースにとどまりません。いくつかの観点から、2025年の中国経済・AI戦略は注目に値します。
- 貿易・サプライチェーン:中国の製造業における「AI+」の進展は、日本企業の調達や競争環境にも影響し得ます。
- 技術競争と協力:AIや生成AIの市場拡大は、国際的な技術協力や標準づくりにも関わってきます。
- 働き方・競争観の問題:「ラットレース」からの脱却というテーマは、長時間労働や過度な競争が課題とされる日本社会とも重なる部分があります。
2025年の中国経済をめぐるキーワードである「AI+」「新質生産力」「ラットレース是正」は、経済成長とイノベーション、そして人々の働き方をどう両立させるかという、より広い問いにもつながっています。国際ニュースとしてフォローしながら、自分たちの社会や働き方を考えるヒントとして捉えてみる価値がありそうです。
Reference(s):
Sci-tech to maintain its key role in China's economic work in 2025
cgtn.com








