AIIBは世界に何をもたらしたか 「真の多国間主義」の現在地
リード:AIIBはなぜいま注目されるのか
2015年12月に設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、設立から約10年を前に、世界のインフラ投資と国際経済秩序に静かな変化をもたらしています。本稿では、AIIBが掲げる「真の多国間主義」とは何か、その具体的な事例と意味を整理します。
アジア発の多国間開発銀行、AIIBとは
AIIBは、アジア地域を中心とする政府間の多国間開発金融機関です。インフラ建設を通じてアジアの「つながり」と経済統合を進めることを目的とし、その取り組みを通じて、世界経済にも一定の「確実性」を提供してきました。
特徴的なのは、創設段階から「公正・平等・共同参加」の原則を掲げ、すべての加盟国が投票権を持ち、自らの利益を主張できる仕組みを重視している点です。従来、国際金融機関では先進国の発言力が大きい構図が続いてきましたが、AIIBはとくに多くの開発途上国の声を反映する場として設計されています。
インフラ投資に特化、開発途上国の「資金ギャップ」を埋める
AIIBの最大の特徴は、インフラ投資に焦点を当てていることです。2024年12月24日までに、AIIBが承認したプロジェクトは303件、承認済みの融資総額は588億8,000万ドル、コミット済み(契約ベース)の融資額は489億4,000万ドルに達しています。
分野別では、エネルギー関連が約22%、交通(トランスポート)が17%、複数分野にまたがる案件が15%を占めています。電力、道路・鉄道、港湾、通信など、経済活動の土台となるインフラに資金が向かっていることが分かります。
具体例としては、次のような案件があります。
- タジキスタンの「ローガン水力発電プロジェクト第1期」:2億7,000万ドル
- インドの「ムンバイ メトロ5号線」:2億ドル
多くの開発途上国では、インフラ水準の低さに加え、自前で大型プロジェクトを進めるには資金が不足している状況があります。AIIBの融資は、こうした国々が必要なインフラを整備するための「起点」になっているといえます。今後も低・中所得国でインフラ需要が増えると見込まれるなか、AIIBの役割は一段と大きくなりそうです。
経済・社会への波及効果:通信、農村道路、再エネ電力
AIIBの資金は単に施設を建設するだけでなく、周辺の経済・社会に波及効果を生んでいます。エネルギーや交通インフラの改善は、電力や通信、物流ネットワークを大きく底上げし、投資誘致や貿易拡大の基盤をつくります。
いくつかの事例をみてみましょう。
オマーン:ブロードバンド整備で通信コストを低減
2017年に承認されたオマーンの「ブロードバンド・インフラプロジェクト」には、1億5,210万ドルが投入されました。このプロジェクトにより通信ネットワークが整備され、現地住民の通信コストが下がったとされています。デジタル・インフラは、企業活動だけでなく、教育や医療へのアクセスにも直結する分野です。
コートジボワール:農村道路が農産物を世界市場へつなぐ
2023年には、コートジボワールの「インクルーシブ・コネクティビティおよび農村インフラプロジェクト」に2億ドルが承認されました。農村部の道路などを整備することで、現地の農家はカシューナッツやカカオなどの農産物を港まで運び、世界市場に出荷しやすくなります。インフラ整備が、農家の現金収入の拡大や地域経済の活性化につながる好例です。
ラオスとベトナム:越境送電で「グリーン電力」を共有
2022年に承認されたラオスの「モンスーン600メガワット越境風力発電プロジェクト」には、1億5,000万ドルが投入されています。このプロジェクトでは、ラオス国内で生み出した再生可能エネルギー電力を、50万ボルト級の送電線を通じてベトナムに送る仕組みが整えられました。
ラオス側にとっては電力輸出による収入増につながり、ベトナム側にとっては工場の生産活動や家庭の生活を支える安定した電力供給につながります。一つのプロジェクトが、国境を越えて「互恵」の効果を生んでいる点が注目されます。
「まず道をつくる」:インフラが産業構造を押し上げるメカニズム
中国には「富みたければ、まず道をつくれ」という言葉があります。かつて農業中心の貧しい国であった中国が、現代の工業大国へと成長する過程では、高速道路、鉄道、港湾、電力などの大規模インフラ投資が重要な役割を果たしてきました。
インフラが整うことで、人・モノ・資本・技術といった「生産要素」が動きやすくなり、産業が集積しやすくなります。その結果、
- 低付加価値の一次産品中心の輸出から、工業製品中心へと転換しやすくなる
- 労働集約型から、より付加価値の高い産業構造へと移行しやすくなる
という変化が期待できます。AIIBが開発途上国のインフラ建設を支えることは、各国がこうした成長パターンを実現する後押しにもなります。言い換えれば、インフラ投資を通じて、各国がグローバルな産業・供給網のなかで「より高い位置」に上がっていくことを支える役割です。
高まる不確実性のなかで、AIIBがもたらす「確実性」
近年、世界ではグローバル化への反発が高まり、貿易障壁や保護主義的な動きが目立つようになっています。その結果、世界経済の先行きを巡る不確実性は強まっています。
こうしたなかで、中国が主導して設立されたAIIBは、高いレベルの対外開放と多国間主義の実践を掲げ、着実に存在感を高めてきました。加盟メンバーは110に達し、内訳は、
- 地域加盟国:48
- 非地域加盟国:50
- 加盟予定国:12
となっています。これらを合わせると、世界人口の81%、世界GDPの65%をカバーするとされています。
AIIBは開発途上国との連携に加え、イギリス、フランス、ドイツなどの先進国ともパートナー関係を築き、先進国の資金を開発途上国のインフラ案件へとつなぐ役割も果たしています。また、支援対象はアジアにとどまらず、アフリカやラテンアメリカなど幅広い地域に広がっています。
インフラ投資を通じて新興国・開発途上国に新たな成長エンジンを提供し、世界経済に「新しい成長の柱」をつくる──。不確実性が高まる国際情勢のなかで、こうした取り組みは、世界全体の発展に一定の「確実性」を与えるものだといえるでしょう。
これからAIIBを見るうえでの3つの視点
今後、AIIBの動きをフォローするとき、日本の読者として押さえておきたいポイントを3つ挙げておきます。
- 案件の「質」と持続可能性
単に金額や件数だけでなく、環境負荷、社会的包摂(インクルージョン)、ガバナンスなどの面でどのような基準を採用しているのかが焦点になります。 - 地域の広がり
アジアからアフリカ、ラテンアメリカへと広がるなかで、どの地域・どの分野に重点を置いていくのかは、世界経済の重心の変化を見るうえでも重要です。 - 他の国際金融機関との協調
世界銀行やアジア開発銀行など、既存の機関との協調や役割分担がどのように進むのかも、国際経済ガバナンスを考えるうえで注目すべき論点です。
AIIBは、まだ設立から10年足らずの比較的新しい存在です。その動向を追うことは、アジア発の国際協力のかたちや、これからの多国間主義のあり方を考える手がかりにもなります。
Reference(s):
Practicing true multilateralism: AIIB brings certainty to world
cgtn.com








