日本製鉄、U.S. Steel買収「諦めない」 バイデン政権を提訴
日本製鉄による米鉄鋼大手ユナイテッド・ステイツ・スチール(U.S. Steel)の買収計画をめぐり、ジョー・バイデン米大統領が取引を阻止する決定を出したことに対し、日本製鉄が正面から争う姿勢を鮮明にしています。橋本英二社長は、決定は政治的動機によるものであり、同社は買収を「諦める考えはない」と強調しました。
バイデン大統領が買収を阻止、日本製鉄は提訴
米政府は先週、約141億ドル規模とされる日本製鉄によるU.S. Steel買収について、安全保障上の懸念を理由に、バイデン大統領の命令で取引を禁止しました。命令では、日本製鉄とU.S. Steelに対し、対米外国投資委員会(CFIUS)が延長を認めない限り、一定期間内に取引を正式に断念するよう求めています。
これに対し日本製鉄は、米政府とU.S. Steel側のライバル企業であるクリーブランド・クリフスを相手取り、米国で訴訟に踏み切りました。訴えの相手には、クリーブランド・クリフスの最高経営責任者(CEO)であるロレンソ・ゴンサルベス氏や、米鉄鋼業界の有力労組ユナイテッド・スチールワーカーズ(USW)のデビッド・マコール委員長も含まれています。
日本製鉄「憲法と法律に明確に反する決定」
橋本社長は記者会見で、バイデン大統領の決定について「訴訟を通じて明らかになるさまざまな事実が、この決定が憲法や法律に明確に反していることを示すと確信している」と述べました。
さらに、対米外国投資委員会による審査が、大統領による違法な介入のために適切に行われなかったと主張し、「到底受け入れられない」と強い言葉で批判しました。日本製鉄は訴状で、バイデン大統領が自らの政党の支持基盤でもある労組USWの支持を得るために、法の支配を無視したと訴えています。
ライバル企業と労組の共謀を主張
日本製鉄は米政府への訴えとは別に、クリーブランド・クリフスとその経営陣、USWのマコール委員長を相手取る訴訟も起こしました。訴状によれば、彼らがクリーブランド・クリフス以外のどの企業によるU.S. Steel買収も阻止するために共謀したと主張しています。
日本製鉄とU.S. Steelは共同声明で、こうした行為は恐喝的な手法や独占的な共謀にあたるとしつつ、それでもなお取引の完了を目指す姿勢を示しました。両社は「U.S. Steelの将来を守る最善の道は日本製鉄との取引であり、その権利を守るために全力で対応する」としています。
なぜここまでこだわるのか 日本製鉄の狙い
橋本社長は、U.S. Steel買収について「当社の経営戦略上、最重要の案件であるだけでなく、日本と米国の双方にとって極めて有益だ」と語りました。これは単なる企業規模の拡大ではなく、日米の産業基盤をつなぐ長期的な投資だという認識です。
日本製鉄にとっては、世界最大級の鉄鋼市場である米国での拠点強化や、自動車向け高級鋼板などの分野でシナジー(相乗効果)を得る狙いがあります。一方、U.S. Steel側にとっても、日本製鉄の技術力や資本力を取り込むことで、老朽化した設備の更新や競争力の強化につながるとされています。
米国の安全保障リスクと政治の影
バイデン大統領は、今回の買収を阻止した理由として米国の国家安全保障へのリスクを挙げています。鉄鋼は軍需やインフラに不可欠な戦略物資であり、米国内では長年、基幹産業として手厚い保護と監視の対象となってきました。
一方で、日本製鉄は、安全保障上の懸念は法的手続きに基づき冷静に検証されるべきであり、特定の労組や国内政治への配慮が優先されたと批判しています。特に、バイデン大統領の政党を支える労組USWが早くから買収に反対を表明していたことから、政治と選挙を意識した判断ではないかという見方が日本製鉄側には強くあります。
裁判所がどのように判断するかは未知数ですが、安全保障と市場原理、そして政治が複雑に絡み合う構図が浮かび上がっています。
日本企業の対米投資に与える影響は
今回の事案は、日本企業全体にとっても無関係ではありません。とりわけ、米国企業の買収や大型投資を検討する企業にとっては、次のような点が改めて意識されることになりそうです。
- 安全保障や雇用に関わる産業では、法令を満たしていても政治判断で計画が覆るリスクがある
- 労組や業界団体、ライバル企業との関係性が、審査や世論に影響を与えうる
- CFIUS審査など制度面だけでなく、米国内政治の動向を読み解く力が重要になっている
日本製鉄とU.S. Steel側が「それでも取引を完了させる」と表明したことで、今後の裁判の行方は、対米投資のリスク認識を左右する試金石として注目されます。
これからの焦点 日本製鉄と米政府の攻防
今後の主な焦点は、次のような点です。
- 裁判所がバイデン大統領の命令を違憲・違法と認めるかどうか
- CFIUSによる審査手続きがやり直されるか、それとも現状維持となるか
- U.S. Steelの競争環境や米鉄鋼業界全体への影響
- 他の日本企業による対米M&Aや投資戦略にどこまで波及するか
橋本社長は「諦める理由も必要性もない」と述べ、U.S. Steelとの合意を守る姿勢を繰り返し強調しました。法廷闘争は長期化する可能性もありますが、その過程で、国家安全保障を理由とする投資制限がどこまで許されるのかという、より大きな問いが突きつけられることになりそうです。
このニュースは、国際ニュースとしての重要性にとどまらず、グローバルに事業を展開するとはどういうことかを、日本の読者に改めて考えさせる出来事と言えるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








