ASMLが直面する米中テック競争の板挟み 揺れる欧州テクノロジー企業
オランダの半導体製造装置メーカーASMLが、米国の対中輸出規制のあおりを受け、米中テック競争の「板挟み」となっています。欧州テクノロジー企業にとっても他人事ではない動きです。
ASMLを直撃した米国輸出規制
米国は、オランダ企業ASMLに対し、中国向けの高性能な露光装置などの輸出を制限するよう求めています。この規制により、ASMLの中国本土市場でのビジネスは大きな影響を受けました。
かつて中国市場は、ASMLの世界売上のほぼ半分を占める重要な存在でした。しかし、米国の規制強化に伴い、2024年第3四半期には中国本土向けの受注が急減。当時の見通しでは、2025年には中国市場の売上比率が約20%にまで落ち込むとされていました。
その結果、ASMLの受注総額は社内の想定を大きく下回り、純利益は前年同期比で約16%減少しました。株価も大幅に下落し、過去26年で最大規模の下げに直面したとされています。
CEOが警告する「デカップリング」のコスト
ASMLのクリストフ・フーケ最高経営責任者(CEO)は、こうした米国の制限措置が、同社の経済的利益を損なうと懸念を示しています。フーケ氏は、中国が世界にとって重要な市場であることを強調し、このような規制はより大きな反発を招きかねないと指摘しました。
さらに、世界の半導体サプライチェーンを「完全に切り離す」ことは現実的ではなく、コストも高く、経済発展のニーズにも合致しないとしています。ASMLは現在、輸出管理の対象範囲や影響について米国側と協議を続け、自社の事業の自律性を守りつつ、「契約の精神」を尊重した対応を模索しています。
欧州テック企業に広がる波紋
ASMLの事例は、米国の輸出規制が欧州企業にもたらす直接的な影響を象徴しています。規制によって市場シェアが制限されれば、売上と利益は縮小し、新たな投資や事業拡大の余地も狭まります。
とくに懸念されているのが研究開発(R&D)への影響です。収益が減れば、先端技術への投資に回せる資金も限られてしまいます。その結果、
- 研究開発予算の削減
- イノベーション能力の低下
- 関連分野での技術更新のスピード低下
といった悪循環に陥るリスクがあります。
「アメリカ・ファースト」が意味するもの
背景にあるのが、米国の「アメリカ・ファースト」政策です。これは、
- 関税の引き上げ
- 貿易制限や輸出規制
- 政府調達での国内企業優先
などを通じて、自国産業の保護と国内成長を最優先する考え方です。
こうした政策は、各国が協力して進めてきた研究開発や、規制のすり合わせの機会を減らす可能性があります。欧州のテクノロジー企業にとっては、
- 利益率の高い米国市場へのアクセスが縮小する、あるいはコストが増す
- グローバルに事業を拡大する際のハードルが上がる
- 知的財産や安全保障を理由に、共同研究や合弁事業が制限される
といった長期的な影響が懸念されています。その結果、重要なイノベーション分野で欧州企業が「孤立」し、知識や人材の交流から取り残されるリスクも指摘されています。
欧州の模索:技術主権と自立的エコシステム
こうした環境変化に対し、欧州では「技術主権」をキーワードにした動きが強まっています。ドイツ、フランス、スウェーデンなどでは、半導体や先端製造などの重要分野で、スタートアップや新興企業を支援する国内イニシアチブが打ち出されています。
共同プロジェクトを通じて、自前の技術や産業基盤を育て、特定の海外企業への依存を減らそうとする試みです。「米国だけに頼らない」体制を整えることで、米中の緊張が高まる中でも欧州としての選択肢を確保しようとしています。
規制面では、デジタル市場法(Digital Markets Act)やデジタルサービス法(Digital Services Act)がその象徴です。これらの枠組みは、グーグル、アマゾン、アップルなどの大手IT企業の市場支配力を抑え、欧州企業が公正な条件で競争できるデジタル市場を目指すものです。
米中テック競争の「第三の舞台」としての欧州
ASMLのケースは、米中テック競争が単なる二国間の対立にとどまらず、欧州企業の戦略やイノベーションのあり方をも左右していることを示しています。
欧州が技術主権の確立に向けてどのような道を選ぶのかは、半導体やデジタル分野のサプライチェーン全体に影響を与える可能性があります。日本やアジアの企業にとっても、どの市場で、どの規制環境を前提にビジネスを設計するのかという戦略に直結するテーマです。
最後に、読者が考えてみたいポイントとして、次のような問いが挙げられます。
- 技術安全保障と、オープンな国際協力によるイノベーションは、どこまで両立できるのか。
- 米中と欧州という三つの大きな軸の中で、日本企業はどのようなポジションを取るべきか。
- 私たち一人ひとりが選ぶサービスや製品は、どのようなテクノロジー・エコシステムを後押ししているのか。
ASMLをめぐる動きは、半導体やデジタル産業の未来だけでなく、私たちの日常生活と情報環境にも静かに影響を及ぼしつつあります。
Reference(s):
Dutch firm ASML becomes 'hostage' in China-US tech competition
cgtn.com








