日本製鉄によるU.S.スチール買収、米政権が破談命令を延長 日米ビジネスに波紋
2025年に入り、日米の大型M&Aが国家安全保障を理由に足止めされる事態が続きました。象徴的なのが、日本製鉄による米鉄鋼大手U.S.スチールの買収計画です。本記事では、この日本語ニュースをもとに、取引の行方と日米関係への影響を整理します。
何が起きたのか:延長された「破談命令」
日本製鉄は、約149億ドル規模でU.S.スチールを買収する計画を進めてきました。しかし米政権は、国家安全保障上の懸念を理由に、2025年1月3日にこの買収を阻止しました。
その後、バイデン政権は、大統領令で日本製鉄側に求めていた「取引の恒久的な断念」の期限を、2025年6月18日まで延長しました。日本製鉄とU.S.スチールは共同声明で、
「CFIUS(対米外国投資委員会)が、大統領令に基づく取引断念の期限を2025年6月18日まで延長したことを歓迎します」
と述べ、
「米国の鉄鋼業界とすべてのステークホルダーにとって最良の未来を確保するこの取引を完了したい」
と、統合実現への意欲を改めて示しました。
期限の延長は、バイデン大統領の決定に対して、両社が起こした訴訟を裁判所が審理する時間を確保する狙いがあるとされています。
大統領をまたいだ反対:バイデン氏とトランプ氏
今回の買収計画には、民主党のジョー・バイデン大統領だけでなく、後任となる共和党のドナルド・トランプ氏も反対の立場を取っています。日系企業による米企業買収で、現職と次期大統領がそろって異議を唱えるのは異例といえます。
労働組合の全米鉄鋼労組(United Steelworkers)も取引に反対しており、政権側や財務省、組合側の弁護士は、延長発表当時コメントに応じていませんでした。
日本製鉄とU.S.スチールは、バイデン政権を相手取り提訴し、CFIUSによる審査がバイデン氏の一貫した反対姿勢に影響され、公平な審査を受ける権利を侵害されたと主張しました。両社は連邦控訴裁判所に対し、大統領の決定を取り消し、新たな審査の機会を与えるよう求めています。
CFIUSとは何か:国家安全保障の「ゲートキーパー」
CFIUSは、財務長官を議長とする省庁横断の審査機関で、米企業への外国投資が国家安全保障に与える影響をチェックします。通常は、CFIUS自身が案件を承認または是正勧告するか、必要に応じて大統領に勧告を行います。
しかし日本製鉄とU.S.スチールの案件では、委員会内で合意に至らず、最終判断が大統領に委ねられました。イエレン財務長官は、今回の取引について「徹底した分析」を行ったと説明しています。
CFIUSが、主要7カ国(G7)に含まれる日本の企業による投資案件を退けることは多くなく、この点でも今回のケースは注目を集めました。
日本側の懸念:日米同盟と投資環境への影響
日本の岩屋毅外相は、米国務長官を退任するアントニー・ブリンケン氏との会談で、バイデン大統領が国家安全保障を理由に取引を阻止したことについて「極めて遺憾だ」と伝えたと明らかにしました。
公共放送NHKの番組に出演した岩屋外相は、
「日米同盟という広い文脈が非常に重要であり、それを損なわないよう、この取引を適切に扱うことが不可欠だ」
と指摘しました。
さらに、
「日本は米国への最大の投資国だ。ビジネス界には広範な不安が広がっており、米国に対し懸念の解消を引き続き求めていく」
と述べ、日米経済関係全体への波及を懸念する姿勢を示しました。
日系企業が学べる3つの視点
今回の日本語ニュースは、一つのM&A案件を超えて、今後の対米投資を考えるうえで多くの示唆を与えます。ポイントを3つに整理します。
- 1. 政治リスクは超党派で現れることもある
鉄鋼のような象徴性の高い産業では、与野党を問わず政治家が強いメッセージを出しやすくなります。与党と野党、現職と次期大統領の双方がどう見ているかを早い段階から確認することが重要です。 - 2. 「国家安全保障」の範囲は広がっている
安全保障の対象は、軍事技術だけでなく、供給網(サプライチェーン)や基幹インフラ産業にも及びます。自社の事業がどのような形で国家安全保障と結びつきうるのか、投資前に丁寧に分析しておく必要があります。 - 3. 労働組合や地域社会との関係が鍵になる
全米鉄鋼労組が強く反対したことは、労働者や地域社会の理解を得ることの重要性を改めて示しました。クロスボーダーM&Aでは、価格だけでなく、雇用や設備投資の計画を丁寧に説明し、信頼を積み重ねる戦略が欠かせません。
交差する安全保障・経済・政治
日本製鉄とU.S.スチールの統合をめぐる攻防は、国家安全保障、経済政策、選挙政治が複雑に交差する現代の国際ニュースの典型例だといえます。2025年6月18日まで延長された「破談命令」の期限と、その間に進んだ法廷闘争は、日米ビジネスの新たなリスク環境を象徴する出来事となりました。
今後も、日本企業による対米投資や国際M&Aのニュースを、日本語で分かりやすく追いかけていくことが、リスクを読み解き、次の一手を考えるうえで重要になっていきます。
Reference(s):
Companies keen after U.S. delays nixing Nippon Steel-U.S. Steel merger
cgtn.com








