トランプ政権が再びパリ協定離脱 それでも止まらないクリーンエネルギー
リード:トランプ米大統領が就任直後、パリ協定など気候変動に関する国際合意から再び離脱する大統領令に署名しました。短期的には国際交渉や気候資金に揺さぶりをかけますが、世界のクリーンエネルギー転換はすでに後戻りしにくい段階に入っていると指摘されています。
トランプ政権が再びパリ協定離脱へ
トランプ氏は就任直後、2015年に採択されたパリ協定と、国連気候変動枠組み条約のもとで結ばれた複数の合意や約束から、米国を再び離脱させる大統領令に署名しました。これにより、これまでの政権が築いてきた米国の気候変動対策のレガシーは大きく後退し、化石燃料の開発と利用を後押しする方向へと舵が切られました。
同時に、再生可能エネルギーや省エネへの転換も遅れ、米国のクリーンエネルギーシフトは一段と不透明になっています。
気候懐疑論、化石燃料ロビー、AI電力需要という背景
トランプ氏は長年にわたり気候変動に懐疑的な立場をとり、気候問題そのものを否定する言動も繰り返してきました。今回の再離脱の背景には、次のような要因が重なっているとみられます。
- 石油や石炭など伝統的な化石燃料産業による強力なロビー活動
- 人工知能の急速な発展に伴う電力需要の増加圧力
- 大国間競争や地政学的対立の激化による、エネルギー安全保障をめぐる思惑
こうした要因を踏まえると、トランプ氏が再び気候政策を逆回転させたことは、驚きというより想定の範囲内だったとも言えます。
パリ協定への打撃は悪影響の見せしめ効果
パリ協定は、すべての参加国が一定期間ごとに自国の排出削減目標を引き上げていくことを前提にした枠組みです。本来であれば、各国は2025年2月までに新たな目標を示すことになっていました。
その直前に米国が再び離脱に動いたことで、次のような見せしめ効果が懸念されました。
- 一部の国が様子見姿勢を強め、短期的に野心的な目標設定を避ける
- 主要排出国の一つである米国が抜けることで、他国の政治的意欲がそがれる
つまり、トランプ政権の気候政策は、パリ協定の実行プロセスを鈍らせる圧力として働きかねないのです。
気候資金カットで開発途上国はどうなるか
トランプ氏は、米国の国際的な気候資金拠出計画を即時に停止し、撤廃すると表明しました。現在、米国は国際的な気候資金の最大の拠出国とされています。その米国が資金拠出を拒めば、短期的には他の先進国だけでその穴を埋めるのは難しく、大きな資金ギャップが生じます。
この結果、開発途上国には次のような影響が出るとみられます。
- 太陽光や風力などクリーンエネルギー技術への投資が減り、導入ペースが落ちる
- 洪水や干ばつなど気候リスクへの適応策に充てる資金が不足する
気候変動の影響をより強く受ける地域ほど、資金不足によって打撃を受けやすい構図が浮かび上がります。
それでも世界のクリーンエネルギー転換は止まらない
とはいえ、トランプ氏の姿勢がパリ協定の履行意欲や能力に影響を与えるとしても、国際的な気候ガバナンスの枠組みそのものが崩壊するわけではありません。また、世界全体のクリーンエネルギーへの転換が逆回転することもないと指摘されています。
国際エネルギー機関のファティ・ビロル事務局長は、トランプ氏の再登場によってもエネルギー転換は止まらないとの見方を示しています。背景には、トランプ氏の初の政権期とはまったく異なる世界の状況があります。
2015年当時、各国はパリ協定でようやく大枠の合意に達した段階でした。これに対し、2024年までの約10年間で、各国は国内での排出削減やクリーンエネルギー推進を進め、自国経済と競争力を高めようとしてきました。
数字で見るエネルギー転換の加速
再生可能エネルギーの普及とコスト低下は、トランプ政権の方針を超えて進んでいます。国際再生可能エネルギー機関のデータによると、次のような動きが確認されています。
- 世界の再生可能エネルギー設備容量は、2015年の1,985ギガワットから2023年には3,865ギガワットへとほぼ倍増
- 太陽光発電の発電コストは、2010年から2023年の間に約90パーセント低下し、1キロワット時当たり0.460ドルから0.044ドルへ
- 風力発電の平均発電コストも同期間に約70パーセント下がり、1キロワット時当たり0.111ドルから0.033ドルへ
つまり、クリーンエネルギーは環境面だけでなく、経済的にも魅力的な選択肢になりつつあります。この経済合理性こそが、世界のエネルギー転換を支える最大の原動力になっています。
米企業の投資効率低下と競争力へのブーメラン
気候変動対策やクリーンエネルギーへの転換には、環境保護だけでなく経済的な動機が強くなっています。こうした流れのなかで、米国がパリ協定から再び離脱し、政策の先行きに不確実性を持ち込むことは、米企業にとって次のようなリスクを伴います。
- クリーンエネルギー関連の投資判断が難しくなり、投資効率が下がる
- 長期的な技術開発や設備投資で、他地域の企業より出遅れる可能性が高まる
その結果、クリーンエネルギー分野での競争において米国企業が不利になり、米国全体の経済競争力と国際的な影響力がむしろ損なわれる恐れがあります。トランプ政権の選択は、短期的には政治的メッセージになる一方で、中長期的には自国の利益を削りかねないブーメランとも言えます。
まとめ:揺れる米国、それでも続くエネルギー転換
今回の分析から見えてくるポイントを、あらためて整理します。
- トランプ政権のパリ協定再離脱は、パリ協定の実行や国際的な気候資金に短期的な悪影響を与える
- しかし、再生可能エネルギーのコスト低下と投資の拡大に支えられた世界のクリーンエネルギー転換は、すでに後戻りしにくい段階にある
- 最も大きな代償を払うのは、クリーンエネルギー競争での立ち遅れが懸念される米国自身であり、長期的には米国の競争力と影響力を削ぐ可能性がある
本稿は、中国社会科学院アメリカ研究所の研究員による分析をもとに、新しいトランプ政権の気候政策が国際社会にもたらす意味を整理しました。米国の揺れ動く姿勢とは対照的に、世界のエネルギー転換は静かに、しかし着実に進み続けています。
Reference(s):
Trump's second withdrawal from Paris Agreement to have limited impact
cgtn.com








