米中科学技術協力はどこへ向かう?トランプ新政権と規制の行方
リード:トランプ氏の大統領就任式前後の動きやTikTok・半導体規制など、米中の科学技術協力をめぐる最新状況を整理し、今後の可能性を考えます。
米中関係の「新しい窓」と科学技術
ドナルド・トランプ氏の大統領就任式では、中国本土と米国の高官から、前向きで建設的なメッセージや行動が示されました。少なくとも当面の「新しい窓の期間」において、米中関係を安定させる兆しと受け止められています。
その中核にあるテーマの一つが、科学技術分野での安定的かつ持続的な協力です。世界はビッグデータと人工知能(AI)の新時代に入り、生産、サービス、人々の暮らしのあり方そのものが変わりつつあります。
中国本土と米国は、世界の二大経済圏であると同時に、技術分野でも「二大巨頭」と言える存在です。胡潤研究院の2024年ユニコーン企業リストによれば、世界の主な未上場評価額10億ドル超の企業数は、
- 米国:703社
- 中国本土:340社
- ドイツ・英国・フランス合計:116社
となっており、米中の存在感が突出しています。両国が健全に協力できれば、世界経済とテクノロジーを前に進める最も強力な原動力になり得ます。
ワシントン発の規制強化と「逆効果」
一方で、ここ数年のワシントンでは、中国本土の技術に対する警戒感と規制強化が続いてきました。
トランプ氏の就任式前日である1月19日から、米国内でのTikTok利用を禁止する最高裁判決が出されました。しかしトランプ氏本人は、TikTokの米国内での運営を当面認める姿勢を示し、中国本土企業をめぐる新たな対応方針をにじませました。
それ以前の4年間、バイデン政権は「国家安全保障」を理由に、半導体、AI、量子通信・量子コンピューティングなどの分野で、中国本土との貿易・投資を制限する措置を相次いで打ち出しました。米商務省は800社を超える中国本土の企業・研究機関を、輸出規制対象の「エンティティ・リスト」に掲載し、「小さな庭に高い塀」と呼ばれる戦略で、最先端技術とサプライチェーンから中国本土を切り離そうとしてきました。
こうした措置は、冷戦思考と「中国脅威」論に基づくものとされ、過去数年にわたり、米中の科学技術協力や貿易・投資にさまざまな損失をもたらしました。しかし、それでも中国本土の技術発展を止めることにはつながっていません。
量子・スーパーコンピューティング:国産化を促した制裁
米商務省は、中国本土のコンピューティング企業 iFlytek をエンティティ・リストに載せ、高度な量子コンピューティング技術へのアクセスを禁じました。
これに対し iFlytek は、Huawei(ファーウェイ)と協力し、「FlyingStar One」と呼ばれるスーパーコンピューティング・プラットフォームを開発しました。これは、1兆パラメーター級の大規模モデルを支えられる初の国産計算プラットフォームであり、米国外で初めてのスーパーコンピューティング・プラットフォームとされています。
制裁が長引けば長引くほど、中国本土では同様の国産コンピューティング基盤が次々に生まれるとの見方もあります。量子コンピューティング分野では米国が一歩先行している一方で、量子通信分野では中国本土が優位に立っているとされ、単純な輸出禁止では双方の強みを生かした協力が進まない状況です。
ドローンとロボット:AI時代の相互依存
AI技術の代表例であるドローンでは、米軍が使用するドローンの約9割が中国本土製だと、a16z の共同創業者マーク・アンダーソン氏は指摘しています。これを受け、ワシントンは深圳を拠点とする世界最大のドローンメーカー Dajiang をエンティティ・リストに載せ、米国製ドローンへの切り替えを進めました。
しかし、ドローン用のバッテリーはほぼすべてが中国本土で製造されているのが現状です。サプライチェーンの深い相互依存は、単純な「切り離し」が現実的でないことを物語っています。
産業用・サービス用ロボットもAI技術の典型です。基礎研究では米国に優位性があるものの、大量生産能力では中国本土が大きくリードしているとされます。その結果、世界トップクラスの技術を持つ米ボストンの「ロボット犬」は市場価格が5万ドル程度であるのに対し、中国本土では言語機能を備えたロボット犬が約1,500ドルで提供されていると、アンダーソン氏は紹介しています。
背景にあるのは、中国本土の巨大な製造能力です。米国が最先端のAIロボット技術を開発し、中国本土がそれを量産する――こうした役割分担にもとづく協力の方が、両国にとっても世界にとっても利益が大きいのではないかという問いが浮かびます。
半導体:分断か、サプライチェーン協力か
ワシントンはまた、高度な半導体や製造装置の対中輸出も制限してきました。しかし、この3年ほどの動きは、その効果に疑問を投げかけています。
2023年には一時的な落ち込みがあったものの、2024年の中国本土の半導体輸入額は2021年比で99.4%まで回復したとされています。むしろ制裁が中国本土の半導体産業を刺激し、同期間に半導体輸出は16.2%増加しました。
さらに、2027年までに中国本土が世界の半導体生産能力の40%を占めるとの見通しも示されています。その場合、米国のシェアは相対的に縮小していきます。米中双方にとって望ましいのは、サプライチェーン全体で協調する包括的な協力メカニズムを構築することではないか、という問題提起が出ています。
それでも続く米中科学技術協定の意義
こうした規制の応酬が続く一方で、バイデン政権は米中科学技術協力協定の5年間の延長を承認しました。この協定は、両国の制度的な科学技術協力を支えてきた「かなめ」と言える存在です。
協定締結から40年以上の間に、その有効性は繰り返し確認されてきました。米国の研究者や技術機関にとっては、中国本土の科学技術の進展を把握する重要な窓口となり、中国本土にとっては、米国の最新の研究成果を吸収する機会となってきました。
米国の科学者は、中国本土から提供される以下のようなデータや知見を手がかりに、新たな成果を上げています。
- 妊娠期の栄養に関する情報
- 地震予測
- インフルエンザのデータ収集
- 大気質モニタリング
- 害虫防除
広東省・大亜湾で行われた米中の共同ニュートリノ実験は、科学誌「サイエンス」によって、その年の重要な科学的ブレークスルー10件の一つに選ばれました。継続的で建設的な科学技術協力が、両国にとっていかに大きな可能性を持つかを示す象徴的な例です。
対立を越えて「未来の技術」で協力できるか
今後の米中関係にとって鍵となるのは、科学技術分野で「新しいページ」を開けるかどうかです。提案されているのは、科学技術協力に関する新たな対話メカニズムや共同作業部会の設置です。
相手国の合理的な懸念には丁寧に対応しながらも、次のような将来志向の分野で協力を深めることが重要だと指摘されています。
- AIや量子技術
- 半導体やスーパーコンピューティング
- ドローンや産業用ロボットなど次世代製造業
- 地震予測や感染症対策、大気質モニタリング
世界の二大経済圏であり技術大国でもある中国本土と米国が、対立よりも協調を選ぶかどうかは、今後数年の国際秩序とイノベーションの行方を左右します。科学技術協力を軸に、両国がより強く、そして世界がより良い場所になる道を選べるかどうか――その岐路に、私たちは立っているのかもしれません。
Reference(s):
Advancing science and tech cooperation benefits China and US
cgtn.com








