インテリジェント時代のASEAN:世界が注目する成長と包摂のモデル
AIや量子コンピューティングなどが加速する「インテリジェント時代」の入口に立つ今、世界はどの地域を成長と安定のアンカー(いかり)として頼れるのでしょうか。その候補のひとつとして浮かび上がっているのが、東南アジア諸国連合(ASEAN)です。
地政学的な緊張、気候変動の深刻化、広がるデジタル格差、そして急速に高度化する人工知能(AI)。2025年の国際ニュースを見渡すと、こうした複合的なリスクが同時多発的に進行しています。そのなかでASEANは、コロナ禍を経てもなお「しなやかな強さ」と成長の約束を示し続けています。
コロナ禍の最中に見えた「ポスト・パンデミック」の可能性
2022年前後、世界が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと格闘し続けていた頃から、ASEANの「ポスト・パンデミック期における包摂的な成長と繁栄」の可能性が指摘されてきました。それから数年がたった今、その期待は単なる楽観論ではなかったことがデータから浮かび上がっています。
データで見るASEANの底力:投資と貿易が示すもの
最新のマクロ経済データからは、ASEANが世界経済のなかで存在感を高めている姿が見えてきます。
- ここ3年連続で、世界有数の対内直接投資の受け入れ先となっており、2023年の投資額は過去最高となる2300億ドルに達しました。世界全体では投資が減少傾向にあるなかで、逆風をものともしていない形です。
- ある試算では、ASEANの貿易は今後10年で約1.2兆ドル拡大し、輸出は現在よりほぼ90%増加すると予測されています。世界全体の貿易成長率が30%未満にとどまると見込まれるなかで、極めて高い伸びです。
- 域内総生産(GDP)は2015年の2.5兆ドルから、2023年には3.8兆ドルへと拡大しました。同じ期間に、域内貿易も2.3兆ドルから3.5兆ドルへと増加しています。
こうした投資と貿易の拡大は、ASEANの1人あたり所得を押し上げ、多くの人々の生活水準を引き上げてきました。2030年頃には、ASEAN全体が世界第4位の経済規模に達するとの見通しも示されています。
インテリジェント時代とは何か
こうした成長は、「インテリジェント時代」と呼ばれる新しい局面のなかで起きています。インテリジェント時代とは、人工知能(AI)、量子コンピューティング、ブロックチェーンといった高度なデジタル技術が、経済や社会のあらゆる領域に組み込まれていく時代だと整理できます。
かつての成長モデルが、資本や労働力、天然資源に依存していたとすれば、インテリジェント時代の成長は、データとアルゴリズム、ネットワークと協調の上に築かれるものです。ASEANは、まさにこの新しい成長モデルを試しながら、包摂的な繁栄につなげようとしている地域だといえます。
ASEANが統合をめざす「4つのインテリジェンス」
インテリジェント時代において成功するためには、単にデジタル化を進めるだけでは足りません。デジタル、環境、社会、地政学という4つのインテリジェンス(知性)をバランスよく統合することが求められます。
- デジタルのインテリジェンス:AIやデータを活用し、生産性を高めながら、新しいサービスや産業を生み出す力。
- 環境のインテリジェンス:気候変動に対応し、持続可能なエネルギーや資源の利用を進める力。
- 社会のインテリジェンス:急速な技術変化のなかでも、雇用や教育、社会保障を通じて、誰も取り残さない仕組みを整える力。
- 地政学のインテリジェンス:大国間の緊張が高まるなかでも、貿易と投資の橋渡し役として、安定した協力関係を築く力。
ASEANは、この4つのインテリジェンスを組み合わせることで、インテリジェント時代を乗りこなす「モデル地域」としての役割を世界に示しつつあります。
世界にとってのASEAN:何を提供し得るのか
では、インテリジェント時代において、ASEANは世界にどのような価値を提供し得るのでしょうか。データと現在の動きからは、少なくとも次の3つのポイントが見えてきます。
- 成長エンジンとしての役割:直接投資と貿易が拡大するASEANは、世界経済にとって重要な需要と供給の源になります。世界全体の貿易が鈍化するなかで、高い成長が期待できる市場が存在すること自体が、大きな安定要因です。
- 包摂的成長のモデル:ポスト・パンデミック期に「包摂的な成長と繁栄」が掲げられてきた背景には、成長の果実をいかに広く社会に行き渡らせるかという問題意識があります。ASEANがこの課題にどう向き合うかは、格差やデジタル・ディバイドに悩む世界の多くの国・地域にとっての参考になります。
- 技術とルールを結ぶ実験場:AIやブロックチェーンなど新しい技術は、経済の可能性を広げる一方で、倫理やガバナンス(統治)の課題も突きつけます。多様な国・地域から成るASEANが、どのようにルールづくりや協調の枠組みを整えていくかは、国際社会全体にとって示唆に富んだ「実験」となり得ます。
日本からASEANを見る視点:インテリジェント時代のヒント
日本を含む多くの国・地域にとって、ASEANの動きはもはや遠いニュースではありません。サプライチェーン、デジタルサービス、人材の行き来など、さまざまな場面で私たちの生活やビジネスとつながっています。
インテリジェント時代を前に、ASEANの経験から学べるポイントとして、次のような問いを自分たちに投げかけてみることができます。
- AIや量子技術の活用を、「効率化」だけでなく、社会の包摂や環境負荷の低減とどう結びつけるか。
- 貿易と投資の拡大が、国内の格差や分断を深めないようにするには、どのような制度や教育が必要か。
- 地政学的な緊張のなかでも、対立をあおるのではなく、協力の余地を広げるために何ができるか。
世界がインテリジェント時代へと舵を切るなかで、ASEANは「静かだが確かな変化」を積み重ねてきた地域として、これからの10年を考えるうえでの重要な参照点になりつつあります。国際ニュースを追うとき、経済指標の数字の裏側にあるこうしたストーリーにも目を向けてみると、新たな発見が見えてくるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








