ダボス会議2025で丁薛祥副総理が語った多国間主義と中国経済の3つのトレンド
2025年1月21日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議2025)で、中国の丁薛祥副総理が特別演説を行いました。国際ニュースとして注目されたこの演説では、多国間主義の重要性と中国経済の方向性が詳しく語られました。本記事では、その主なポイントを日本語で整理します。
習近平国家主席のメッセージを引き継いだダボス演説
丁副総理は冒頭、8年前に同じダボスの場で中国の習近平国家主席が問いかけた「世界はどうしてこうなったのか、我々はどうすべきか」という問題意識を振り返りました。習主席は当時、経済グローバル化を支持し、多国間主義を実践するという中国の立場を表明し、そのスピーチはクラウス・シュワブ会長から「太陽の光をもたらした」と評価されたといいます。
習主席は、世界経済を海の水にたとえ「海の水を小さな湖や小川に押し戻すことはできない」と述べ、保護主義を「光も空気も入らない暗い部屋」に閉じこもる行為だと警告しました。丁副総理は、そのメッセージはいまなお有効であり、人類社会が再び岐路に立つ中で、信頼と協力を強めるべきだと呼びかけました。
世界に向けた4つのメッセージ:多国間主義と協調
1. すべての国に利益をもたらす経済グローバル化
丁副総理は、経済グローバル化は生産力の発展と技術進歩がもたらす歴史の必然であり、後戻りできない流れだと強調しました。世界貿易機関(WTO)の統計を引用し、1995年以降、世界の貿易総額は年平均5.8%成長し、2023年には30.4兆ドルに達したと指摘しました。また、1995年から2022年の間に、中・低所得国の輸出シェアは16%から32%へと拡大し、先進国も成長と生活水準の向上という恩恵を受けていると述べました。
その上で、経済グローバル化は「誰かが得をし、誰かが損をするゼロサムゲームではなく、共に利益を分かち合うプロセス」だと位置づけ、保護主義や貿易戦争はどの国にとっても出口にならないと警告しました。課題はグローバル化を止めることではなく、より包摂的で持続可能な形へとアップデートし、「パイを大きくしつつ、公平に分配する」ことにあるというメッセージです。
2. 真の多国間主義を堅持する
国際情勢が不透明さを増すなかで、丁副総理は多国間主義を「世界平和を守り、人類の進歩を促す正しい道」であり、今日の困難を解く「黄金の鍵」と表現しました。国際問題はすべての国が協議して決めるべきであり、世界の未来もすべての国が共に決定すべきだという立場です。
2025年は国際連合(UN)創設80周年にあたります。丁副総理は、この節目にあわせて国連憲章の目的と原則へのコミットメントを再確認し、国連を中心とする国際システムと国際法に基づく国際秩序をしっかり守るべきだと主張しました。同時に、WTOを中心とする多角的貿易体制を支持し、開かれた、包摂的で、差別のない国際経済協力の環境を整える必要性を強調しました。
3. デジタル・グリーン時代の新しい成長エンジン
今回のダボス会議のテーマは『Collaboration for the Intelligent Age(知能化時代の協調)』でした。丁副総理は、人工知能(AI)、量子技術、バイオ医療などの先端分野で技術革命と産業転換が進み、デジタル・グリーン・インテリジェントな発展が加速していると指摘しました。
一方で、南北格差やデジタル格差、AI格差が拡大している現状にも触れ、科学技術の成果を人類全体のために活用するという原則を掲げました。具体的には、開発途上国におけるAI、スマート交通、スマートエネルギーなどの新たなインフラ整備を支援し、生活分野での情報技術の活用を進めることで、より多くの国がデジタル経済の「高速列車」に乗れるようにすべきだと呼びかけました。
4. 気候変動や安全保障など地球規模課題への共同対応
丁副総理は、気候変動、食料安全保障、エネルギー安全保障といった地球規模課題が頻発するなかで、連帯と協力こそが解決への道だと強調しました。演説では、習近平国家主席が提唱したグローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブ、グローバル文明イニシアチブを紹介し、これらが世界に対する重要な公共財になっていると位置づけました。
気候変動については、グリーンな転換は世界的な大きな潮流であり、根本的な解決策でもあると述べました。各国が公正で秩序立った、かつ公正な形でエネルギー転換を進め、新エネルギー産業チェーンの安定を保ち、グリーン製品や技術の普及を図るべきだと強調しました。また、環境・気候政策と経済・通商政策の一貫性を高め、「グリーン」を名目とした貿易障壁が通常の経済・貿易協力を妨げることがないようにすべきだと訴えました。
安全保障についても、対立や同盟ではなく、対話とパートナーシップを重視する新しい安全保障の道を模索する必要があると述べました。国連および安全保障理事会の役割強化を支持し、紛争の平和的解決に資するあらゆる努力を後押しする姿勢を示しました。
中国経済をめぐる3つのトレンド
丁副総理は、世界経済の議論において中国が重要なエンジンであると位置づけ、自国経済の現状と方向性を示す「3つの大きなトレンド」を紹介しました。
トレンド1:質の高い発展と構造転換の加速
第1のトレンドとして挙げたのは、高品質な発展の着実な前進です。直近1年、中国経済は全体として安定の中で前進を続け、中国の国内総生産(GDP)は5%成長を達成し、主要経済の中でも高い伸びとなったと説明しました。外部環境の逆風や構造改革に伴う「痛み」に対応するため、中国は不動産市場や株式市場を支える増量型の政策パッケージを打ち出し、市場の期待と国民の信頼を回復させたと述べました。
丁副総理は、中国経済が直面する課題は一時的なものであり、高品質発展の推進により新しいビジネス分野やビジネスモデルが次々と生まれていると指摘しました。自身の各地の視察経験として、伝統的な成長エンジンから新たな成長エンジンへの移行が進み、新質生産力が加速的に形成されていると紹介しました。民間企業から海外投資企業、製造業からデジタル企業まで、視察した企業はいずれも将来の発展に強い自信を持っていたと述べています。
2025年については、より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を実施し、消費の拡大、投資効率の向上、科学技術イノベーションと産業イノベーションの一体的な推進、資本市場の健全で安定した発展、不動産市場の安定、地方政府の債務リスクの防止・解消などに取り組む方針を示しました。こうした取り組みにより、より高品質な成長と妥当な経済規模の拡大を図り、世界経済にも持続的な推進力を提供する狙いです。
トレンド2:グリーン・低炭素への全面的な転換
第2のトレンドは、グリーンで低炭素な転換の加速です。中国は2030年までに二酸化炭素排出量をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現する目標を掲げています。丁副総理によれば、2012年以降、中国のGDP当たりエネルギー消費量は26%以上、炭素排出強度は35%以上低下し、再生可能エネルギーは発電量の35%超を占めるようになっています。
中国は世界最大かつ最も整った新エネルギー産業チェーンを構築しており、世界の太陽光発電用コンポーネントの約7割、風力発電設備の約6割が中国から供給されていると紹介しました。こうした高品質な生産能力が、各国のグリーン転換と気候変動対策を力強く後押ししているという位置づけです。
また、中国の循環経済の一例として、ある企業が新素材技術を活用し、ペットボトルを原料にポリエステル糸を生産してTシャツやハードシェルジャケットを製造し、年間300億本以上のペットボトルを再利用している事例を紹介しました。環境保護と経済価値を同時に生み出す取り組みとして示されています。
丁副総理は、中国のグリーン転換は一時的な対応ではなく、長期的なコミットメントであると強調しました。国際情勢がどう変化しても、気候変動に積極的に対応する決意は揺るがず、排出削減と汚染対策、グリーン転換と経済成長の同時推進を続けると述べました。そのうえで、国連気候変動枠組条約とパリ協定の目標と原則を守り、世界的な気候変動対策に一層貢献していく姿勢を示しました。
トレンド3:改革開放の「アップグレード」
第3のトレンドとして丁副総理が挙げたのは、改革と対外開放の高度化です。中国は過去数十年、改革開放を通じて急速な発展を遂げてきましたが、今後の中国式現代化の推進においても、その原動力は変わらないと位置づけました。
丁副総理は、中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議が全面的な改革深化に向けた体系的な方針を打ち出し、300を超える重要な改革措置を2029年(中華人民共和国建国80周年)までに実行する計画を示したと説明しました。高水準の社会主義市場経済を整備し、より公平で活力ある市場環境を作り、資源配分の効率と生産性を高めることが狙いです。
対外開放については、2013年に中国(上海)自由貿易試験区を設立し、外資参入を規律するネガティブリストを初めて導入した経緯を振り返りました。当初190項目あった制限項目は、現在27項目まで縮小されています。さらに最近では、製造業における外資参入制限を全面的に撤廃し、越境サービス貿易でもネガティブリスト制度を導入しました。通信、インターネット、教育、文化、医療といった分野でも、段階的に市場開放を進めていると説明しました。
貿易面では、中国は貿易黒字そのものを目指すのではなく、競争力ある良質な製品やサービスの輸入を拡大し、バランスの取れた貿易を追求していると述べました。全体の関税水準は7.3%まで引き下げられ、外交関係を持つすべての最貧国に対しては、全品目でゼロ関税待遇を提供していると紹介しました。また、中国国際輸入博覧会を7年連続で開催し、長年にわたり世界第2位の輸入国であり続けていると説明しました。
ビジネス環境については、知的財産権保護、政府調達への平等な参加、データの越境移転、生産要素へのアクセス、資格認定や標準制定など、国際企業が関心を寄せる分野において制度と政策の改善を続けていると述べました。国内企業と海外投資企業に対しては「公平な待遇」を明確に打ち出しており、政府調達の分野では、投資主体が国内企業か海外投資企業かを問わず、中国国内で生産された製品であれば一律に参加資格を有すると強調しました。同時に、現場レベルでは「見えない壁」や「隠れたハードル」が存在し得ることも率直に認め、それらの解決に関係者とともに取り組む意向を示しました。
最後に丁副総理は、中国の対外開放の扉は閉ざされることはなく、今後もさらに大きく開かれていくと述べました。また、中国のビジネス環境はますます改善されるとして、より多くの海外企業が中国で投資・事業を行い、中国の機会を共有してより大きな成功を収めることを歓迎するメッセージで結びました。
2025年の終盤に振り返るダボス演説の意味
2025年も終盤に入り、年初のダボス会議2025で示されたメッセージを振り返ると、いくつかのキーワードが浮かび上がります。
- 保護主義や分断ではなく、多国間主義と協力を軸にしたグローバルガバナンス
- AIやデジタル、グリーンといった新分野での成長エンジンと格差是正
- 気候変動への長期的なコミットメントと、公正なグリーン転換
- 高品質な発展、グリーン転換、改革開放という中国経済の3つのトレンド
丁副総理の演説は、中国が多国間主義と開放的な発展を重視しつつ、自国経済の高度化とグリーン転換、さらなる改革開放を進めていくという方向性を明確に示したものだと言えます。国際ニュースとしても、世界経済の行方や国際協調のあり方を考える上で、引き続き押さえておきたいメッセージです。
Reference(s):
Full text: Address by Vice Premier Ding Xuexiang at Davos 2025
cgtn.com








