米国再工業化は関税だけでは無理?豪研究者が指摘する限界 video poster
米国の製造業を関税で取り戻せるのか――。オーストラリアの研究者ウォリック・パウエル氏は、中国の国際メディアCGTNでのインタビューで、米国が関税に頼って「再工業化」を進めようとする考えについて、それはむなしい期待にすぎないとの見方を示しました。50年以上かけて空洞化してきた製造業は、関税だけでは復活しないという指摘です。
豪研究者が語った「関税での再工業化はむなしい」理由
パウエル氏は、クイーンズランド工科大学の客員教授を務めるオーストラリアの研究者です。CGTNのグアン・シン氏とのインタビューで、米国の製造業政策について次のような趣旨を語りました。
50年以上にわたって空洞化してきた米国の製造業は、輸入品に関税を課すだけで復活できるものではなく、こうしたやり方で再工業化を目指すのは「むなしい」(vain)と評価しました。つまり、関税は一つの政策手段ではあるものの、それだけで長期的な産業構造の変化を逆転させることは難しいという立場です。
米国が目指す「再工業化」とは何か
再工業化とは、おおまかに言えば、海外に移転した工場や生産拠点、技術や雇用をふたたび国内に呼び戻し、製造業の厚みを取り戻そうとする動きのことです。製造業の空洞化が進むと、地方の雇用喪失や技術基盤の弱体化、安全保障面での懸念など、さまざまな問題が指摘されます。
こうした文脈の中で、米国では関税を引き上げることで、海外製品よりも国内製品を有利にし、自国の製造業を保護・再建しようとする議論が続いています。しかしパウエル氏は、そのアプローチだけに頼ることの限界を強調しました。
なぜ関税だけでは不十分と見なされるのか
パウエル氏の発言の背景には、製造業の空洞化が「50年以上」の長い時間をかけて起きてきたという認識があります。その間に、企業や産業の構造は大きく変わりました。関税だけでは対応しきれない理由として、次のような点が考えられます。
- 投資と技術の蓄積には時間がかかる
工場や生産設備、サプライチェーンを再構築するには、長期的な投資と技術の蓄積が必要です。関税は価格を通じた短期的なシグナルに過ぎず、それだけで研究開発や技能育成が進むわけではありません。 - 企業は世界規模のサプライチェーンで動いている
多くの企業は、部品や素材の調達、生産、販売をグローバルに分散させています。関税で一部の国からの輸入を抑えても、別の地域に生産が移るだけで、必ずしも米国内に産業が戻るとは限りません。 - 関税はコスト増として跳ね返る可能性
関税は輸入品の価格を押し上げるため、原材料や部品を輸入に頼る国内企業にもコスト増として影響します。結果的に、競争力を高めるどころか、国内企業の負担を重くするリスクもあります。
こうした点を踏まえると、パウエル氏が「むなしい希望」と表現した背景には、関税だけに焦点を当てた再工業化戦略では構造的な課題を解決できない、という問題意識があると考えられます。
再工業化に本当に必要とされるもの
国際ニュースとしての米国の再工業化議論は、日本を含む他の国・地域にとっても無関係ではありません。関税中心のアプローチに限界があるとすれば、どのような産業政策が求められるのでしょうか。一般的には、次のような視点が重要だと考えられます。
- 人材と教育
高度な製造業には、技術者や技能労働者、デジタル技術に精通した人材が欠かせません。教育や職業訓練への投資は、長期的な競争力の源泉になります。 - 研究開発とイノベーション
単に工場を戻すだけでなく、新しい技術や製品を生み出す力が重要です。公的支援や民間投資を通じて、イノベーションを促す仕組みづくりが求められます。 - インフラとビジネス環境
物流、エネルギー、デジタルインフラなど、製造業を支える土台の整備も欠かせません。規制や税制を含めたビジネス環境も、企業の投資判断に大きく影響します。
関税は、こうした政策の一部として位置づけられることはあっても、それだけで長期的な再工業化を達成するのは難しい――これが、パウエル氏の指摘から読み取れるメッセージです。
日本とアジアの読者が考えたいポイント
米国の関税と再工業化をめぐる議論は、日本やアジアの製造業、そしてサプライチェーンにも影響し得ます。生産拠点の再編や貿易ルートの変更は、企業の戦略だけでなく、私たちの働き方や生活コストにもつながるからです。
今回の豪研究者の発言は、「関税か自由貿易か」といった単純な二択ではなく、長期的な視点で産業の基盤をどう整えるのかという問いを投げかけています。ニュースを追う際には、関税の有無だけでなく、教育、技術、インフラなど、より広い意味での産業政策をセットで見る視点が重要になりそうです。
米国の動きは、2025年の今も国際ニュースとして注目されています。日本語で世界の動きを追う私たちにとっても、「関税で本当に再工業化はできるのか?」という問いは、自国の産業政策やキャリアの選択を考えるうえで、静かに効いてくるテーマと言えるでしょう。
Reference(s):
Vain hope to use tariffs to reindustrialize US: Australian academic
cgtn.com








