中国アニメ映画「哪吒2」、映画界のDeepSeekモーメント
中国の春節連休中、人工知能と映画というまったく違う分野で、中国発の2つのニュースが世界の注目を集めました。AIモデルDeepSeekと、中国アニメ映画「哪吒2」です。特に哪吒2は、興行収入の記録を塗り替えながら、ハリウッド中心だった世界映画市場に変化の兆しをもたらし、「映画界のDeepSeekモーメント」とも言える象徴的な出来事になっています。国際ニュースとしても、その意味合いは小さくありません。
春節に生まれた「2つの快進撃」
2025年の春節連休、中国では少なくとも2つの「国産」イノベーションが話題になりました。ひとつは、登場によって世界のAI議論を塗り替えたとされる人工知能モデルDeepSeek。もうひとつが、中国発のアニメーション・ファンタジー映画「哪吒2」(英題: Ne Zha: Demon Child Conquers the Sea)です。
DeepSeekがAI業界で「ゲームのルールを書き換える存在」として受け止められたように、哪吒2もまた、世界の映画産業において従来の前提を揺さぶる存在になりつつあります。その背景には、興行収入と市場構造の両面で無視できない変化があります。
中国アニメ映画「哪吒2」が打ち立てた記録
哪吒2は、中国のアニメーション・ファンタジー作品で、2025年2月14日には北米でも公開されました。この作品は現在、世界歴代の興行収入ランキングでトップ50に入る映画の中で、唯一の非ハリウッド作品となっています。
このランキングは、物価上昇の影響で古い作品には不利という前提があるものの、長年にわたり「どの国の映画が世界の観客を最も集めているか」を示す指標として、米国映画市場とハリウッドの存在感を象徴してきました。そこに、中国発のアニメ作品が割って入ったという事実は、小さくない意味を持ちます。
単一市場で史上最高の興行収入
哪吒2の快進撃の中でも、最も象徴的なのが「単一市場での興行収入」の記録です。中国市場での興行収入が、2015年公開の Star Wars Episode 7: The Force Awakens が米国市場で挙げた9億3,600万ドル(936 millionドル)を上回り、単一の国・地域における史上最高額となりました。
記事公開時点で、哪吒2の世界興行収入は、興行成績を追跡するサービスMaoyanのデータによれば13億3,000万ドル(1.33 billionドル)に達しています。つまり「中国の映画が中国市場だけで稼いだ額」が、「ハリウッド大作が米国市場で稼いだ史上最高額」を上回ったことになります。
これは単なる数字の勝負ではありません。自国市場の規模だけでなく、作品そのものの魅力によって観客を動員し、世界の「興行地図」の描き方そのものを変えうることを示した出来事と見ることができます。
ハリウッド一極集中から、多極的な映画市場へ
長年、世界の映画興行といえば「ハリウッド=米国市場」が中心というイメージが強くありました。歴代興行収入ランキングの上位をほとんど米国作品が占めてきたことも、その印象を裏付けてきました。
そこに、中国発の哪吒2がトップ50入りし、単一市場での最高興行記録を塗り替えたことは、映画産業が緩やかに「多極化」しつつあるサインとも受け取れます。観客の側から見ると、これは次のような変化の前触れとも言えます。
- 英語以外の言語や文化圏の作品が、世界規模のヒットになりやすくなる
- ハリウッド以外の地域にも、巨大な制作投資が向かう土壌が育つ
- 映画を通じて触れられる価値観や物語のバリエーションが、さらに広がる
ハリウッドの存在感がなくなるわけではありませんが、「世界映画=ハリウッド映画」という一元的な見方は、今後ますます現実とかけ離れていくかもしれません。
AIのDeepSeekと「哪吒2」が示すもの
同じ春節期に注目されたDeepSeekのAIモデルは、その登場によって世界の人工知能をめぐる議論のあり方を変えたとされています。既存の大手に依存しなくても、新しいプレーヤーが国際的な議題設定力を持ちうることを示したからです。
哪吒2もまた、映画というまったく別の分野で、似た構図を浮かび上がらせています。自国で生まれた物語と制作体制を軸にしながら、世界興行のトップクラスに食い込み、ハリウッド中心だった前提を静かに揺さぶっているからです。
こうした状況を指して、「映画界にとってのDeepSeekモーメント」と表現することができます。ある作品や技術の登場をきっかけに、業界全体の常識やパワーバランスが見直される転換点――哪吒2は、その象徴のひとつになりつつあります。
日本の観客にとっての意味
日本の観客にとって、この動きは何を意味するのでしょうか。ひとつは、「世界でヒットしている作品=英語圏の映画」という図式が、これからさらに弱まっていく可能性です。
配信サービスやオンラインでの映画鑑賞が当たり前になった今、どの国・地域で生まれた作品であっても、話題になれば短期間で日本のスクリーンや配信カタログに登場する時代です。中国をはじめアジア各地の作品が、これまで以上に「世界規模のヒット作」として届く場面が増えていくかもしれません。
そのとき私たちは、単に「ハリウッドかどうか」ではなく、「どんな物語で、何を感じさせてくれる作品なのか」という視点で映画を選ぶことになっていきます。哪吒2の記録は、そんな未来の見え方を少しだけ先取りしているのかもしれません。
これからの映画ランキングをどう読むか
今後、歴代興行収入ランキングを眺めるとき、どのタイトルが上位にいるかだけでなく、「どの地域発の作品が並んでいるのか」という点にも目を向けてみると、世界の変化がよりくっきり見えてきます。
AI分野でのDeepSeek、映画界での哪吒2――2025年の春節に浮かび上がったこれらの出来事は、技術とエンターテインメントの両面で、世界が静かに「多極化」していくプロセスを映し出しているように見えます。次にランキングを塗り替えるのは、どの地域から、どんな作品が登場するのでしょうか。
Reference(s):
China's 'Ne Zha 2' marks 'DeepSeek moment' for global film industry
cgtn.com








