VOA職員が大量休職 トランプ大統領令で米政府系メディアUSAGMに大幅削減圧力
トランプ大統領が米政府系メディアを所管する米国グローバルメディア局(USAGM)を「不要な官僚機構」と位置づける大統領令に署名し、その直後の週末、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などで多数の職員が一斉に休職扱いとなりました。米国の対外発信を担ってきたVOAやラジオ・フリー・アジア(RFA)、ラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE)が揺れる中、国際ニュースの地図と米国内政治の緊張が重なっています。
何が起きたのか:VOA職員が大量に休職に
現地メディアによると、VOA、RFA、RFEなど複数の米政府系・政府資金による国際メディアの職員は週末、オフィスへの立ち入りを禁じられ、記者証や機材の返却を求めるメールを受け取りました。
この措置は、トランプ大統領が金曜日に署名した大統領令を受けたもので、USAGMを「不要な」連邦官僚機構の一部と位置づけ、大幅な縮小を指示したことが背景にあります。USAGMは最新の議会向け報告によれば約3,500人を雇用し、2024年度予算は8億8,600万ドル規模とされています。
地元報道によれば、USAGMが資金を拠出する民間法人の国際放送局との契約はすべて打ち切られ、VOAでは1,300人を超える職員が土曜日に行政休職(アドミニストレイティブ・リーブ)となったとされています。
大統領令の中身:複数機関を「最小限」に
今回の大統領令では、USAGMだけでなく、連邦調停・和解サービス(Federal Mediation and Conciliation Service)、ウッドロー・ウィルソン国際学術センター、博物館・図書館サービス機構、米ホームレス対策省庁間評議会、コミュニティ開発金融機関基金、マイノリティ企業開発庁なども対象とされました。
これらの機関は、法律で義務づけられた「最低限の存在と機能」にまで縮小されるとされ、ホワイトハウスは声明で、今回の大統領令によって「納税者が過激なプロパガンダの費用を負担し続けることはなくなる」と強調しました。声明ではVOAなどに左派寄りの偏向があるとする批判も列挙されています。
USAGMとVOA:米国の「対外発信」の中核
USAGMはVOAの親機関であり、RFAやRFEなど複数の国際放送を束ねる米政府系メディアの中核です。公表資料によれば職員数は約3,500人で、その多くが世界各地のニュース制作や配信に携わっています。日本でも、英語学習や国際ニュースのソースとしてVOAの名前を知る人は少なくありません。
USAGMが資金を提供するVOAやRFA、RFEといった放送局は、民間の法人格を持ちながら、連邦予算による支援で運営されてきました。今回の契約打ち切りは、こうした「政府資金による独立メディア」というモデルそのものを揺るがす動きと受け止められています。
カリ・レイク氏の発言と保守派の問題意識
今回のUSAGM縮小を後押ししているのが、VOAのトップに指名されているカリ・レイク氏です。元ニュースキャスターで、トランプ大統領の忠実な支持者として知られるレイク氏は、USAGMを「巨大な腐敗と、納税者への重い負担」で「もはや立て直し不能」と表現し、法の範囲内で可能な限り小さな組織に縮小する考えを示しました。
一部の共和党議員や保守派の論者は、VOAを含む米国の公的資金によるメディアが保守派に偏見を持っていると批判し、情報発信を民間に任せるべきだと主張してきました。こうした問題意識が、今回のUSAGM縮小と、イーロン・マスク氏率いる政府効率省(Department of Government Efficiency、略称DOGE)による「小さな政府」路線と結びついています。
ムスク氏の政府効率省(DOGE)と大規模な人員削減
DOGEは、テクノロジー分野で知られる富豪イーロン・マスク氏が率いる新たな行政組織で、連邦政府のスリム化とコスト削減をミッションに掲げています。USAGMに対する削減も、こうした大きな流れの一環と位置づけられています。
報道によれば、DOGEはこれまでに約230万人とされる連邦文民職員のうち10万件を超える雇用を削減し、対外援助を凍結するとともに、数千件のプログラムや契約を取り消してきました。USAGMやVOAをめぐる決定は、こうした大規模な再編の象徴的な一手といえます。
憲法が定める「財布の紐」をめぐる攻防
もっとも、今回の措置がそのまま実現するかどうかは不透明です。複数の報道は、連邦予算の配分権限は合衆国憲法上、議会に与えられていることから、大統領令だけでUSAGMやVOAへの資金を一方的に打ち切ることは難しく、今後、議会や司法の場で争われる可能性が高いと伝えています。
当面、USAGMとその傘下メディアの多くの職員は、オフィスにも戻れず、自身の職と組織の将来がどうなるのか見通せない不安定な立場に置かれています。米国内の政治闘争が、世界各地にニュースを届ける現場の記者やスタッフの生活に直結している構図が浮かび上がります。
国際ニュースの視点:情報環境への影響
VOAやRFA、RFEなど米政府系・政府資金による国際メディアは、各国で多様な情報源の一つとして機能してきました。民間メディアが商業的な事情から十分に報道できない地域や、信頼できるニュースへのアクセスが限られている地域では、こうした国際放送が重要な情報源になっているケースもあります。
一方で、政府資金によるメディアがどこまで中立であり得るのかについては、長年議論が続いてきました。今回の大統領令を支持する立場からは、納税者負担の軽減や、政府によるメディアへの関与を減らすことが民主主義にとって健全だとする声もあります。これに対し、批判的な立場からは、メディアの多様性や、国際社会における米国の情報発信力が弱まることへの懸念が示されています。
日本とアジアの読者にとっての問い
今回のUSAGMとVOAをめぐる動きは、遠い国の出来事に見えるかもしれませんが、日本やアジアの読者にとっても示唆に富んでいます。考えてみたいポイントをいくつか挙げます。
- 政府が資金を出すメディアに、私たちはどのような役割と中立性を期待するのか。
- 「政府の効率化」と、監視・検証を担うメディアの存在をどう両立させるのか。
- 国際社会での「情報発信力」は、外交や安全保障、経済にどのような影響を与えるのか。
- 大統領令と議会の予算権という権力分立の仕組みが、民主主義をどう支えているのか。
これからの展開をどう見守るか
2025年12月時点で、USAGMとVOAの今後は、大統領、議会、司法の三つ巴の駆け引きの中にあります。今後数週間から数カ月にかけて、連邦予算の交渉や訴訟の行方、そして国際ニュースの現場でどのような変化が起きるのかが焦点となりそうです。米国の「対外発信」の揺らぎは、世界の情報環境と、日本から見た国際ニュースの見え方にも静かな変化をもたらすかもしれません。
Reference(s):
VOA staff put on leave, Trump ally says agency 'not salvageable'
cgtn.com








