AIとイノベーションは不確実性の特効薬か ボアオ・アジアフォーラム2025を読む
中国海南省ボアオで開かれたボアオ・アジアフォーラム2025(BFA)では、AI(人工知能)とイノベーションが、世界の高まる不確実性にどう向き合うのかが大きなテーマになっています。地政学リスクや関税摩擦が強まるなかで、商用規模のAIがその不安を和らげる「特効薬」になりうるのかに注目が集まっています。
地政学リスクと「関税の乱気流」
今回のBFAが直面している不確実性の象徴として語られているのが、ドナルド・トランプ氏の下で進められている米国政権の通商政策です。地政学的な緊張と、相次ぐ関税をめぐる混乱が世界経済に波紋を広げています。
企業や投資家にとっては、こうした環境の下で長期的な計画や投資判断を行うことが難しくなっています。貿易や投資のルールが揺らぐことで、サプライチェーンや市場戦略をどこまで見直すべきかという悩みが、先進国・新興国を問わず広がっています。
アジアが握る「成長エンジン」とAI
ボアオ・アジアフォーラムは「東洋のダボス」とも呼ばれ、アジアを軸に世界経済や国際協力のあり方を議論する場として位置づけられています。今年の会議が特にユニークなのは、次の二つの事実が重なっている点です。
- アジアという地域が、世界の成長エンジンの鍵をますます握りつつあること
- そのアジアが、AIをはじめとする技術革新の分野でも強い足場を築きつつあること
経済規模が拡大し、デジタル産業やスタートアップが台頭するアジアでは、AIを活用した新しいビジネスやサービスが次々と生まれています。BFAは、こうした動きを背景に、アジア発のイノベーションが世界の不確実性をどう乗り越えるのかを議論する「アジアの窓」となっています。
DeepSeekモーメントが示したAIの民主化
今回のフォーラムのカンファレンス・ジャーナルでは、公式の流行語の一つとして「DeepSeekモーメント」が紹介されています。これは、2025年の世界経済フォーラム(WEF)ダボス会議と、ドナルド・トランプ氏の就任式から、わずか2週間後に起きた出来事だとされています。
DeepSeekは、オープンソースとして公開され、従来考えられていたより少ない計算資源で動作する商用規模のAIを象徴する存在とされています。高価な計算機や巨額の投資がなくても、より多くのプレーヤーが高度なAIにアクセスできる可能性を示したことで、AIの「民主化」を後押しする転機として語られています。
こうした動きは、AIの開発や活用が、一部の巨大企業や限られた国・地域だけのものではなくなりつつあることを示唆しています。BFAの議論の背景には、オープンソースと低コスト化によって、アジアを含む多くの国や企業がAIの恩恵を共有できるのではないかという期待があります。
AIとイノベーションは「万能薬」になりうるか
とはいえ、AIやイノベーションが、地政学リスクや関税の問題といった政治的な不確実性を一夜にして解決してくれるわけではありません。BFAの議論は、AIが現実のリスクを前にして、どこまで「特効薬(パナシア)」になりうるのかを見極める試みとも言えます。
AIとイノベーションが不確実性を和らげる可能性として、例えば次のような点が挙げられます。
- サプライチェーンの最適化や需要予測など、データに基づく意思決定の高度化
- 新しい産業やサービスの創出による、成長源の多様化と雇用の拡大
- オープンソースAIを通じた、スタートアップや中小企業にも開かれた技術アクセス
- 共通の技術基盤に基づく、国・地域をまたいだ協力の新しい枠組みづくり
一方で、AIによる格差拡大やプライバシーの問題など、新たなリスクや課題も指摘されています。不確実性のただ中でAIをどう位置づけるのかは、アジアだけでなく世界共通の問いです。
私たちが押さえておきたい3つの視点
今回のボアオ・アジアフォーラム2025の議論を、日々ニュースを追う私たちの視点から整理すると、次の3点がポイントになりそうです。
- AIの民主化は本物か
DeepSeekモーメントが示したように、オープンソースと低コスト化がどこまで進めば、多くの人・企業がAIの恩恵を受けられるのかに注目が集まります。 - アジアの役割
世界の成長エンジンとしてのアジアが、AIと産業戦略をどう結びつけていくのか。BFAはその方向性を映す鏡の一つになっています。 - 政治と技術のせめぎ合い
トランプ政権の通商政策に象徴される政治リスクが、イノベーションの勢いをどこまで左右しうるのか。技術だけでは解決できない不確実性があることも、同時に意識する必要があります。
インフレ、安全保障、環境問題など、世界が抱える課題は複雑さを増しています。その中で、BFA2025は、AIとイノベーションを通じて不確実性とどう付き合うのかを考えるうえで、アジア発の重要なヒントを提供していると言えます。
ニュースを読むときには、AIの技術的な進歩だけでなく、その背後で揺れる政治・経済の力学にも目を向けてみると、国際ニュースがより立体的に見えてくるはずです。
Reference(s):
AI & innovation a panacea against uncertainty as BFA 2025 kicks off
cgtn.com








