米国の「相互関税」戦略はなぜ危ういのか WTO原則から読み解く
米国政府が最近導入した「相互関税」と呼ばれる新しい関税政策が、国際ニュースの大きな焦点になっています。表向きは貿易赤字の解消や「不公正な」貿易慣行の是正を掲げていますが、その中身を丁寧に見ていくと、世界貿易機関(WTO)が築いてきた多国間貿易体制を揺るがしかねない仕組みが見えてきます。
米国版「相互関税」とは何か
米国政府は、水曜日から貿易相手国への関税を引き上げる措置を始めました。相手国が米国製品に課している関税水準に合わせて、自国の関税も引き上げるという発想から、「相互関税」と呼ばれています。
米国側は、この相互関税によって、
- 長年の貿易赤字を縮小すること
- 「不公平」かつ「不均衡」だとみなす貿易関係を正すこと
を目指すと説明しています。
しかし、政策の実際の設計をよく見ると、この「相互性」は真の意味での対等なルールではなく、米国が一方的に決めたルールを他国に押し付ける性格が強いと指摘されています。その結果、国際貿易のルールに基づく協調よりも、自国優先の単独行動が前面に出る構図になっています。
WTOの「相互主義」とのズレ
WTOもまた「相互主義(リシプロシティ)」という考え方を重視していますが、それは「すべての国の関税率を同じにする」という意味ではありません。各国が互いに、市場アクセスや関税引き下げの約束をやり取りする中で、「権利と義務のバランス」を取るという発想です。
重要なのは、各国の経済発展段階が異なるという前提です。経済的にまだ脆弱な段階にある国は、幼い産業を守るために一定の関税保護が必要とされてきました。ところが、すでに高度な産業基盤を築いた米国が、「すべての国は同じ関税率にすべきだ」と主張し、一律の「相互関税」を求めることは、発展途上国からこの保護の余地を奪うことにつながります。
こうした点で、米国版の相互関税は、WTOが想定する「相互主義」とはかなり異なる方向に向かっていると言えます。
中国が示す別のアプローチ
対照的に、中国はこれまで、自国の利益と切り離して関税面での譲歩を行ってきました。具体的には、43の後発開発途上国からの輸入品について、全ての関税品目で関税をゼロにする措置を一方的に実施し、見返りを求めていません。
これは、経済的に弱い立場にある国の発展を支えながら、長期的なパートナーシップを築こうとする試みであり、WTOが掲げる「権利と義務のバランス」という考え方に合致した行動と評価できます。
最恵国待遇原則への抵触
米国の相互関税には、WTOのもう一つの基本原則である「最恵国待遇原則」との矛盾も指摘されています。最恵国待遇とは、ある加盟国に与えた関税上の待遇は、原則として他の全ての加盟国にも同じように適用しなければならないという「無差別」のルールです。
ところが、米国の相互関税は、国ごとに関税水準を変える仕組みになっています。ある貿易相手には高い関税を、別の相手には低い関税を課すことになれば、「同じ条件の国は同じ扱いを受けるべきだ」というWTOの基本精神に反することになります。
さらに、米国がWTO加盟国との交渉で合意した「上限関税(天井)」を超えて関税を引き上げる場合、その点でもWTOルール違反となる可能性があります。こうした動きが広がれば、長年かけて築かれてきた多国間の貿易ルールそのものが揺らぎかねません。
経済的にも非効率な「一律引き上げ」
経済の現場では、すべての品目が同じ競争力を持っているわけではありません。そのため各国は通常、製品や産業ごとの事情に応じて関税水準を調整し、貿易交渉を通じて互いに市場アクセスを拡大する形で「実質的な相互主義」を追求してきました。
トランプ政権が進めるような、「広く一律に関税を引き上げる」というやり方は、こうした経済の基本的な考え方に反しているとされています。対象や影響を精査しないまま、大雑把に関税を引き上げれば、
- 貿易相手の反発を招きやすい
- 報復措置の連鎖によって貿易摩擦が激化しやすい
- 世界経済の分断を加速させるおそれがある
といったリスクが高まります。
結局のところ、相互関税は「ゼロサムゲーム(どちらかが得をすればどちらかが損をするという発想)」に基づいた新たな保護主義の道具になっている、との見方が強まっています。
米国が「相互関税」を見直すべき理由
以上を踏まえると、米国の相互関税アプローチには少なくとも次の三つの問題があります。
- WTOが重視する「権利と義務のバランス」という相互主義から外れている
- 最恵国待遇原則や関税上限の約束と矛盾し、多国間ルールを弱体化させる
- 経済的な合理性に乏しく、貿易摩擦と世界経済の分断を深める
貿易の不均衡や市場アクセスをめぐる不満を解消したいのであれば、関税の「一律引き上げ」で相手を圧迫するのではなく、多国間のルールの枠内で、交渉と協調を重ねる道を探る必要があります。
国際ニュースとしての米国の相互関税問題は、単なる米国と一部の貿易相手国との対立ではなく、「ルールに基づく貿易秩序」を今後も維持できるのかという、より大きな問いを私たちに投げかけています。読者のみなさんも、各国の関税政策がWTOルールとどのように整合しているのか、視野を広げて見ていくことが求められているのではないでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








