「19世紀への逆戻り?」トランプ関税に世界メディアが警鐘
トランプ米大統領が打ち出した大幅な関税措置をめぐり、世界の主要メディアが「19世紀への逆戻り」「世界貿易の秩序が揺らぐ」といった強い表現で警鐘を鳴らしています。本稿では、英米メディアの論調を整理し、何が問われているのかを考えます。
米トランプ政権の関税はなぜ注目されるのか
今回の関税は、自動車や自動車部品を含む幅広い品目を対象にした、いわゆる「一律」「報復的」な追加関税です。エコノミスト誌は、トランプ氏がわずか約10週間のあいだに、アメリカ経済全体を囲い込む「保護の壁」を築いたと表現し、19世紀末に匹敵する水準の保護主義だと指摘しています。
AP通信も、この措置によってアメリカの関税水準が1930年のスムート・ホーリー関税法以来の高さに近づいていると専門家の見方を紹介し、インフレや各国との貿易戦争のリスクを強調しています。
世界メディアはどう見ているか
NYタイムズ・フリードマン氏「未来はアメリカにない」
ピュリツァー賞を3度受賞しているニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トーマス・フリードマン氏は、「I Just Saw the Future. It Was Not in America(未来を見たが、それはアメリカにはなかった)」と題した記事で、トランプ政権の対中国関税に強い懸念を示しました。
- 自動車、スマートフォン、mRNAワクチンなど、現代の高度な製品は「巨大で複雑なグローバルな製造エコシステム」によってつくられており、それが品質向上とコスト低下を支えていると説明。
- 関税で「壁」を築けば、米国内の工場がすぐに復活し、同じコストで製品を作れるという発想は「魔法のような考え方」だと批判しました。
- 特に自動車産業では、いま依存している国際的な供給網をすべて国内に置き換えるには「何年もかかる」と指摘し、単純な関税では産業の競争力を守れないと訴えています。
そのうえでフリードマン氏は、世界第1位と第2位の経済大国である米国と中国のあいだで「負け負け」ではなく「ウィンウィン」の関係を構築する必要性を強調しました。具体的には、中国企業の優れた製造技術を米企業にライセンスしたり、50対50の合弁で高度な製造拠点を米国内につくったりする案を提示しています。
ただし、そのためには現在ほとんど失われている米中間の信頼を再構築する「大きな努力」が欠かせないとも述べ、「それができなければ、双方とも損をする負け負けの関係に向かっている」と警告しました。
エコノミスト誌「19世紀への逆戻り」
英エコノミスト誌は、「Trump takes America's trade policies back to the 19th century(トランプがアメリカの通商政策を19世紀に引き戻す)」という記事で、今回の関税を「アメリカの経済戦略の衝撃的な転換」と位置づけています。
同誌によれば、トランプ氏の狙いは、長く続いてきた「より自由な世界貿易の時代」に終止符を打つことにあります。しかし記事は、グローバル化がアメリカにもたらした前例のない繁栄と、アメリカ自身が戦後の国際貿易ルールの「設計者」であった事実を無視していると批判しました。
さらに、トランプ氏のやり方が貫かれれば、第2次世界大戦後に時間をかけて築かれてきた経済秩序が「死に追いやられる」とし、関税だけでなく国際協調そのものが揺らぎかねないと懸念を示しています。
AP通信「インフレと貿易戦争のリスク」
AP通信は、「トランプ氏が米製造業を促進するために大規模な新関税を発表したが、それはインフレと貿易戦争のリスクを伴う」との見出しで報じました。
- シンクタンク「ケイトー研究所」のスコット・リンシコム氏とコリン・グラボウ氏は、今回の関税によって米国の関税水準は1930年のスムート・ホーリー法以来となり、当時と同じように世界的な貿易戦争と景気悪化を招きかねないと警告しました。
- 下院民主党の選挙対策委員長を務めるスーザン・デルベネ議員は、新関税を「トランプ政権全体が生み出している混乱と機能不全の一部だ」と厳しく批判。
- 大統領が議会の承認なしに関税を引き上げたことについて、「これは米国の家庭への大規模な増税だが、議会での採決は一度も行われていない」とし、手続き面でも問題があると指摘しました。
デルベネ氏は、選挙戦で「初日から生活費を下げる」と約束していたトランプ氏が、いまは「物価が上がっても構わない」と言っていると述べ、「公約違反だ」とも非難しています。
ロイター/Ipsos世論調査:支持率は43%に低下
ロイターと調査会社イプソスが行った最新の世論調査では、トランプ大統領の支持率は43%と、政権復帰後で最も低い水準となりました。
特に新たな自動車・自動車部品への関税については、回答者の約52%が「自分の身近な人々に悪影響を与える」と答え、同程度の割合が「関税引き上げは利益よりも害が大きい」と考えているといいます。
一方で、およそ3分の1のアメリカ人はこうした見方に反対しており、その多くがトランプ氏を支持する共和党の支持層だとされています。世論は大きく割れながらも、関税への懸念が支持率の重しになりつつあることがうかがえます。
何が問われているのか:3つのポイント
各メディアの論調からは、次のような論点が浮かび上がります。
- グローバルな供給網をどう扱うか:フリードマン氏が指摘するように、高度な製品は複雑な国際サプライチェーンに支えられています。関税でその流れを急に変えようとすれば、コスト上昇や供給の混乱が起きやすくなります。
- 貿易政策と国内政治の緊張:エコノミスト誌やAP通信が描くのは、「自由貿易の設計者」であるアメリカ自身が、その秩序を揺るがしているという構図です。議会の関与を欠いた急激な政策変更は、国内の民主的なプロセスとも摩擦を生みます。
- 市民生活への影響:ロイターの世論調査が示す通り、多くの人々は関税を「遠い国の話」ではなく、自動車価格や物価を通じて「身近な負担」として受け止め始めています。
日本を含む各国も、サプライチェーンの一部として、こうしたアメリカの政策変更の波を受ける立場にあります。関税という一つの政策手段が、国際秩序、国内政治、そして私たちの生活にどのような影響を与えるのか。今回の一連の報道は、その問いを改めて突きつけています。
米国と中国をはじめとする主要国が、互いに「勝ち負け」を競うのではなく、フリードマン氏が提案するような「ウィンウィン」の関係を模索できるのかどうか。2025年の世界経済を占ううえで、今後の行方が注目されます。
Reference(s):
U.S. trade policies 'back to late 1800s': Media on Trump's tariffs
cgtn.com








