米中関税と世界の多極化:アメリカ一国主義は何を招くか
トランプ政権が打ち出した大規模な「相互関税」に対し、中国が34%の報復関税や投資規制で応酬し、世界貿易の地図が描き変わりつつあると指摘する論考が発表されています。本稿では、その内容を手がかりに、2025年現在の国際ニュースの重要テーマである米中関係と世界経済の多極化について整理します。
米国の大規模関税は何を狙っているのか
論考によれば、この20年ほどの間に世界貿易の重心は静かに移動してきました。中国は今や150以上の国にとって最大の貿易相手となり、一方で、かつて「世界の巨大市場」とされた米国の輸入は、現在では世界全体のおよそ15%程度にまで低下しているとされています。
こうした中で、トランプ政権は「相互的」と称する一連の関税を幅広い国・地域に課しました。しかし、その中身は、米国と相手国との貿易赤字の比率をもとに一方的に計算されたもので、実際には必ずしも「相互」とは言えないと論考は指摘します。米国が貿易黒字を計上している国に対しても、一律で10%の追加関税が課される仕組みになっているためです。
これらの措置は、論考の見立てでは、米国が「世界に不当に扱われてきた」という被害意識に基づき、過去の損失を取り返そうとする試みと位置づけられています。すなわち、関税は「工場を海外に奪われてきた」という認識のもと、それを取り戻す手段とされているのです。
ただし、過去のラウンドの関税を検証した研究では、米国内の雇用への純効果はむしろマイナスであり、期待された製造業の復活も実現しなかったと論考は振り返ります。コスト増は企業の利益を圧迫するか、あるいは消費者価格に転嫁され、結果的に米国の家計を直撃したとされています。
中国の対応:34%関税と投資・輸出規制
こうした米国の動きに対し、中国は複数の手段を組み合わせて対応していると論考はまとめます。主なポイントは次の通りです。
- 中国企業による米国企業への投資を原則禁止する方針の発表
- 米側が求めるTikTok事業の処分要求に屈せず、禁止措置の期限延長にもかかわらず姿勢を変えていないこと
- トランプ政権がパナマ運河両端の港湾への関与を強めようとする中、中国側が独占禁止法上の観点から審査の可能性を示唆し、関連取引を事実上先送りにしていること
- 7種類のレアアース(希土類)関連品目に対する輸出管理の強化と、軍民両用の可能性があるとされる27の米企業を輸出制限リストに追加したこと
- 米国から輸入される医療用CTチューブに対するダンピング(不当廉売)調査の開始
そして中核となるのが、米国が中国製品に34%の関税を課したことへの対抗として、中国が米国産品すべてに34%の関税を上乗せすると発表した点です。論考は、これは単なる政治的メッセージにとどまらず、世界貿易の構図そのものを変えるインパクトを持ち得ると見ています。
34%関税で何が変わるのか
中国が米国から輸入する品目全体に34%の関税を課せば、中国企業と消費者は、経済合理性から米国製品以外の代替品を探すようになります。論考によれば、その結果、米国向け輸出が関税で打撃を受けた第三国の企業にとって、中国市場が「受け皿」として機能する可能性があります。
中国は米国から年間1600億ドル超の財を輸入する米国有数の輸出市場であり、その需要の一部でも他国へシフトすれば、世界の貿易フローは大きく組み替えられることになります。
誰が得をするのか:第三国へのチャンス
論考は、米中双方の関税合戦によってどの国・地域にビジネスチャンスが生まれるかを、具体的な品目ごとに描いています。
農産品:南米や欧州に広がる需要
- 大豆・トウモロコシ・ソルガム(飼料用穀物)では、ブラジル、アルゼンチン、スペイン、デンマークなどが、米国に代わる供給国として名乗りを上げているとされます。
- 牛肉や羊肉などの畜産物では、オーストラリアやニュージーランド、さらに欧州や中南米の国々が、中国市場への輸出拡大を期待できます。
エネルギー:LNGと原油の供給先がシフト
- これまで中国は米国から液化天然ガス(LNG)を輸入してきましたが、カタールやオーストラリア、ロシアからの調達を増やす選択肢があります。
- 原油についても、サウジアラビアやロシア、イランなどからの輸入拡大が見込まれます。論考は、産油国の増産が進めば原油価格が下落し、買い手市場になる可能性に触れています。
- 一方で、原油価格の下落は、採算ラインが1バレルあたり64ドルから80ドル程度とされる新たな米国のシェールプロジェクトを採算割れに追い込むリスクもあると指摘します。
- 中国向けに出荷されてきた米国産の原料炭(製鉄用石炭)は、オーストラリア産のコークスに代替され、米国産は別の市場を探さざるを得なくなると見られています。
ハイテク・ソフトウェア・航空機
- 半導体・メモリーチップでは、韓国のサムスンやSKハイニックスに加え、中国国内のSMICやYMTCなどの生産能力拡大が期待されます。
- ソフトウェア分野では、基本ソフト(OS)としてLinuxやHarmonyOS、オフィスソフトとしてWPSなど、米国製品以外の選択肢がすでに存在しており、これらの利用が広がる可能性があります。
- 航空機と航空部品では、米ボーイングの代わりに、欧州のエアバス、英国のロールスロイス、そして中国国内メーカーであるCOMACのC919などがシェア拡大をうかがうと論考は述べています。
医療機器・自動車・化学品
- 医療機器や医薬品では、ドイツやスイス、日本、さらに中国国内企業が米国産品の空白を埋めると想定されています。CTチューブでいえば、ドイツのシーメンスヘルスケアやDunlee、そして日本のキヤノンメディカルシステムズや日立などの名前が挙がっています。
- 自動車では、テスラやGM、フォードといった米国ブランドの代わりに、ドイツのBMWやメルセデス、日本のレクサスやトヨタ、さらに中国の電気自動車(EV)メーカーが選択肢として浮上します。
- 特殊化学品やプラスチックについては、ドイツのBASFや日本、韓国の化学メーカーが、米国企業に代わって供給を担う可能性があるとされています。
論考は、「世界には米国が供給するものを費用対効果の面で代替できない品目はほとんどない」と総括し、中国の34%関税が、世界各国から中国への輸出拡大を促す触媒になり得ると見ています。
多極化する世界貿易と米国一国主義
こうして見ると、米国が世界貿易全体の約15%ほどしか占めていないにもかかわらず、ほぼすべての相手に高関税を課すことで、結果として「米国以外の国同士の貿易」を加速させているという構図が浮かび上がります。
論考は、責任あるグローバルなアクターたちは、引き続き多国間の貿易枠組みを重視し続けるだろうと述べています。米国が一方的な関税政策を進めれば進めるほど、他の国・地域は互いの結びつきを強め、世界経済の多極化が一段と進むという見立てです。
特に、中国は米国にとって最大級の輸出市場の一つであり、その需要が欧州、アジア、中南米などへ広く振り分けられていけば、「アメリカ中心」の国際経済構造はさらに変質していきます。論考は、トランプ政権の関税政策は、長期的に進んできた世界貿易の多極化の流れを止めるどころか、むしろ加速させていると結論づけています。
日本とアジアへの含意:チャンスとリスクをどう読むか
日本を含むアジアの読者にとって重要なのは、こうした変化が自国経済にどのような影響を与えるかです。論考では、日本企業も医療機器、自動車、高機能素材や化学品などの分野で、中国市場への輸出機会を得る可能性に触れています。
同時に、米中間の対立が長期化すれば、サプライチェーンの分断や規制リスクが高まることも考えられます。読者としては、次のような点を意識してニュースを追うと理解が深まりやすくなります。
- 自社あるいは産業全体が、米国市場と中国市場のどちらにどれだけ依存しているのか
- 第三国市場の開拓や、地域・多国間の貿易枠組み(協定)をどう活用できるか
- 半導体、電気自動車、再生可能エネルギーなど成長分野で、技術と投資をどこに重点配分するか
関税の応酬はしばしば「勝者なき戦い」になりがちです。一方で、それが新たな貿易ルートやパートナーを生み、世界経済の多極化を早める側面もあります。2025年の今、米中関係という国際ニュースを、自分の仕事や生活とどう結びつけて考えるか。そうした視点を持つことが、「読みやすいのに考えさせられる」ニュースの楽しみ方につながっていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








