米国が検討している中国関連船舶への新たな港湾手数料が、米国経済や世界の海運に思わぬ打撃を与えかねない――。こうした懸念が、海運業界や農業団体から相次いでいます。
米USTRが検討する三層構造の港湾手数料
米国通商代表部(USTR)の提案によると、新たな港湾手数料は中国と関係する海運事業者に高額なサービス料を課す内容です。対象は次の3カテゴリーに分かれます。
- 本社が中国にある海運事業者
- 保有船隊の大半が中国建造船で構成される事業者
- 今後24カ月以内に中国造船所へ新造船を発注している、または発注予定の事業者
案によれば、中国の海運事業者は国際航路で米国港に入港するたびに最大100万ドルの手数料が課されます。中国建造船で構成される船隊を持つ事業者は、1回当たり50万~150万ドル。今後24カ月以内に中国での建造を予定する事業者も、1回当たり50万~100万ドルの負担が想定されています。
さらに重要なのは、この三層の手数料は中国建造船そのものだけでなく、「中国建造船を1隻でも含む船隊全体」に適用される点です。つまり、実際に入港する船が別の国で建造されていても、同じ船隊に中国建造船があれば対象になります。
手数料を回避するためには、事業者は中国以外に本社を置き、保有船のうち中国建造船の比率を25%未満とし、今後2年間、中国造船所に新たな発注や引き渡し予定がないことが条件とされています。しかし、中国が世界の造船市場で圧倒的なシェアを持つ現状では、こうした条件を満たす国際海運事業者はごくわずかだと指摘されています。
数字が示す中国造船の存在感と米国の現実
中国工業情報化部のデータによると、中国の造船業は2024年、建造量、受注残高、新規受注の全てで世界トップとなりました。世界全体の船舶建造量の55.7%を中国造船所が占め、新規受注の74.1%、手持ち受注の63.1%を担っています。いずれも前年から二桁の伸びを記録しました。
トン数ベースでは、中国は世界の貨物船の半数超を建造しており、1999年の5%から大きく伸びています。これに続くのが日本と韓国です。一方、米国の造船所が建造した商船は、世界全体のわずか0.01%にとどまったとされています。
それにもかかわらず、USTRの提案は、米国の輸出貨物を「米国籍かつ米国建造」の船舶に移していくことも狙いとしています。しかし、現在の米国籍貨物船は200隻未満で、その全てが米国建造というわけではありません。
国際海運団体Bimcoは、多くの事業者にとって「米国建造かつ米国籍の船で米国輸出貨物の20%以上を運ぶ」という条件を満たすことは現実的ではないと指摘しています。
地政戦略アナリストのイムラン・ハリド氏は、英字メディアへのコメントで、トランプ政権の「米国造船業復活へのロマンチックな構想は、基本的な経済現実を無視している」と述べています。同氏は、競争力のある商船造船産業を再構築するには、数十年にわたる巨額の補助金が必要であり、中国の規模の経済に近づくには相当の時間とコストがかかると指摘しました。
米国内の海運・農業が受ける打撃懸念
この港湾手数料案は現在、協議とパブリックコメントの対象となっており、米国の海運企業や農業団体など幅広い産業から懸念の声が上がっています。
フロリダ州に拠点を置く米国資本の海運会社シーボード・マリンのエドワード・ゴンザレス最高経営責任者は、「米国の国益は、米国造船業の強化を目指す取り組みが、結果的に米国資本の海運会社を破壊するようなことになれば損なわれる」と述べています。
同社は24隻の船隊のうち16隻が中国建造船に依存しており、これは多くの米国海運企業に共通する構図だとされています。米国の船会社は、提案された手数料が導入されれば、自社のコスト増に耐えられず、より資本力のある海外の大手船会社に貨物を奪われると懸念しています。
影響は海運だけにとどまりません。すでにトランプ政権の最近の関税措置で打撃を受けている米国農業も、新たなコスト増に直面すると見られています。
米国勢調査局の貿易統計によると、2024年、米国は穀物や家畜飼料、園芸用土壌など、640億ドル超のバルク農産品を輸出しました。米国農業団体であるアメリカ農業連合会は、港湾手数料が導入されれば、こうしたバルク農産物の輸出業者が年間3億7200万~9億3000万ドルの追加輸送コストを負担する可能性があると試算しています。
世界の海運市場への波及と小規模港湾のリスク
米国内だけでなく、世界の海運企業もこの提案による影響を警戒しています。世界の主要コンテナ船会社を代表するワールド・シッピング・カウンシルは、港湾手数料が導入されれば、コンテナ1本あたり600~800ドルのコスト増につながると見積もっています。これは、一部の主要航路ではスポット運賃をほぼ倍増させる水準です。
大手船会社のMSC、マースク、CMA CGMなども、船隊の20~41%が中国建造船で構成されているとされ、影響は避けられません。各社はコスト増を抑えるための運航ルートの見直しや、寄港地の変更など、さまざまな対策を検討しています。
MSCのソーレン・トフト最高経営責任者は、この手数料案が導入されれば業界全体で最大200億ドルの負担増となり、採算の合わない小規模な米国港への寄港を取りやめたり、大幅なサーチャージ(追加料金)を課したりせざるを得なくなると警告しています。
「対中」ではなく自国経済への打撃にならないか
今回の提案は、中国と関係する船舶や造船所に焦点を当てた措置ですが、現実には、中国造船が世界の海運ネットワークを支える中核の一つになっているという構図があります。そのため、手数料の負担は中国側だけでなく、米国の海運会社や農業輸出業者、さらには世界中の荷主や消費者にも広く波及する可能性があります。
専門家は、こうしたコスト増が最終的には運賃や商品価格に転嫁され、米国の輸出競争力を弱めるとともに、世界のサプライチェーンに新たな不確実性を生むと指摘しています。結果として、「中国を狙った措置」が米国自身の経済や、同盟国・パートナー国の企業にも跳ね返るリスクが無視できなくなっています。
日本やアジアの企業が注視すべきポイント
この港湾手数料案が実際に導入されるかどうかは今後の協議次第ですが、仮に実施されれば、米国向けのコンテナ運賃や輸送スケジュールが不安定になる可能性があります。日本やアジアの輸出企業にとっても、米国経由の航路や、米国市場向けの価格設定に影響が及ぶ恐れがあります。
読者としては、今後の焦点として次のポイントを押さえておくとよいでしょう。
- USTRによる最終決定のタイミングと、手数料の具体的な水準
- 大手船会社がどの程度、米国港からの撤退や寄港回数の削減に踏み切るか
- コンテナ運賃やリードタイム(輸送にかかる時間)の変化が、日本企業のコスト構造にどう影響するか
米国の通商政策、とくに対中国を意識した措置は、直接関係がないように見える日本の企業や消費者にも影響を及ぼします。今後の議論の行方を丁寧に追いながら、自社のサプライチェーンや価格戦略を見直すきっかけとすることが求められています。
Reference(s):
Looming U.S. port fees on Chinese ships could backfire, experts warn
cgtn.com








