米国の関税強化は経済的孤立への道か トランプ政権の賭けを読む
米国が関税を次々と引き上げる中、「このままでは自ら世界経済から孤立してしまうのではないか」という懸念が2025年のいま、改めて強まっています。トランプ政権の関税戦略は、本当に米国の力を高めているのでしょうか。
米国の関税強化、狙いと現実
国際ニュースでも繰り返し伝えられてきたように、トランプ政権は関税を外交・経済の主要なカードとして使っています。発想はシンプルです。世界最大の経済規模を持つ米国であれば、関税という圧力を通じて貿易相手国に譲歩を迫れる、という考え方です。
こうした関税政策には、少なくとも表向きには次のような狙いがあります。
- 輸入品の価格を引き上げ、国内産業を保護する
- 貿易赤字を縮小し、「不公正」とみなす取引条件を是正する
- 関税を交渉材料にして、他国に合意や譲歩を迫る
一見すると、自国の利益を守るための強硬だが分かりやすい戦略にも見えます。しかし、経済学者や政策当局者、貿易の専門家たちは、こうした関税重視の方針が、むしろ米国の経済的利益と国際的な影響力を損なっていると警鐘を鳴らしています。
トランプ政権の関税ロジックとその弱点
トランプ政権の関税戦略の前提にあるのは、「米国は世界最大の市場であり、最後は皆が米国に従わざるを得ない」という発想です。しかし、2025年の世界経済は相互依存が高度に進み、一国だけで完結するビジネスはほとんど存在しません。
関税を大幅に引き上げれば、その国に輸出する企業は打撃を受けますが、同時に輸入品に依存する米国内の企業や消費者もコスト増に直面します。また、相手国は対抗措置として報復関税を課すことができ、結果として双方の損失が拡大する「関税の応酬」に陥るリスクが高まります。
「経済大国だから一人勝ちできる」という発想
東京にある政策研究大学院大学の邢瑜青(Yuqing Xing)教授は、中国の国際ニュース専門チャンネルCGTNの番組「BizTalk」のインタビューで、トランプ氏の姿勢を次のように語っています。
「トランプ氏は、アメリカは世界最大の経済で、すべての交渉力を持っていると考えている。だからこそ、彼は一国でやろうとする、あるいはアメリカを一国だけにしようとしている。その姿勢は、同盟国との関係にも表れている」
―― 邢瑜青・政策研究大学院大学教授/CGTN「BizTalk」のインタビューより
邢氏が指摘するのは、「一国主義」に近い発想です。自国の規模と力を過信し、同盟国やパートナーとの調整よりも、自分のルールを押し通そうとする姿勢は、短期的には強く見えるかもしれません。しかし長期的には、信頼を損ない、関係国が米国以外の選択肢を真剣に探し始めるきっかけになりかねません。
進む地域連携と米国の「抜け落ち」
関税をてこにした強硬な交渉は、米国の同盟国や主要な貿易相手国との関係をぎくしゃくさせています。その結果として、世界各地で次のような動きが目立ちつつあります。
- 近隣諸国どうしで関税を引き下げる「地域貿易圏」の構築
- 複数国が参加する、新たな多国間の協議の場や枠組みづくり
- 米国への依存度を下げるためのサプライチェーン(供給網)の再編
こうした流れが強まるほど、「米国抜き」でルールが決まっていく場面が増えていきます。すると、世界最大の経済でありながら、米国は自らが主導しないルールにあとから従わざるを得ない立場に追い込まれる可能性があります。
関税で短期的な譲歩を引き出したとしても、長期的には「新しいルールづくり」のテーブルから距離を置かれることで、結果的に影響力を失っていく――。こうしたジレンマが、いまの米国の貿易戦略をめぐる最大の懸念と言えます。
失われつつある「リーダーシップ」という資産
これまで米国は、自由貿易の理念や国際ルールづくりを主導することで、単なる「大きな市場」を超えた存在感を持ってきました。多くの国が米国主導のルールに従ってきたのは、軍事力や経済規模だけでなく、「信頼できる枠組み」を提供してきたからです。
しかし、関税を前面に押し出し、相手国に一方的な譲歩を迫る姿勢が強まると、「米国が作るルールに従えば安心だ」という感覚は薄れていきます。その結果、各国は米国の外に代替的な枠組みを求め、米国のリーダーシップという重要な資産が少しずつ削られていきます。
日本の読者が押さえたい視点
日本やアジアの読者にとって、米国の関税政策は単なる「よその国の話」ではありません。世界最大の経済である米国が経済的に孤立すれば、輸出や投資、金融市場などを通じて、その影響は必ず波及します。
スマートフォンやSNSで日々国際ニュースを追う私たちが、今回の動きを考えるうえで、押さえておきたいポイントを整理すると次のようになります。
- 関税は短期的には圧力になり得るが、長期的には報復と迂回ルートを生みやすい
- 「一国主義」に近い姿勢は、同盟国やパートナーの信頼を損ないやすい
- 世界が地域連携や新しい多国間枠組みに向かう中で、米国が外側に回るリスクがある
- 米国のリーダーシップが弱まれば、日本を含む多くの国の選択肢や戦略も変わらざるを得ない
関税で守られるもの、失われるもの
トランプ政権の関税強化は、「米国第一」を掲げた力強いメッセージとして国内で支持を集める側面があります。しかし、その裏側で、国際社会との関係や長期的な影響力という目に見えにくい資産が損なわれつつあるのだとすれば、それは本当に米国にとって得策と言えるのでしょうか。
関税によって守られる産業や雇用もあれば、失われる信頼や機会もあります。いま世界で起きている変化を、日本語で丁寧に追いかけながら、「何を守り、何を手放しているのか」という問いを、私たち一人ひとりが共有していくことが求められているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








