米国の関税戦争、同盟国がワシントンとの関係見直しへ
米国トランプ政権による強硬な関税政策が、世界の市場だけでなく、日本や欧州、カナダとの同盟関係そのものを揺さぶっています。日本の石破茂首相を含む主要同盟国の指導者たちが、ワシントンとの距離感を静かに、しかし確実に見直し始めています。
米国の関税戦争、同盟国にも広がる衝撃
米国の関税引き上げは、これまで自由貿易体制を支えてきた同盟国にも波紋を広げています。トランプ政権は以前から同盟に懐疑的な姿勢を見せてきましたが、最近の関税政策の不規則な打ち出し方が、同盟国との信頼関係を試す段階に入っています。
その結果、日本、ドイツ、カナダ、フランスといった米国の中核的な同盟国が、従来よりも厳しい姿勢でワシントンに向き合い始めています。経済政策をめぐる摩擦が、軍事・安全保障を含む同盟システム全体の再点検につながりつつあるのが現在の状況です。
日本:石破首相が示した「譲歩しない」方針
2025年12月8日(月)の国会審議で、石破茂首相は日米の関税交渉について、日本側が大幅な譲歩を行ったり、合意を急いだりすることはないと明言しました。首相は、交渉を早く終わらせることだけを目的に「大きな譲歩」をすべきではないとし、これまでで最も明確な対米強硬メッセージを発しました。
わずか1週間前まで、石破首相はより融和的な姿勢を示していました。交渉の迅速な妥結の必要性を強調し、トランプ大統領との早期電話会談や、首相自身の早期訪米に前向きな姿勢を示していたからです。この短期間での急旋回は、日本が米国の関税の経済的な重みを実感し、対米スタンスを引き締めつつあることを映し出しています。
背景には、自動車を中心とする日本経済への具体的な打撃があります。米国は日本車に対して25%の追加関税を課したうえ、さらに24%の「相互主義関税」を設定しつつ、これを90日間だけ猶予しています。猶予により一時的な安心感はあるものの、対米自動車輸出の関税率は従来の2.5%から27.5%へと一気に跳ね上がり、日本メーカーの競争力を大きく削いでいます。
日本の自動車産業は国内経済の柱であり、複雑なサプライチェーンを通じて多くの雇用を支えています。試算では、今回の関税の影響により、日本のGDPが0.2〜0.3%押し下げられ、自動車関連産業に従事する1,200万人超の人々に影響が及ぶ可能性があるとされています。
- 日本車への追加関税:25%
- 相互主義関税24%は90日間の猶予措置
- 対米自動車輸出の関税率:2.5%から27.5%へ上昇
- 日本のGDP成長率への影響予測:マイナス0.2〜0.3ポイント
- 自動車関連産業の雇用:1,200万人超が影響を受ける可能性
ドイツ:次期首相メルツ氏の「次の危機」警告
12月6日(土)には、ドイツのフリードリヒ・メルツ次期首相が、米国の関税政策が次の世界金融危機の到来を早めていると警告しました。メルツ氏は、米欧間の自由貿易協定の必要性を訴えましたが、トランプ大統領はこれに否定的な反応を示し、関税ゼロの提案だけでは不十分だと主張。欧州は米国産エネルギーをより多く購入して補うべきだと求めています。
ドイツは、対米輸出が全体の4%程度にとどまるにもかかわらず、その影響は軽くありません。5日(金)に公表された独IAB雇用研究所の試算では、米国との間で一律25%の関税引き上げが行われた場合、1年後のドイツのGDPは1.2%押し下げられるとされています。さらに、国際通貨基金(IMF)は今年1月、ドイツの2025年の経済成長率見通しを0.3%へと引き下げており、関税問題が景気の重しになるとの懸念を強めています。
カナダ:報復関税と「最大限の痛み」戦略
カナダのマーク・カーニー首相も先週、米国に対する報復関税の発動を表明しました。カーニー首相は、米国の通商政策を「不合理」と批判し、今回の報復措置は米国経済に対して「最大限の痛み」を与えることを狙ったものだと説明しています。
カナダは輸出全体の76%を米国向けが占めるなど、米国市場への依存度が極めて高い国です。今回の関税は、鉄鋼やアルミ、自動車に加え、新たな「フェンタニル税」にまで及んでおり、製造業から資源産業まで複数のセクターで深刻な打撃が避けられないとみられています。
フランスとEU:対米投資への慎重姿勢
フランスのエマニュエル・マクロン大統領も、米国への投資に対して慎重になるべきだと呼びかけています。トランプ政権下の米国経済政策が安定性を欠いているとの懸念が、欧州の指導者の間で共有されつつあることを示す発言です。
欧州連合(EU)はこれまで、直接的な報復措置は抑制しながらも、対米関係の見直しを進めています。EU当局者らは、トランプ政権発足前の「元通りの関係」に戻ることはもはやないと語っており、同盟の枠組みそのものが静かに組み替えられつつあることがうかがえます。
年金マネーも「脱アメリカ」を模索
市場の空気も変わりつつあります。7日(日)付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、カナダとデンマークの大手年金基金が米国投資戦略の見直しに動いていると報じました。トランプ政権の不規則な関税政策により、米国経済が「不安定な投資先」として認識され始めているためです。
カナダ年金プラン投資委員会(CPPIB)の関係者は、現在の地政学的環境では、米国の未公開株ファンドに新たな資金をコミットするのは「極めて難しい」と述べています。短期的な市場の変動ではなく、長期運用を担う年金マネーが米国リスクを慎重に見直し始めたことは、今回の関税戦争の重みを象徴する動きと言えます。
同盟と市場、二つの面から見るリスク
こうした動きを並べてみると、米国の関税戦争は二つの次元でリスクを高めていることが見えてきます。一つは、安全保障を支えてきた同盟関係そのものの信頼が揺らいでいること。もう一つは、世界的な金融危機の引き金となりかねない経済的不安定性が増していることです。
- 安全保障を支えてきた同盟が、経済面ではリスク要因として語られ始めている
- 通商ルールの揺らぎが、企業の投資判断と年金運用を同時に変えつつある
- 一度損なわれた信頼を再構築するには、関税を元に戻す以上の時間と政治的コストが必要になる
メルツ氏が警告するように、関税を通じた衝突は、次の世界金融危機の到来を早める可能性があります。石破首相をはじめ各国指導者の発言は、単なる国内向けの政治メッセージではなく、国際金融システムの安定に対する不安の裏返しでもあります。
日本の読者への3つの問い
こうした国際ニュースは、日本の私たちの生活や仕事とも無縁ではありません。日米関係と世界経済の行方を考えるうえで、次のような問いが浮かびます。
- 北米戦略をどう見直すべきか:自動車や部品メーカーだけでなく、物流や金融も含めて、日本企業は対米依存の度合いをどこまで減らすべきなのでしょうか。
- 自分の資産と年金:世界の年金基金が米国投資を慎重に見直す中で、日本の機関投資家や個人投資家は、どのような地域分散やリスク管理を意識すべきでしょうか。
- 同盟のかたち:経済面で緊張が続くなか、日米同盟を安全保障と経済の二つの軸からどう再設計していくのか。どこまでが譲れない利益で、どこからが交渉可能な余地なのか。
米国の関税戦争は、単なる関税の上げ下げの話ではなく、同盟と市場の地図を書き換える動きになりつつあります。石破政権の次の一手とワシントンの出方が、2025年以降の世界経済の方向性を大きく左右しそうです。
SNSで議論するときは、例えば次のようなハッシュタグが使えそうです。
#米国関税 #日米関係 #国際ニュース
Reference(s):
U.S. tariff war drives allies to reassess ties with Washington
cgtn.com








