中国の増量政策が開く新たな消費ブルーオーシャン
中国で、既存の消費促進策に加えて「増量政策」と呼ばれる新たな施策パッケージが動き出し、2025年の消費市場に新しい「青い海(ブルーオーシャン)」を開こうとしています。本稿では、スマートフォン補助から働き方の見直しまで、中国の最新動向を整理します。
既存政策+増量政策、「二つのエンジン」で消費を押し上げ
中国政府は最近、消費の底上げと内需拡大をねらい、既存の政策と新たな増量政策を組み合わせた「二つのエンジン」型のテコ入れを進めています。2025年3月16日には、中国共産党中央委員会弁公庁と国務院弁公庁が、全国的な消費拡大のための特別行動計画を公表し、財政・金融・産業・投資政策と消費政策を一体的に運用する方針を示しました。
こうした方針に沿って、既存策に上乗せするかたちで、次のような増量政策が打ち出されています。
- 「二つの新」と呼ばれる、大規模な設備更新と消費財の買い替え支援
- 家電や自動車など従来の対象に加え、スマートフォンやタブレット、スマートウォッチ、フィットネスバンドなどデジタル機器への補助拡大
- 国家データ局によるデジタル消費高度化イニシアチブを通じた、新しいデジタル消費シナリオの創出
とくに「二つの新」政策は、2024年に導入された設備更新と買い替え促進策を土台に、2025年には対象製品や補助の範囲を広げる形で発展しています。4月15日には、国家データ局がスマートフォンなど電子製品の需要拡大も視野に入れたデジタル消費の高度化策を打ち出し、オンラインとオフラインを組み合わせた新たな消費シーンづくりを進めています。
2025年の拡充策でスマホ需要が急伸
2025年に入って拡充された増量政策は、すでに数値の上でも効果を示しています。「二つの新」政策にスマートフォンやタブレットなどが加わったことで、関連製品の販売が勢いを増しました。
2025年1〜2月には、一定規模以上の企業による通信機器の小売売上高が前年同期比26.2%増と、大きく伸びました。価格が6,000元未満のスマートフォンの販売台数は4,422万台、売上額は1,126億元となり、それぞれ前年同期比8.8%増、19.3%増を記録しています。
本来、スマートフォンは耐久消費財であり、買い替えサイクルは長くなりがちです。調査会社のデータによると、2024年には消費者の51.34%が「3〜4年ごとに買い替える」と回答し、「5年以上使う」と答えた人も12.52%に達しました。2022年時点では、それぞれ43.2%と6%でした。買い替え期間が延びる傾向が強まるなかで、単に製品を並べるだけでは消費は伸びにくくなっています。
その意味で、今回のような強いインセンティブと魅力的な補助金が、スマートフォンをはじめとする耐久財の需要を押し上げ、生産と消費の循環をなめらかにし、産業回復に新たな原動力を与えているといえます。
政策配当が広げる「新しい消費の青い海」
米国による「相互関税」と呼ばれる措置の実施などにより、中国は2025年に向けて大きな外部リスクと成長安定へのプレッシャーに直面しています。こうした状況下で、内需、とくに個人消費が経済成長を支える役割は一段と重くなっています。
そのなかで、政府が打ち出す増量政策は、従来型の消費喚起策にとどまらず、新しい消費空間を切り開くことも目指しています。具体的には、次のような措置が挙げられます。
- 個人向けインターネット消費ローンの上限額を20万元から30万元へ引き上げ、返済期間も最長5年から7年へ延長
- 第三子のいる家庭に対し、地方政府が最大10万元の補助金を支給する制度を導入
こうした金融面・家計支援面の政策が「政策配当」として徐々に表面化するなかで、中国ではここ数年、次のような新しいタイプの消費が急速に広がっています。
- 冬季観光や氷雪スポーツを軸にしたウインター消費
- ペットフードやスマート機器、専門サービスなどを含むペット関連消費
- 漫画やアニメなどACGN文化に紐づいたキャラクターグッズなどの消費
- 伝統文化を取り入れた「中国風」ファッションやコスメなどの消費
- 低空観光や航空スポーツ、個人向けドローンの活用を含む新たな体験型消費
- 高齢者を主な対象とした「シルバー経済」分野のサービスや商品
- 外国人観光客のニーズに応えるインバウンド消費
これらの分野は、いずれも未開拓の市場が広がる「青い海」として注目されています。短期的には家計消費を押し上げるだけでなく、経済成長の構造変化や消費の高度化を促し、「量の拡大」から「質とイノベーション重視」の成長モデルへの転換を後押しします。その結果として、過剰生産の圧力や資源のムダを軽減し、経済全体の効率向上にもつながるとみられます。
消費を阻む三つのハードル:「お金・不安・時間」
もっとも、どれほど政策が充実しても、家計の実感が伴わなければ、消費の拡大には限界があります。中国の多くの住民が直面しているとされるのは、次の三つのハードルです。
- 十分な収入がなく「お金がない」
- 教育費や医療費、老後への不安が強く「安心して使えない」
- 長時間労働で「使う時間がない」
これらをどう解消するかが、今後の増量政策の実効性を左右するポイントとなります。
1. 「お金がない」─雇用の安定と所得の底上げ
「お金がない」問題に対しては、雇用の安定を図りつつ、家計の可処分所得を着実に増やす政策が重要だと指摘されています。具体的には、安定した雇用機会の確保、賃金水準の着実な引き上げに加え、利子や配当、家賃収入などを含む資産所得を多様な手段で増やしていく取り組みが挙げられます。家計に「使えるお金」が増えてこそ、消費は持続的に拡大していきます。
2. 「安心して使えない」─社会保障の安心感づくり
「不安で使えない」問題に関しては、将来への心配を和らげる社会保障制度の整備がカギになります。子どもの教育費、重い病気の治療費、親世代の介護負担といった不安を軽減できれば、人びとは「今の生活の質」を高めるための支出をしやすくなります。
そのためには、医療や年金、介護、子育て支援などの分野で、制度の手厚さと使いやすさを高めることが求められます。増量政策による短期的な補助と、中長期の社会保障改革がかみ合うことで、家計の心理的ハードルは低くなっていきます。
3. 「時間がない」─働き方と休暇制度の見直し
最後の「時間がない」問題は、働き方そのものに関わります。論考は、午前9時から午後9時まで週6日働くとされる、いわゆる「996」勤務文化を抑制し、法定の1日8時間労働と週2日の休日制度を徹底する必要性を指摘しています。
さらに、法定休日の日数を増やしたり、長期連休を取りやすくする柔軟な有給休暇制度を導入したりすることで、人びとが旅行やレジャー、学び直しなど、さまざまな消費活動を楽しむ時間を確保できるようにするべきだとしています。心身ともに余裕があってこそ、消費は広がりやすくなります。
これからの焦点:政策と生活実感をどう結びつけるか
2025年の中国では、既存政策と増量政策を組み合わせた「二つのエンジン」で消費を押し上げる取り組みが続いています。スマートフォン補助や新しい消費分野の育成は、その一部にすぎません。今後は、所得の向上や社会保障の充実、働き方の見直しといった生活の基盤に関わる課題へ、どこまで踏み込めるかが大きな論点になっていきます。
日本を含む他の国や地域にとっても、人口構造の変化やデジタル化が進むなかで、どのように消費の「青い海」を開き、人びとの暮らしと成長戦略を両立させていくかは共通のテーマです。中国の動きは、そうした課題を考えるうえで、一つの重要な参照点になりつつあります。
Reference(s):
cgtn.com








