米国関税で試される浙江・慈渓の家電産地 多角化とデジタル化で活路
米国による追加関税で輸出が揺れるなか、中国本土の家電生産拠点・浙江省慈渓市では、市場の多角化と国内需要の取り込み、デジタル技術の活用によって新たな成長モデルを模索しています。本稿では、国際ニュースとしての米中貿易摩擦の一断面である慈渓の動きを、日本語で分かりやすく整理します。
米国向け比率16% 追加関税で在庫が山積みに
慈渓市は、中国本土の三大小型家電生産拠点の一つとされ、これまで米国市場に輸出の約16%を依存してきました。しかし、米国の突然の追加関税により、現地のメーカーは在庫の滞留や受注停止といった現実的な打撃に直面しました。
慈渓にあるある家電メーカーでは、米国向けの冷蔵庫や洗濯機が約3,000台も倉庫に積み上がる事態となりました。同社のマネージャー、Shen Xuejiang氏によると、輸出契約では30%の前払い金を受け取る仕組みを採用し、製品同士で約70%の部品を共通化しているため、米国向けとして製造した製品も他地域向けに仕様変更して販売できるといいます。
Shen氏は、たとえ米国の取引先が支払いを履行しなくても、前払い金で再梱包や仕様変更にかかるコストの多くは賄えると説明します。とはいえ、輸出注文の3分の1を失った影響は小さくなく、同社の生産ラインは大きな転換を迫られました。
90カ国以上へ輸出 「脱・米国依存」の多角化戦略
こうした逆風の中で、同社が掲げるキーワードが「市場の多角化」です。これまで米国向けだった生産ラインの一部は、イタリア、メキシコ、アルゼンチンなど、90カ国以上の新たな取引先向けに再編されています。
生産ディレクターのMa Pinlei氏は、リスク分散のために一つの市場への依存度を下げることが不可欠だと強調します。その一環として、これまで最低20コンテナ単位だった注文条件を、8〜10コンテナ程度まで引き下げました。これにより、中小規模の海外バイヤーでも取引しやすくなり、受注を細かく積み上げることで、全体として安定した輸出を維持しているといいます。
こうした柔軟な条件変更は、国・地域ごとに需要が分散する現在の国際市場に合わせた対応ともいえます。大口・少数の取引から、中口・多数の取引へとポートフォリオを転換することで、特定市場の変動リスクを和らげる狙いです。
国内の「以旧換新」と補助金 内需で下支え
輸出だけでなく、国内市場も慈渓の家電産業を支える重要な柱です。中国本土では、老朽化した家電を下取りして新製品に買い替える「以旧換新」政策と、国の補助金制度が相まって、家電の需要を押し上げています。
2024年だけでも、こうした政府の還付・補助によって、慈渓のメーカーでは数千万元規模の売り上げが生まれました。2025年の補助プログラムに向けて、企業側も対象製品の拡大や販促の強化を進めており、外需の不透明感を内需でどこまで補えるかが注目されています。
米国向け輸出が一時的に滞っているにもかかわらず、Shen氏は、同社の年間業績目標は据え置いていると話します。輸出と内需の「二本柱」で全体のバランスを取り、短期的なショックを吸収する構図です。
「慈渓優品館」でバイヤーを直結 東南アジアにも拠点
企業側の努力を後押ししているのが、地元当局の支援策です。その象徴的な取り組みが、慈渓市が設けたショールーム兼商談拠点「慈渓優品館」です。ここでは、1,500点を超える高品質な地場製品が展示され、国内外のバイヤーがメーカーと直接つながれる仕組みになっています。
日本の輸入業者であるHayakawa Taiji氏は、このプラットフォームを利用することで、短時間で多様な商品を比較できる効率性を評価しています。従来のように複数の工場を個別訪問したり、中間業者を介したりする必要が減るため、調達コストと時間の削減につながっているといいます。
さらに、優品館はベトナム、タイ、ラオスにも家電の展示センターを設置し、地域市場との接点を広げています。優品館の責任者Lu Yingzhen氏によると、製品認証の手続きを一括して管理する体制を整えた結果、これまで5〜6カ月かかっていた認証取得期間が、最短45日程度まで短縮されたといいます。
これにより、新製品を東南アジア市場に投入するまでのリードタイムが縮まり、米国向けの減速を他地域で素早く補うことが可能になりつつあります。
電子商取引と「デジタルヒューマン」 販路のオンライン化
慈渓市商務局が最近行った調査では、企業が抱える課題として、在庫の滞留、受注の停止、代金決済の遅延などが浮き彫りになりました。これを受けて、複数部門が連携するタスクフォースが立ち上がり、輸出企業が国内販路に軸足を移しやすいよう支援策を講じています。
具体的には、電子商取引(EC)プラットフォーム上に、輸出向け商品をまとめて紹介する特設ゾーンが設けられ、マーケティング支援やアクセス増加のための施策が提供されています。海外バイヤー向けに設計された製品が、国内消費者にも直接届く仕組みづくりが進んでいる形です。
衛生設備メーカーのPan Xian氏の企業では、デジタル技術の活用がさらに一歩進んでいます。同社は、CGアバターを用いた「デジタルヒューマン」によるライブ配信を導入し、24時間体制でオンライン販売を展開。人件費を抑えながら、国内顧客へのリーチを広げています。
商務局は今後も、地域の展示会や商談会を多数開催し、海外向けに特化していた企業が、地元の小売店やスーパーマーケットの流通ネットワークにスムーズに参入できるよう後押しする計画です。
慈渓モデルが示す、サプライチェーンの新しいかたち
米国の追加関税という外部ショックは、慈渓の家電産地にとって大きな試練となりましたが、それは同時に、ビジネスモデルをアップデートするきっかけにもなっています。
- 輸出市場の多角化(米国から欧州、中南米、東南アジアなどへ)
- 国内の以旧換新や補助金を活用した内需の開拓
- 優品館や海外展示センターを通じたバイヤーとの直接接点
- ECとデジタルヒューマンを組み合わせたオンライン販売
これらを組み合わせることで、慈渓の小型家電産業は、新興市場へ向けて製品を送り出すルートを増やし、まさに東南方向へ飛び続ける道を探っています。
日本の読者にとっても、こうした動きは無関係ではありません。中国本土の生産・流通の変化は、家電を含む幅広い製品の価格や調達先、多様性に影響を与えます。単なる米中の関税ニュースとして片付けず、企業がどのようにリスクを管理し、新しい市場を開き、技術を活用しているのかを見ることは、東アジア全体のサプライチェーンの未来を考えるヒントにもなりそうです。
Reference(s):
Zhejiang’s Cixi Home Appliance Firms Diversify as U.S. Tariffs Bite
cctv.com








