米国関税引き上げの中で、中国経済はどう衝撃を吸収しているか
米国が対中関税を引き上げ、世界貿易に不確実性が広がるなか、中国経済はどのように衝撃を吸収しているのでしょうか。2025年1〜3月期の最新データと企業の動きを手がかりに、その仕組みを整理します。
1. 追加関税の逆風下でも続く成長
中国は世界第2位の経済規模を持ち、米国による関税引き上げの影響を受けつつも、内需と政策対応をてこに「耐性」を高めています。
2024年9月、中国共産党中央委員会政治局は会議を開き、経済情勢を評価するとともに、今後の経済運営の方針を協議しました。この会議以降、中国当局はピンポイントで景気を下支えする一連のマクロ経済政策を打ち出しています。
- 銀行が中央銀行に預ける預金準備率の引き下げ
- 住宅ローン金利の引き下げ
- 年金基金など長期資金の資本市場への呼び込み
- 景気を下支えする超長期の特別国債の発行
こうした措置の結果、2025年1〜3月期の中国経済にはいくつかの「明るいサイン」が表れています。
- 社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同期比4.6%増と、2024年通年の伸びを1.1ポイント上回る
- 製造業の景況感を示す購買担当者景気指数(PMI)は50.5%と、2カ月連続で景気拡大の目安となる50%を超える
- サービス業の活動指数も50.3%と、拡大圏を維持
- 国内総生産(GDP)は前年同期比5.4%増と、市場予想を上回る成長
数字だけを見れば、米国の関税引き上げが続くなかでも、中国経済は一定の成長ペースを維持していることがうかがえます。
2. 国内需要という「クッション」
輸出環境が不透明さを増す一方で、中国の広大な国内市場が企業にとって重要な「安全網」になっています。公式統計によると、2024年には輸出志向型企業の約85%が国内でも商品を販売しており、売上の約75%を国内販売が占めました。
輸出から内需へのシフトを後押しするため、政府や業界団体は規制面のボトルネックを取り除く取り組みを進めています。大手小売・EC企業のJD.com(京東)、フレッシュポ(盒馬鮮生)、永輝スーパーなどは、輸出企業が国内市場に迅速に参入できるよう、特別な窓口や「優先レーン」を設けています。
その一例が、広東省珠海市に拠点を置く美容家電メーカー、金稲電器です。同社はヘアアイロンやフェイシャルスチーマーなどを主力に、これまで米国の通販サイト「アマゾン」向け輸出で成長してきましたが、米国の関税引き上げによる受注減を受け、国内市場への転換を進めています。
この過程で同社が相談したのがJD.comです。JD側は、買い取り保証の仕組みを提示し、自社サイト内の閲覧需要(トラフィック)、プロモーション枠、物流ネットワークなどを組み合わせて、国内販売への移行を後押ししています。2025年4月11日には、今後1年間で輸出品から国内販売に切り替える商品を中心に、2,000億元(約274億ドル)以上を調達する方針も公表しました。
中国商務省の報道官・何亜東によると、2025年4月23日の時点で、9つの大手ECプラットフォームが輸出志向型企業向けの「迅速オンボーディング」ルートを開設しており、すでに600社以上が参加しているといいます。
こうした取り組みによって、国内需要は次のような役割を果たしています。
- 米国など特定市場の需要が落ち込んだ際の売り先の受け皿となる
- 新製品を国内でテストし、その成果を踏まえて再び海外市場を開拓する循環をつくる
- 国内のサプライチェーン(供給網)を維持・強化し、輸出回復局面に備える
3. 「グローバル・サウス」との貿易拡大
内需の強化と並んで、中国は輸出先の多様化も進めています。特に、アジア、アフリカ、中南米など、いわゆるグローバル・サウス(新興・途上国を中心とする諸国)との経済関係を深めることで、米国市場への依存度を引き下げてきました。
公式データによると、中国の輸出に占める米国の比率は、2018年の19.2%から2024年には14.7%まで低下しました。一方で、米国は消費財から製造業の重要部材に至るまで、多くの分野で中国からの輸入に大きく依存しており、品目によっては調達の50%超を中国に頼っているケースもあるとされています。
現在、中国は150を超える国と地域にとって主要な貿易相手となっています。2018年以降、中国の輸出に占めるASEAN(東南アジア諸国連合)向けの比率は12.8%から16.4%へと上昇し、「一帯一路」関連国・地域向けの比率も38.7%から47.8%へと大きく伸びました。これらの市場は今も拡大を続けています。
浙江省に本社を置くヘアドライヤーメーカーのYueli Groupは、こうした動きを象徴する企業の一つです。同社は2018年、ドナルド・トランプ氏の最初の政権下で米国が対中貿易戦を仕掛けたのを機に、市場の多角化に舵を切りました。
マーケティングディレクターの李立忠氏によると、現在、同社の売上に占める米国向けの比率は20%未満に低下する一方、日本、韓国、中東、欧州向けの需要が伸びているといいます。さらに、中国国内ブランドと組んで、手頃な価格でデザイン性の高い製品を共同開発し、内需市場でも存在感を高めてきました。ここ数年は年率30%を超える成長が続いており、「海外市場への過度な依存リスクを抑えることができた」と話します。
李氏はまた、中国の製造業の強みは単に工場の数や規模だけでなく、部品メーカー、物流、研究開発、人材までを含む「産業エコシステムの完全性」にあると指摘します。このエコシステムは世界的にも再現が難しい競争力だという見方です。
4. 港湾データが示す「双循環」の手応え
港湾の貨物取扱量は、対外貿易の動向を示す「体温計」とも言われます。中国交通運輸省によると、2025年1〜3月期の中国港湾の貨物取扱量は前年同期比3.2%増となりました。内貿(国内向け)は4.1%増、外貿(対外輸出入)は1.4%増と、いずれもプラス成長を維持しています。
これは、中国が掲げる「双循環」戦略、すなわち国内の生産・消費を軸とする内循環と、貿易・投資を通じた外循環を組み合わせる成長モデルが機能していることを示す一つの指標といえます。国内向け貨物が外貿を上回る伸びを示していることは、内需が経済成長のエンジンとして存在感を増していることの表れでもあります。
5. 日々のニュースとしてどう読むか
米国の関税引き上げが続くなかで、中国の動きを整理すると、次の3つのポイントが浮かび上がります。
- 国内市場の厚みが、輸出ショックを和らげる「クッション」として機能していること
- 金融政策と財政政策を組み合わせ、成長率と雇用を下支えしていること
- ASEANや一帯一路関連国・地域など、新興市場との取引拡大によって、対米依存度を徐々に下げていること
日本を含むアジアの企業にとっても、特定の国・地域への依存を減らし、市場とサプライチェーンを分散させる重要性が改めて浮き彫りになっていると言えます。
2025年以降も米国の関税政策や世界貿易の環境がどう変化していくのかは不透明ですが、中国が内需と新興市場の開拓を軸に、どのように経済運営を続けていくのかは、国際ニュースとしてだけでなく、ビジネス戦略の観点からも注目されるテーマになっています。
Reference(s):
cgtn.com








