米国の関税は途上国を危機に 中国人民銀行総裁がIMF会合で警鐘 video poster
リード:米国の関税が新興国と世界経済に投げかける影
2025年の世界経済が減速感を強めるなか、米ワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)の国際通貨金融委員会(IMFC)第51回会合で、中国人民銀行(PBOC)の潘功勝(パン・ゴンシェン)総裁が、米国による関税の「乱用」が新興国や途上国を危機に追い込んでいると警鐘を鳴らしました。ほぼ同時期に開かれた世界銀行の開発委員会でも、中国の藍佛安(ラン・フォーアン)財政相が保護主義のリスクを指摘しており、国際経済秩序をめぐる議論が一段と熱を帯びています。
- 米国の関税政策が世界経済・金融に与える影響
- IMFクオータ(出資割当)改革をめぐる新興国の主張
- 中国が掲げる「真の多国間主義」と自由貿易の方向性
IMF会合で潘総裁が示した3つの懸念
潘総裁は、IMFの政策委員会にあたるIMFC第51回会合で、世界経済の現状と米国の関税措置について詳しく言及しました。
1. 世界経済の成長モメンタムは依然として弱い
潘総裁はまず、「世界経済の成長テンポは依然として弱く、下振れリスクが目立っている」と指摘しました。地政学的な緊張や高い金利水準などが重なり、先行き不透明感が強まっているとの見方です。
2. 米国の関税「乱用」が多国間体制を揺るがす
そのうえで潘総裁は、最近の米国による関税措置について、次のような点を強く問題視しました。
- 他国の正当な権益を深刻に損なっている
- ルールに基づく多国間ガバナンス(国際協調の枠組み)を著しく傷つけている
- 世界経済秩序に大きな打撃を与えている
- 世界経済の長期的な安定と成長を損なっている
潘総裁は、こうした関税の「乱用」が先進国の金融市場に急激な変動をもたらし、結果として世界的な金融不安を招いていると警告しました。
3. 新興国と途上国への「重大な挑戦」
特に影響が大きいのが、新興国や途上国だといいます。資本流出や通貨の下落、資金調達コストの上昇など、世界の金融市場の揺れが、より脆弱な経済に重くのしかかりやすいためです。
潘総裁は、こうした状況が「新興市場経済と発展途上国に重大な挑戦を突き付けている」と述べ、世界の金融安定そのものが脅かされているとの危機感を示しました。
必要なのは「政策協調」と「開かれた経済グローバル化」
では、何が求められているのでしょうか。潘総裁は、各国が次のような方向で協力を強める必要があると訴えました。
- マクロ経済政策(財政・金融政策)の協調を強化する
- 多国間の自由貿易体制を支える仕組みを守る
- 経済のグローバル化を、より開かれた・包摂的で・公平かつバランスのとれた方向へ進める
- 世界経済と世界金融の安定を、各国が共同で守る
潘総裁は、中国が「真の多国間主義」を掲げ、経済のグローバル化と自由貿易を支持する立場であることを強調しました。そのうえで、中国は世界貿易機関(WTO)の「擁護者・支持者」として、国際経済ガバナンスに積極的に関与し、開かれた世界経済の構築に取り組んでいると述べました。
また、中国はIMFとの協力をさらに深め、世界経済・金融の安定を守るうえで、IMFがより重要な役割を果たすことを支援していく考えを示しました。
IMFクオータ改革:新興国の声をどう反映するか
今回の発言で目を引くのが、IMFの「クオータ」(出資とそれに基づく投票権)改革をめぐる主張です。IMFは加盟国の経済規模などに応じてクオータを配分し、それが資金拠出の比率であると同時に、意思決定における投票権にも直結します。
潘総裁は、IMFが「クオータを基礎とする機関」である以上、クオータ配分を現実に合わせて見直すことが、ガバナンス改革の核心だと強調しました。その目的として、次の点を挙げています。
- IMFの正当性(レジティマシー)を高める
- 政策運営の実効性を高める
- 新興国・途上国の経済的重みを反映し、代表性を強化する
具体的には、すでに約束された第16次クオータ一般見直し(16th GRQ)に基づくクオータ増額について、各国が国内手続きを遅滞なく完了させるよう呼びかけました。
同時に、IMFが「時間との競争」を意識しながら、第17次クオータ一般見直し(17th GRQ)に向けた準備を加速すべきだとも指摘しました。その中には、新しいクオータ算定式を含む議論を進めることも含まれます。潘総裁は、こうしたプロセスを通じてIMFの信認を維持し、新興国・途上国の実力を反映した「意味のあるクオータ再配分」を早期に実現すべきだと訴えました。
世界銀行開発委員会:藍財政相が保護主義のリスクを指摘
IMF会合と並行して、世界銀行の開発委員会第111回会合もワシントンで開催されました。ここでも、保護主義と国際協調の行方が重要なテーマとなりました。
会合に出席した中国の藍佛安財政相は、世界的な協力を続けることが、安定と「共通の繁栄」を実現する鍵だと強調しました。そのうえで、現在の保護主義的な貿易政策が、世界の貧困削減や開発努力にとって大きなリスクになっていると指摘しました。
藍財政相は、世界銀行などの国際機関に対し、次のような原則を積極的に擁護するよう呼びかけました。
- 差別のない取り扱い(ノン・ディスクリミネーション)
- 自由貿易の促進
- 開かれた、協力的な国際環境の維持
こうした発言は、IMF会合での潘総裁のメッセージとも響き合うものであり、経済のグローバル化を後退させないよう国際社会に求める内容となっています。
新興国・途上国にとっての意味:3つのポイント
今回のIMF・世界銀行の一連の会合と、中国側の発言が示すポイントを、新興国・途上国の視点から整理すると、次のようになります。
- 金融市場の変動リスク:主要国の関税政策や金融政策の変更が、通貨や資本の急激な動きを通じて、新興国・途上国の経済を不安定にしやすい。
- ルールづくりへの参加:IMFのクオータ改革は、新興国・途上国が国際金融のルールメイキングにどこまで関与できるかという問題と直結している。
- 開かれた貿易環境の維持:保護主義が強まれば、輸出や投資に依存する多くの新興国・途上国にとって成長の機会が狭まり、貧困削減も難しくなる。
私たちはこの議論をどう受け止めるか
米国の関税政策をめぐる議論は、単なる二国間の対立ではなく、「誰がどのルールに基づいて世界経済を運営していくのか」というガバナンスの問題でもあります。潘総裁や藍財政相の発言は、その中で新興国・途上国の立場と声をどう位置づけるか、という問いを国際社会に投げかけています。
日本やアジアの企業・投資家・市民にとっても、
- 関税や貿易ルールの変化が、自社のサプライチェーンや投資先にどう影響するか
- 国際機関のガバナンス改革の行方が、長期的な市場の安定性にどう関わってくるか
- 「開かれた経済」と「公平なルールづくり」を両立させるために、どのような国際協調が望ましいのか
といった点を考えるきっかけになりそうです。
スマートフォンの画面越しに追う国際ニュースの一つに見えるかもしれませんが、その背後では、これからの世界経済のルールとバランスをめぐる静かな駆け引きが続いています。読者のみなさんは、どのような「グローバル化」と「多国間主義」が望ましいと思うでしょうか。
Reference(s):
PBOC governor: U.S. tariffs put developing countries at risk
cgtn.com








