中国が初の環境法典草案 気候変動とグリーン発展を体系化
中国が初の環境法典草案を公表
中国が、環境分野で初となる包括的な「環境法典」の草案を公表しました。国の最高立法機関である全国人民代表大会(全人代)常務委員会に初めて提出され、環境保護から気候変動対策、グリーン・低炭素発展までを一つの法体系としてまとめる野心的な試みです。
この環境法典草案は、中国の環境法制を大きく再編する動きであり、国際ニュースとしても今後の気候ガバナンス(気候変動をめぐる国際的なルールづくり)に影響を与える可能性があります。
5編・1,188条の大規模な「法典」
今回公表された環境法典草案は、全体で1,188条という大規模な内容です。構成は次の5編からなります。
- 総則
- 汚染防止および管理
- 生態環境の保護
- グリーン・低炭素発展
- 法律責任および附則
成立すれば、中国にとっては2020年に制定された民法典に続く2つ目の「法典」となります。環境法典の編纂作業は2023年に始まりました。
中国では1979年に初めて環境保護法が制定されて以降、この分野の立法が急速に進みました。現在では、環境保護に関する法律が30本以上、行政法規が100本超、そのほか多数の関連文書が存在し、比較的包括的な法体系が築かれています。
しかし、法律や規則が分野ごと・時期ごとに積み重なってきた結果、制度が重複したり、抜け落ちが生じたりする課題も指摘されてきました。中国政法大学の王灿発教授は、環境法典の編纂によって「立法の体系的な統合が進み、法体系の空白を埋め、エコ環境法の地位と権威を高め、執行やコンプライアンス(法令順守)がより便利になる」と述べています。
背景にある「グリーン発展」と環境改善
中国は長年「グリーン発展」を掲げ、環境保護と経済成長を両立させる方針を打ち出してきました。その結果として、特に大気質の改善や森林資源の拡大で世界をリードする存在になっているとされています。
2024年には、都市部の大気環境に関して目に見える改善がみられました。地級市(日本の県庁所在地クラス)以上の都市における微小粒子状物質(PM2.5)の平均濃度は1立方メートル当たり29.3マイクログラムで、前年から2.7%減少しました。
また、中国は世界最大規模の人工造林面積を持つ国でもあります。2024年だけで445万ヘクタールの植林が行われ、322万ヘクタールの草地が改善されたとされています。こうした数字は、環境法典が目指す「エコ文明」の土台として紹介されています。
それでも「臨界段階」にある生態保全
一方で、中国の生態環境の保全は「依然として重要な山場にあり、大きな課題に直面している」との認識も示されています。全人代常務委員会法制工作委員会の沈春耀主任は、環境法典草案の必要性を説明する中で、「美しい中国」の建設や、自然と調和した現代化の推進には、なお長期的で粘り強い努力が必要だと強調しました。
環境法典の審議が行われる会期は4月27日から30日までに設定され、この期間に環境法典草案やその他の法案が審査されることになっていました。環境問題が長期戦であることを踏まえ、そのルールづくりを急ぐ姿勢がうかがえます。
気候変動・カーボンニュートラルをどう位置づけるか
今回の環境法典草案の特徴の一つが、「グリーン・低炭素発展」という独立した編を設けている点です。ここでは、気候変動やカーボンピーク(排出量のピーク到達)およびカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)に関する基本的な原則と指針が示されています。
草案は、国際的な動向と国内の事情の両方を考慮しつつ、気候変動の「緩和」(排出削減)と「適応」(影響への備え)の両面から取り組む必要性を明記しています。また、中国は気候変動に関する国際協力に積極的に関与し、国際的な気候ガバナンスに参加し、貢献し、さらにはリードしていくとしています。
中南財経政法大学の法科学院の張忠民教授は、「気候変動への対応はグローバルな課題です」とした上で、この草案は国内外の取り組みのバランスを取りつつ、緩和と適応を強調し、国際協力の条項を含んでいる点が国際的な影響力の向上につながると評価しています。
大気・水・土壌…汚染と生態を一体で守る
環境法典草案は、さまざまな分野の汚染防止・管理に関する規定も盛り込んでいます。対象となるのは、
- 大気汚染
- 水質汚濁
- 土壌汚染
- 固体廃棄物
- 騒音
- 放射性汚染源
- 化学物質
- 電磁放射
- 光害(ライトポリューション)
といった幅広い分野です。
「生態保護」の編では、森林、草原、湿地、海洋と海島、河川や湖沼、砂漠、雪山、氷河、耕地など、さまざまな生態系を対象に保全を強化する方針が示されています。重要な生態系の保護・修復に関する大型プロジェクトも推進するとされています。
王灿発教授は、環境法典の公布と施行によって、「大気・水・土壌・生物多様性の統合的な保護」と「山・川・森林・農地・湖・草原・砂漠の一体的な管理」が進むと期待しています。個別の規制を超え、環境全体を一つのシステムとして捉える発想です。
経済・社会発展とのバランスをどう取るか
環境法典のもう一つの柱は、経済・社会発展と環境保護のバランスを明確に打ち出している点です。王教授は、中国の環境法典が、経済や社会の発展と環境保護との調和を図ろうとしているのに対し、一部の国では環境保護か経済成長か、どちらか一方に重点を置く傾向があると指摘しています。
環境政策をめぐっては、「成長」と「規制」が対立軸として語られることが少なくありません。今回の環境法典草案は、その二者択一を超え、長期的な発展戦略の中に環境保護を組み込もうとするアプローチだと見ることができます。
世界への発信、日本への示唆
全国人民代表大会環境・資源保護委員会の呂忠梅副主任は、環境法典は中国の国情に根ざしつつ、他国の優れた実務や法典化の経験も取り入れていると説明します。そのうえで、「グリーン・低炭素発展」を独立した編として設けたことは、他国には見られない重要な特徴だと強調しました。
呂氏はまた、環境法典が持つ地球規模での意義として、持続可能な発展という基本理念に基づき、世界のエコロジーの進歩における画期的な成果となりうること、さらには他国にとっての立法モデルとなり、エコロジー法の発展をリードしていく可能性があると述べています。
日本を含む各国にとって、中国の環境法典は次のような問いを投げかけているとも言えます。
- 分野ごとに分かれている環境関連法を、どこまで一つの「法典」にまとめるべきか。
- 気候変動やカーボンニュートラルの目標を、どのレベルの法律に位置づけるのか。
- 経済成長と環境保護を両立させるために、どのようなルール設計が有効か。
まだ草案段階とはいえ、中国の環境法典づくりは、環境法制の次の形を考えるうえで、国際社会にとって重要な参照点となりそうです。今後の審議の行方や、実際の運用がどのように進んでいくのか、引き続き注目されます。
Reference(s):
cgtn.com








