米国の関税は「隠れ増税」? 物価高とインフレ期待から見える真の負担
米国の関税政策は本当に「他国を懲らしめる」手段なのでしょうか。それとも、実は自国の国民に重い負担を強いる「隠れた税金」なのでしょうか。トランプ政権の関税政策と、卵や医薬品の値上がり、インフレ期待のデータから、その実像を見ていきます。
トランプ政権の関税政策、誰のための政策か
トランプ政権は発足後、他国に対して繰り返し関税を導入してきました。こうした関税は、世界の貿易の流れを乱しただけでなく、米国経済そのものにも大きな負担をもたらしていると指摘されています。その影響は、守るべき対象だったはずの米国の人々に、今まさに跳ね返っているとみられます。
卵と医薬品が教える「関税=隠れ増税」
卵1ダースが6.23ドルに上昇
物価上昇の影響は、米国の生活者のごく身近なところに現れています。食卓に欠かせない卵の価格は、その象徴です。
- 米労働統計局の最新データによると、2025年3月には卵1ダースの価格が6.23ドルに達しました。
- 小売価格は過去最高を何度も更新し、生活コストを大きく押し上げています。
米誌ニュースウィークは、こうした卵価格の高騰について、米国の関税政策が「ブーメラン」のように跳ね返ってきていると指摘しました。輸入品に課された関税がコストを押し上げ、その分が価格に上乗せされ、最終的に米国の消費者が支払うことになっているという見方です。
医薬品関税が押し上げる医療費
影響は食料だけではありません。医薬品価格も急速に上昇しています。
- 米国の製薬業界団体が委託した報告書によれば、医薬品への関税によって、米国内の年間医薬品コストは510億ドル増えると試算されています。
- もしこの負担がすべて消費者に転嫁されれば、米国の医薬品価格は最大12.9%上昇し得るとされています。
医薬品は、慢性疾患の治療など生活に不可欠な支出です。関税によるコスト増は、低所得層や高齢者を含む多くの人々の医療アクセスを圧迫し、結果として「健康に対する追加の税金」のような性格を帯びてきます。
インフレ期待と消費マインドが示す不安
インフレ期待は1年先で3.6%に
関税と物価上昇の関係は、人々の「インフレ期待」にも影響しています。インフレ期待とは、今後1年間など一定期間に物価がどれほど上がると人々が予想しているかを示す指標です。
ニューヨーク連邦準備銀行が公表した「消費者期待調査」によると、2025年4月時点の1年先インフレ期待の中央値は3.6%となりました。これは、3月から0.5ポイントの上昇で、過去2年間で最大の月次の伸びです。
人々が「この先も物価はどんどん上がる」と考え始めると、賃上げ要求や値上げが広がり、実際のインフレも高止まりしやすくなります。関税が物価高を通じてインフレ期待を刺激し、そのインフレ期待がまた物価を押し上げるという、望ましくない循環が懸念されます。
消費者マインドは記録的な低水準
米ミシガン大学が毎月発表する「消費者態度指数」も、米国の不安感を映し出しています。2025年4月の指数は50.8と、3月から悪化し、2022年6月以来の低水準に落ち込みました。この水準は、統計開始以来2番目に低い数字です。
物価高と将来への不安が重なることで、消費マインドは冷え込みます。家計が支出を抑えれば、企業の売り上げは伸び悩み、経済全体の成長にもブレーキがかかります。対外的には強硬に見える関税政策が、国内の景気や心理には重しとしてのしかかっている可能性があります。
関税か税金か 真の負担者は誰か
こうしたデータを踏まえると、「関税か、税金か」という問いがよりはっきり見えてきます。名目上、関税は輸入品にかけられる税金であり、標的は海外の企業や他国の経済のように見えます。しかし、経済の仕組みをたどると、負担の多くは国内に戻ってきます。
- 輸入企業は、関税分だけ仕入れコストが上がるため、そのままでは利益が圧迫されます。
- 企業は利益を守るため、関税分を製品価格に上乗せしようとします。
- 最終的に高くなった価格で商品や医薬品を購入するのは、米国の消費者や保険制度です。
このプロセスを考えると、関税は「外国に課す税金」であると同時に、「自国民に対する間接的な増税」とも言えます。卵や医薬品の値上がり、インフレ期待の上昇、消費者マインドの悪化は、その「隠れ増税」の結果として理解することができます。
日本の読者にとっての意味
日本からこの動きを見るとき、二つのポイントが重要です。一つは、米国経済の動向が世界経済、ひいては日本経済にも大きく影響するという点です。米国の物価高や消費者マインドの悪化は、輸出や投資を通じて日本企業にも波及し得ます。
もう一つは、「対外強硬策」が必ずしも自国にとって得になるとは限らない、という教訓です。関税は政治的には分かりやすい手段ですが、最終的な負担が国内の生活者に跳ね返ることが少なくありません。関税や貿易政策のニュースに接するとき、「誰がどのようにコストを負担しているのか」という視点を持つことが、国際ニュースを読み解く鍵になりそうです。
米国の関税をめぐる経験は、関税と税金の境界がいかに曖昧であり、見かけの標的と実際の負担者が必ずしも一致しないことを、改めて示していると言えるでしょう。
Reference(s):
Tariffs or taxes? The true economic burden of US trade policy
cgtn.com








