中国の農村振興を動かす若者たち──「新農人」王玲莉さんの選択
都市ではなく農村を選んだ若者が、中国の農村振興をどう動かしているのか。本記事では、四川省の王玲莉さんの取り組みを通じて、中国の農村振興と若者の「逆流」現象を国際ニュースの視点から紹介します。
習近平国家主席が示した「若者への期待」
中国の習近平国家主席は、雑誌「Qiushi Journal」に最近寄せた文章の中で、若い世代に対し、科学技術イノベーションや農村振興、グリーン開発、社会サービスなどの重点分野で先頭に立つよう呼びかけました。
中国では毎年5月4日の青年の日(五四青年節)に合わせ、各地で若者の活躍が注目されます。今年も、農村や工場、スタートアップの現場で活躍する若い世代の姿が国内メディアで取り上げられました。
都市ではなく農村を選んだ90年代生まれ
そうした若者の一人が、1990年代生まれの王玲莉さんです。多くの大学卒業生が大都市での仕事を目指すなか、王さんは2015年、都市でのチャンスに背を向けて、南西部の故郷の農村に戻りました。目的は「里帰り」ではなく、大規模農場のマネージャーとして本格的に農業に取り組むことでした。
しかし、地元の村人の目は厳しかったといいます。「大学まで出て、なぜまた農村に戻るのか」「都会で育った女の子に農業は続かないだろう」といった懐疑的な声も少なくありませんでした。
機械化とスマート農業で農村をアップデート
王さんが任されたのは、四川省崇州市にある約3000ムー(約200ヘクタール)の農業合作社でした。広大な農地を前に、若い王さんは最新の農業機械やデジタル技術を積極的に導入し、いわゆるスマート農業に挑戦しました。
その結果、収量は着実に伸び、農家の収入も増加しました。地元の農民の信頼を得た王さんは、やがて複数の合作社を統括するようになっていきます。
2023年には、王さんの運営する農地は約7000ムー(約467ヘクタール)に拡大し、小麦とコメの年間生産量は6000トンを超えました。恩恵を受ける農家は2000戸以上にのぼります。
- ピーク時の1ムーあたりの収量は、従来より25キロ増加
- 農繁期には、多くの農家が月5000元(約688ドル)超の収入を得るように
- 農業機械オペレーターは、1日あたり300〜400元を稼ぐケースも
かつて「都会育ちの若い女性には無理だ」と見られていた農場は、今では地域の雇用と所得を支える存在へと変わりつつあります。
全国労働模範として評価された意義
こうした成果が認められ、王さんは国際労働節(5月1日)を前にした月曜日、北京で全国労働模範として表彰されました。故郷からこの栄誉を受けた人は初めてだとされ、地元にとっても象徴的な出来事になりました。
農村から出た若者が、再び農村に戻り、全国レベルで評価される――そのストーリーは、「農村=出て行く場所」という固定観念に揺さぶりをかけています。
「新農人」が牽引する中国の農村振興
王さんのような存在は、中国で「新農人」とも呼ばれています。大学などで専門知識を身につけた若い世代が、都市ではなく農村での仕事や起業を選び、地域の農業や生活をアップデートしていく動きです。
中国共産党中央の金融・経済政策を担当するオフィスで常務副主任を務める韓文秀氏によると、すでに1200万人以上が農村に移り住み、起業しているといいます。こうした人々は、単に農産物を作るだけでなく、経営やブランドづくり、デジタル技術の導入など、農村の課題に新しいアイデアで向き合っています。
「新農人」の登場は、次のような変化をもたらしつつあります。
- 都市から農村への人材の「逆流」による地域コミュニティの活性化
- 機械化やデジタル技術による生産性向上と若者の雇用創出
- 農業と観光、加工、サービスを組み合わせた新たなビジネスモデルの模索
私たちへの問いかけ──「どこで働くか」をどう選ぶか
王玲莉さんの選択は、「成功するには大都市で働くべきだ」というよくある前提に、静かに疑問を投げかけています。キャリアの価値は、勤務地だけでなく、自分が社会にどんな変化を起こしたいのかによっても測られるのではないでしょうか。
習近平国家主席が呼びかけるように、科学技術イノベーションや農村振興、グリーン開発、社会サービスといった分野では、若者の役割が今後いっそう大きくなります。王さんのような「新農人」の物語は、都市か地方かという二者択一を超えて、自分のスキルをどこで生かすかを考えるヒントを与えてくれます。
中国の農村振興をめぐるこうした動きは、日本を含む他の国と地域にとっても、人口減少や地方の担い手不足を考えるうえで示唆に富んでいると言えます。スマートフォンの画面越しに、遠い農村の物語をどう自分の暮らしとつなげていくか――それが、私たち一人ひとりに投げかけられた次の問いなのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








