米中貿易戦争下でも中国に「オープンハンド」 カリフォルニア州知事の思惑
145%の高関税が続く米中貿易戦争の中で、アメリカ最大の州経済を抱えるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が、中国に対して今も「オープンハンド(開かれた手)」を差し伸べると強調しました。対立ムードが強まるワシントンとは異なるこのメッセージは、なぜ重要なのでしょうか。
米中貿易戦争の中で示された「オープンハンド」
ニューサム知事は、トランプ米大統領の政権が中国との貿易を対象に145%もの高い関税を課しているにもかかわらず、カリフォルニア州は中国との貿易に引き続き開かれていると語りました。
同州はアメリカで最大の州経済であり、自らを「安定したパートナー」と位置付けています。知事は、中国を含む貿易相手国に対し、カリフォルニアは対立ではなく協力の姿勢をとると強調し、「オープンハンド」を差し伸べていると表現しました。
発言は、日本に拠点を置く英字経済紙ニケイ・アジアとのオンラインインタビューの中で行われたもので、知事は国際的な読者に向けて、州としてのメッセージを発信した形です。
カリフォルニアと中国の結びつき
ニューサム知事は、中国との関係について、州レベルだけでなく、市や郡レベルでも一連の協力に関する覚書(MOU)が結ばれていると説明しました。こうした合意は、ビジネス、環境、都市間交流など多岐にわたる分野での協力を支える土台になっています。
さらに知事は、2023年の中国訪問を通じて、中国との関与のレベルを国家レベルにまで拡大したとしています。州知事としての訪中をきっかけに、カリフォルニアと中国との対話チャネルをいくつも開こうとしている姿がうかがえます。
「ゼロサムではない」相互依存の視点
ニューサム知事は、グローバルな貿易は「ゼロサムゲーム(勝者と敗者が決まるゲーム)」ではないと強調しました。各国・各地域は相互に依存しており、一方が損をして他方が得をするという単純な構図ではなく、協力によって双方が利益を得られるという考え方です。
この視点に立てば、関税の引き上げなど一方的な圧力よりも、ルールに基づく協力や対話の方が長期的には望ましい、というメッセージが読み取れます。
トランプ政権の関税がカリフォルニアにもたらした打撃
一方でニューサム知事は、トランプ政権の通商政策に対しては、これまで一貫して厳しく批判してきました。145%という異例の高関税を含む一連の措置により、カリフォルニア州は他の多くの州よりも大きな打撃を受けたと主張しています。
カリフォルニアはアジアとの貿易関係が非常に深く、とりわけシリコンバレーを中心としたテクノロジー企業は、中国を含むアジアの市場やサプライチェーン(供給網)と強く結びついています。そのため、関税の引き上げは、輸出入コストの増加だけでなく、ビジネスモデル全体に影響を与えています。
貿易だけでなく観光・信頼にも影響
ニューサム知事によれば、トランプ政権の貿易政策は、貿易そのものだけでなく観光にも深刻な影響を与えました。影響を受けたのは中小企業だけではなく、大企業も例外ではありません。
知事はこうした政策が、アメリカの信頼性に「計り知れない」ダメージを与えたと指摘しています。関税が頻繁に変わり、先行きが読みづらい状況は、企業にとって長期的な投資判断を難しくし、国としての信用にも影を落とします。
知事の説明では、こうした直接・間接の経済損失は合計で数十億ドル規模に上っており、その多くが輸出産業や観光業など、カリフォルニアの強みとされてきた分野に集中しているとされています。
カリフォルニアの反撃:呼びかけと訴訟
2025年4月2日、トランプ大統領は全てのアメリカの貿易相手国を対象に、いわゆる相互関税(reciprocal tariffs)を導入すると発表しました。これを受けてニューサム知事は、各国・地域に対し、カリフォルニア産品への報復関税を控えるよう呼びかけました。
知事が訴えたのは、「連邦政府の政策に州が巻き込まれ、二重の打撃を受けるべきではない」という点です。州としては貿易を開いたままにしたい一方で、関税の応酬が激化すれば、最前線で被害を受けるのは港湾や物流を抱える州になります。
さらにカリフォルニア州は、トランプ政権の関税を巡り、アメリカで最初に連邦政府を提訴した州となりました。2025年4月16日に、連邦政府による「緊急権限」の使い方を問題視し、広範な関税を正当化する根拠に異議を唱えたのです。州当局は、これらの関税がカリフォルニア経済を脅かしていると主張しています。
- 中国を含む貿易相手国に対し、協力を続けるという「オープンハンド」のメッセージを発信
- カリフォルニア産品を報復の標的にしないよう、各国・地域に自制を要請
- 連邦政府を相手取る訴訟を通じて、関税発動の根拠や範囲を司法の場で検証
ニューサム知事の対応は、州としてできる範囲でトランプ政権の通商政策にブレーキをかけようとする試みだとも言えます。
1700億ドル関税負担の試算が示す重み
調査会社トレード・パートナーシップ・ワールドワイドによる政策分析では、新たな関税構造のもとで、カリフォルニア州は2025年に輸入関税として1700億ドル超を支払う可能性があるとされています。
これは、州の歳入やインフラ投資、教育・医療といった公共サービスにも影響しかねない規模です。関税は一見すると海外企業への圧力のように見えますが、実際には輸入企業や消費者、そして地方政府の財政にも跳ね返ってくる「見えにくい税金」でもあります。
世界第4位の経済圏としてのカリフォルニア
こうした懸念の背景には、カリフォルニア州経済の規模の大きさがあります。ニューサム知事は2025年4月23日、国際通貨基金(IMF)や米商務省経済分析局(BEA)のデータを引用し、2024年のカリフォルニア州の名目GDPが日本を上回ったと発表しました。
もしカリフォルニアを一つの国とみなせば、経済規模はアメリカ、中国、ドイツに次ぐ世界第4位となる計算です。つまり、トランプ政権の対中貿易政策は、単に一つの州の問題にとどまらず、世界経済全体にも影響を与えうるということを意味します。
そのカリフォルニアが、中国との関係について「オープンハンド」を掲げ続けることは、米中関係のみならず、国際経済の安定にとっても象徴的な意味を持ちます。
読み手への問いかけ:州と国家、対立と共存
今回のニューサム知事の発言と行動から浮かび上がるのは、次のような問いかけです。
- 国家レベルの対立が激化する中で、州や都市はどこまで独自の外交・経済戦略をとることができるのか
- 関税による短期的な「圧力」と、長期的な信頼やサプライチェーンの安定、どちらを優先すべきなのか
- 「貿易はゼロサムではない」という発想を前提にしたとき、米中関係やアジアとの向き合い方はどう変わりうるのか
米中関係や国際通商のニュースは、数字や専門用語が多く、ともすると遠い世界の出来事のように感じられます。しかし、カリフォルニアのような地域経済の動きは、テクノロジー、観光、環境分野などを通じて、私たちの日常ともつながっています。
州知事が語る「オープンハンド」というキーワードを手がかりに、対立と共存が同時に進む現在の国際経済の姿を、あらためて考えてみるタイミングかもしれません。
Reference(s):
California offers 'open hand' to China amid trade war, says governor
cgtn.com








