EU、トランプ関税で戦略転換 アジア重視と戦略的自律を加速
トランプ米大統領による対欧州の大規模な関税措置が続くなか、欧州連合(EU)がアジアやその他の地域との関係を深めつつ、自らの「戦略的自律」を一気に進めようとしています。2025年末のいま、EUの通商・安全保障・科学技術政策は、米国への依存を見直しつつ、多極化する世界への適応という新しい局面に入っています。
トランプ関税を契機に、EUがアジア重視へ
トランプ政権は欧州からの幅広い輸入品に高関税を課しており、EUにとっては輸出産業への打撃と先行き不透明感が大きな課題になっています。これに対し、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、アジアなど新たな成長地域との政治・経済関係を一段と深め、米国市場への依存を相対的に下げる方針を打ち出しました。
具体的には、アジアの主要経済圏との自由貿易や投資の枠組みを拡充し、サプライチェーン(供給網)の多様化を進めることで、米国の関税ショックに左右されにくい経済構造への転換を目指しています。
中国EVに最大45.3%関税 「価格コミットメント」で妥協模索
EUは昨年10月、中国本土から輸入される電気自動車(EV)に対し、最大45.3%の追加関税を課す措置を加盟国レベルで承認しました。今年に入って発動されたこの措置は、中国のEVメーカーにとって欧州市場での拡大戦略に大きな影響を与えています。
こうしたなかで、EUと中国は、EVの最低販売価格をあらかじめ取り決める仕組みを協議しています。この「価格コミットメント」に合意できれば、EU側が追加関税の停止や調整に応じる可能性があり、対立の激化を避けつつ市場の予見可能性を高める狙いがあります。
今年4月に始まった協議は、昨年の関税承認を受けた形で進んでおり、中国のBYDやNio(ニオ)といったEVメーカーは、欧州での価格戦略を見直しながら対応しています。新たな関税のもとで両社の欧州市場シェアは今年、一定の低下を余儀なくされており、とくにBYDはハンガリーでの現地生産計画を進めることで、関税負担を回避しつつ競争力を維持しようとしています。
自動車産業は「市場アクセス」と「選択肢」を重視
欧州の自動車メーカーや業界団体も、この価格コミットメント交渉を注視しています。とりわけドイツ自動車工業会(VDA)は、関税の応酬によって市場が分断されることを懸念し、国際貿易における障害やゆがみは減らす方向で議論すべきだと訴えています。
欧州の完成車メーカーにとって、中国本土からのEV流入は競争圧力である一方で、部品調達や合弁事業を通じた協力関係も存在します。価格コミットメントは、こうした複雑な利害を調整しつつ、消費者の選択肢を確保するための現実的な落としどころとして位置づけられています。
米中どちらかを選ばない EUの分離回避メッセージ
通商面での緊張が高まるなか、EUは米国との交渉と中国との関係をあえて切り離して扱う方針を強調しています。欧州委員会は、ワシントンとの通商協議において、中国経済からの「デカップリング(分離)」を前提条件とする考えは取らないと明言しました。
欧州委のアリアナ・ポデスタ副報道官は、米国との間で相互に利益となる分野を探っているとしたうえで、それは中国との関係とは別の政策トラックであり、米中どちらか一方を選ぶ話ではないと説明しています。トランプ政権が他国に対し、ワシントンと北京のどちらかを選ぶよう迫るのではないかとの観測もあるなかで、EUは複線的な外交・通商戦略を維持する姿勢を明確にしていると言えます。
安全保障でも自律志向 ドイツ次期首相メルツ氏の賭け
こうした通商の再編と並行して、欧州の首都では安全保障面での「自律」に向けた議論も加速しています。ドイツの次期首相フリードリヒ・メルツ氏は、欧州防衛能力を強化し、時間をかけて米国への安全保障依存から一定の自立を図ることが、自身の「絶対的な優先課題」だと公言しています。
メルツ氏の連立合意には、国の債務制限の対象外とする特別基金として、約5000億ユーロ規模の防衛費枠を設ける計画も盛り込まれています。これはNATO義務の履行にとどまらず、欧州が自前の装備調達や共同開発を進める財政的な裏付けともなり、欧州主導の安全保障体制を模索する象徴的な一歩と受け止められています。
「フランスで科学を」 研究者の受け皿としての欧州
防衛と通商のシフトに加え、欧州は科学技術の分野でも新たな役割を掲げています。フランスのマクロン大統領は、米国の連邦科学予算の削減などで不安定な立場に置かれた研究者を呼び込むため、「Choose France for Science(科学のためにフランスを選ぼう)」と名付けたイニシアチブを立ち上げました。
この枠組みでは、フランス政府が受け入れ先の研究機関とともに研究費を共同拠出し、ビザの手続きも円滑化することで、米国で将来に不安を抱える研究者に長期的なキャリアパスを提示することを目指しています。フォンデアライエン委員長も関連イベントに参加し、政策の変動に左右されにくい学問の自由とイノベーションの場としての欧州の魅力をアピールしました。
アジアからアフリカ、中南米へ EUの地政学的覚醒
EUのボレル外交・安全保障上級代表は、トランプ政権の関税措置や内向き志向には多くの課題があるとしつつも、それが結果的に欧州の「地政学的覚醒」を促した側面があると分析しています。すなわち、アジアからアフリカ、中南米に至るまで、欧州がより積極的に存在感を示す契機になっているという見方です。
EUは南アフリカ向けに47億ユーロ規模の投資パッケージを用意しており、これは米国との関係だけに依存しない形で、アフリカとの長期的なパートナーシップを構築する戦略的試みと位置づけられています。また、長らく停滞してきた中南米のメルコスルとの貿易協定交渉も、EU側の市場多角化の必要性を背景に、再び動き出しています。
こうした動きは、米国を唯一の基軸とする秩序から、多数の地域が相互に結びつく多極的な通商・投資ネットワークへと、世界経済が移行しつつあることを映し出しています。
日本の読者へのヒント 「一国依存」からどう離れるか
日本を含むアジアの読者にとって、EUの動きは何を示唆しているのでしょうか。今回の一連の動きからは、次のようなポイントが浮かび上がります。
押さえておきたい三つのポイント
- ショックを契機に構造転換を進めることの重要性。関税という外部からの衝撃を受け止めつつ、アジアやアフリカ、中南米との関係を強めて市場と供給網を多様化しようとするEUの姿勢は、依存先を一国に集中させないリスク管理の一例と言えます。
- 「デカップリング」ではなく「選択肢の確保」を目指すアプローチ。米中どちらかを選ぶのではなく、それぞれと別々の政策トラックで関係を築くEUの方針は、多極化する世界で中堅・小国が取りうる現実的な戦略として参考になります。
- 安全保障・通商・科学技術を一体で考える視点。防衛費の特別基金や研究者受け入れ策など、EUは軍事だけでなく人材や技術の分野でも自律性を高めようとしています。長期的な競争力をどう確保するかという問いは、日本にも共通する課題です。
欧州が選ぼうとしているのは、「米国か中国か」という二者択一ではなく、「自分たちで進路を決める力」を持つことです。関税や安全保障環境の変化が続く2025年、EUの戦略的自律への模索は、アジアにとっても多くの示唆を与えてくれます。
Reference(s):
EU accelerates strategic pivot, pursues autonomy amid Trump tariffs
cgtn.com








