トランプ関税でカナダ企業が米国離れ アジアや欧州へ市場転換
2025年現在、トランプ米大統領が打ち出した関税政策が国際貿易の流れを揺さぶり、特にカナダの製造業に米国市場への依存を見直す動きを広げています。本記事では、現場の企業がどのように対応しているのかを、具体的な事例から見ていきます。
カナダ経済を直撃するトランプ関税
カナダはこれまで、輸出の約75%を米国向けに依存してきました。そのカナダが、トランプ政権の関税強化の「最前線」に立たされています。
今年3月、トランプ大統領は米国に輸入されるすべての鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を課し、さらに北米自由貿易協定に沿わない自動車や部品にも追加で25%の関税を科しました。一方で、一部の国に対して検討されていた幅広い報復関税は、4月初めの段階では見送られています。
専門家らは、カナダに対して本格的な報復関税が発動されていれば、製造業の倒産が急増していた可能性が高いと指摘します。カナダのマーク・カーニー首相は、米国との「これまでの関係は終わった」と繰り返し発言し、これまでのような安定した近隣貿易関係には戻らないとの見方を示しています。
事例1:医薬品メーカーはアジア市場を開拓
カナダ西部ブリティッシュコロンビア州に拠点を置く受託医薬品メーカー、PNP Pharmaceuticalsは、トランプ政権の関税強化を受けて、アジアでの新たなビジネスパートナー探しに動き出しました。
同社でパートナーシップ・ソーシングを担当するアラン・ウルメネタ氏は、インタビューに対し「今、私たちは他の市場への進出を進めています。方向転換が必要だと感じているからです」と語ります。具体的な国名は公表していませんが、アジアでの新規顧客開拓を通じて、米国向けビジネスへの依存度を下げる狙いです。
PNPは現時点で直接的な関税の対象にはなっていません。それでも、同社が先手を打って市場分散を進めていることは、「関税そのもの」よりも「政策の予測不能さ」への警戒が強いことを物語っています。
事例2:包装資材会社は米国売上15%の縮小を検討
同じくブリティッシュコロンビア州にある包装資材の販売会社、LabelPak Printingも戦略の見直しを迫られています。同社はアジアから仕入れた包装資材を北米市場で販売しており、売上の約15%を米国向けが占めています。
創業者のケン・ガリー氏は「もしトランプ大統領が怒ってカナダ製品に50%の関税をかけると決めたら、当社は市場から締め出されかねません」と危機感を語り、「これからはカナダ国内のビジネスに、より力を入れていくつもりです」と述べました。
LabelPakのケースは、中小企業にとって、比較的少ない比率であっても米国向けの売上が大きなリスク要因になり得ることを示しています。仮に関税が発動されなくても、「いつ方針が変わるかわからない」という不安そのものが、投資判断や雇用計画を慎重にさせています。
事例3:鉄鋼部品やスポーツ用品も価格転嫁と市場分散
関税の影響は、他の製造業にも波及しています。米国向けに35年にわたって部品を供給してきたカナダの鉄鋼部品メーカーは、長年の取引先である米国の顧客に対し、価格の引き上げを受け入れるよう求めざるを得なくなっています。
一方で、スポーツ用品を製造する別の企業は、リスク分散のために欧州市場でのプレゼンス拡大を進めています。こうした動きは、
- 米国向け価格の引き上げ(コストの米国側への転嫁)
- アジアや欧州など他地域への輸出拡大
- 国内市場の開拓・強化
という三つの方向で、企業がビジネスモデルを組み替え始めていることを示しています。
企業が恐れるのは「関税」より「不確実性」
こうした動きは一時的なものではないとの見方が広がっています。カナダ企業を支援するコンサルティング会社を運営するマイク・チザム氏は、「賢くて抜け目のない経営者であれば、再び米国のパートナーに全面的に依存するような取引には戻らないでしょう」と指摘します。
チザム氏によれば、「経営者は安定を求め、銀行も安定を求め、投資ファンドも安定を求めています。だからこそ、彼らは今後、非常に慎重になるでしょう」とのことです。
企業経営者、アドバイザー、貿易専門の弁護士、業界団体など十数の関係者への取材でも、「仮に米国とカナダの間で新たな貿易協定が結ばれたとしても、トランプ政権の政策運営の予測しづらさや、米国市場でビジネスをすること自体の不確実性は当面続く」という認識が共有されています。
日本・アジアの読者への示唆
カナダと米国の関係に見られる変化は、日本やアジアの企業にとっても対岸の火事ではありません。輸出先が一つの大市場に偏っている場合、その国の政策変更や政権交代が、企業の存続を左右しかねないことを改めて示しているからです。
今回のカナダ企業の事例から見えてくるポイントは、次のように整理できます。
- 単一市場への過度な依存を避け、複数地域に取引先を分散させること
- 関税そのものだけでなく、「いつルールが変わるかわからない不確実性」もリスクとして織り込むこと
- 短期的な為替や需要の動きだけでなく、中長期の貿易政策の方向性を見据えた戦略を立てること
トランプ政権の関税政策は、国際貿易の構図を変えつつあります。カナダ企業の「米国一極依存からの静かな離脱」は、今後、他の国や地域の企業にも広がっていく可能性があります。日本企業にとっても、自社の市場ポートフォリオを改めて点検するタイミングに来ているのかもしれません。
Reference(s):
Facing tariffs and uncertainty, more firms look past US markets
cgtn.com







