世界の医療費減少と新しい資金モデル 健康格差を広げないために
世界の医療支出が伸び悩み、国境を越えた保健医療への資金も減少する中で、各国の医療システムは新しい資金モデルと連携のかたちを模索しています。本記事では、2025年現在の国際的な議論の焦点となっている課題と、その背景にある構造変化を整理します。
なぜいま世界の医療資金が問われているのか
ここ数年で、世界全体の健康指標はおおむね改善してきました。平均寿命の伸びや、子ども・妊産婦の死亡率の低下といった成果は、パンデミック後も続いているとされています。
しかし、そのペースは明らかに鈍化しており、勢いが落ちてきています。さらに、公衆衛生の備えを示す各種の保健規制の評価スコアは、横ばいか低下傾向にあり、世界の公衆衛生体制の弱体化をうかがわせます。この流れを放置すれば、せっかく積み上げてきた健康面での成果が失われかねません。
そこに追い打ちをかけているのが、国境を越えた保健医療への資金や、開発途上国向けの保健分野の支援が減少しているという現実です。医療ニーズが高まる一方で、資金の流れが細くなれば、最も弱い立場にある人々から順に、必要な医療に届かなくなってしまいます。
医療システムを揺さぶる四つの課題
こうした資金の制約に加えて、現在の医療システムは四つの大きな波に同時にさらされています。
1. 気候変動による健康被害
気候変動の影響は、熱波や豪雨、感染症の拡大などを通じて人々の健康を直接脅かします。ある推計では、気候の影響によって2050年までに1,450万人の追加の死亡が生じると予測されています。これは、医療の現場だけでなく、都市計画やエネルギー政策も巻き込んだ長期的な対策を必要とする規模です。
2. 高齢化で増える医療ニーズ
世界的に高齢化が進む中で、高齢人口は今後25年ほどで2倍になると見込まれています。高齢になるほど、慢性的な病気や複数の持病を抱える人が増え、医療・介護の需要は一段と高まります。限られた財源でこうしたニーズに応えるには、医療の効率化だけでなく、資金の集め方そのものを見直す必要があります。
3. 増え続ける非感染性疾患
感染症だけでなく、がんや心血管疾患、糖尿病といった非感染性疾患も増加しています。こうした病気は一度発症すると長期的な治療やケアが必要になり、医療システムに継続的な負担をかけます。病気の数が増えるだけでなく、治療が長期化することで、医療費はじわじわと膨らんでいきます。
4. 根強い医療アクセスの格差
国や地域、都市と地方、所得やジェンダーなどによって、医療へのアクセスや健康状態には大きな差が残っています。同じ病気でも、住んでいる場所や支払能力によって受けられる医療が変わってしまう状況は、世界の多くの場所で解消されていません。資金の流れが弱まると、こうした格差はさらに拡大するリスクがあります。
従来型のお金の流れでは限界が見えている
こうした複合的な課題に向き合うには、医療の資金の集め方や使い方を、従来の延長線上で少しずつ変えるだけでは追いつかないとされています。世界の議論では、今の状況を乗り越えるために、新しい資金モデルが必要だという指摘が強まっています。
その鍵として挙げられているのが、次の三つの視点です。
- 政府、企業、市民社会、国際機関などが協力する新しい形の連携
- 結果が読みにくい革新的な取り組みにも投資する、一定のリスク許容度
- 短期の成果だけでなく、数十年単位を見据えた長期的な発想
これらは、従来の年度ごとの予算消化や、確実な成果が見込める事業だけに資金を出すといった、保守的な資金のあり方とは相性がよくありません。そのため、医療分野では、資金の出し手側のルールやマインドセットそのものを変えていくことが求められています。
これからの医療資金モデルに求められる視点
では、新しい資金モデルとは具体的にどのようなものなのでしょうか。形式は国や地域によってさまざまですが、共通して問われるのは、限られたお金をどこに、どのような仕組みで流すかという視点です。
たとえば、国境を越えて資金を出し合い、感染症の流行や自然災害などのリスクを共同で引き受ける仕組みや、成果に応じて支払いを行う形の契約、民間の資金を公衆衛生の分野に呼び込むための枠組みなどが議論されています。いずれも、単にお金の額を増やすだけでなく、どう使えばインパクトが最大になるかを重視する発想です。
同時に重要なのは、資金モデルを設計する際に、気候変動や高齢化、非感染性疾患、格差といった四つの課題を切り離さず、総合的に考えることです。たとえば、高齢化対策の医療インフラ整備を行う際に、熱波や豪雨といった気候リスクに耐えうる設計にすることで、将来の被害や費用を抑えられる可能性があります。
2025年のいま、私たちが考えたいこと
2025年現在、世界の健康水準は長期的には改善している一方で、その歩みは確実に鈍り始めています。気候変動や人口構造の変化という大きな波が迫るなか、医療への国際的な資金の流れが細ってしまえば、その影響を最も強く受けるのは、もともと医療アクセスが限られている人々です。
医療の資金モデルは、一見すると遠い世界の話のように感じられるかもしれません。しかし、その設計次第で、将来どれだけ安心して病院にかかれるか、パンデミックや自然災害のときにどれだけ迅速な対応ができるかが左右されます。いま求められているのは、いま目の前のコストだけでなく、将来のリスクと安心をどう分かち合うかという、長期的な視点です。
世界の医療費の伸びが鈍るなかで、新しい資金モデルをどう形にしていくのか。各国政府や国際機関だけでなく、企業や市民社会を含めた幅広い議論が、これからの数年でますます重要になっていきそうです。
Reference(s):
Innovation & new funding models needed in face of falling health spend
cgtn.com








