中国の冬を再発見:チチハルの氷上文化と深セン室内スキーの今 video poster
氷、光、ことばで見る現代中国の姿
2025年現在、中国では冬のスポーツとカルチャーが急速に広がり、都市の風景や人びとの余暇の過ごし方を大きく変えつつあります。国際ニュースを日本語で伝える本記事では、中国各地を巡る番組『Meet China』第30回で取り上げられた4つの場所から、その変化の姿を追います。チチハルのアイスホッケー、深センの室内スキー、上海の光のアート、そして詩人・蘇東坡の物語が、現代中国のレジャーと精神文化を立体的に映し出しています。
氷都・チチハル:アジア冬季大会が映す氷上文化
中国東北部、黒竜江省にあるチチハルは、2025年のアジア冬季競技大会の開催地となっている都市です。名物のバーベキュー料理だけでなく、アイスホッケーの盛んな街として、中国内外で知られています。厳しい寒さの冬であっても、市内のリンクには子どもから大人まで、幅広い世代が集まり、氷の上を軽やかに滑っています。
この街の象徴ともいえるのが、スケート靴の刃、いわば氷上の刃です。一見シンプルな金属の板ですが、人びとに大きな喜びをもたらすと同時に、技術とイノベーションの結晶でもあります。チチハルはアイススポーツの拠点として、競技者や愛好家を引きつけるだけでなく、高度なスケート製造技術でも存在感を高めています。ここで生み出される製品は、世界のリンクで使われるまでになり、地域経済と都市ブランドの両方を押し上げています。
チチハルの事例からは、次のようなポイントが見えてきます。
- 冬の寒さという「マイナス要因」を、スポーツと産業に転換する発想が根付いていること。
- 競技だけでなく、市民のレジャーとしてのスケート文化が、都市の一体感を生み出していること。
- ものづくりの技術が、地域のストーリーと結びつくことで、国際的な発信力を高めていること。
深センに広がる室内スキー文化:南の都市と「人工の冬」
一方、温暖な南部の広東省深センでは、別の形で冬のスポーツが広がっています。市内には、20年以上前から営業を続ける室内スキー場があり、地元の家族連れや香港の人びとが訪れ、人工雪の上でのスキーや氷の滑り台、写真撮影を楽しんでいます。冬季オリンピックなどをきっかけに、中国全体で冬のスポーツへの関心が高まり、この施設も来場者が大きく増えているといいます。
今、深センの前海エリアでは、新たな大型施設・フアファ・スノーワールドの建設が進んでいます。完成すれば世界最大級の室内スキーリゾートとなる計画で、全長441メートル、高低差83メートルのコースを備え、2025年末の稼働を目指しています。年間を通じて雪と氷を維持する必要がある南の都市で、こうした施設をどのようにつくり、運営していくのか。その技術的・経済的な挑戦も注目されています。
室内スキーの広がりは、単なるエンターテインメントを超えた意味を持ち始めています。
- 季節や地域に左右されない「通年型」の冬のスポーツ体験を提供し、北部とのギャップを埋めていること。
- ショッピングモールや観光と組み合わせることで、新しい消費とレジャーのパターンを生み出していること。
- 南部の子どもや若者にとって、スキーやアイスホッケーを身近な選択肢にし、将来の競技人口拡大にもつながりうること。
チチハルの自然の氷と、深センの人工の雪。一見対照的な二つの都市ですが、どちらも冬のスポーツを通じて、人びとの暮らしと地域経済をアップデートしようとしている点で共通しています。
上海の光のアート:目に見えない光が問いかけるもの
上海では、冬のスポーツとは別のかたちで、現代中国の感性を映すプロジェクトが進んでいます。テーマは光です。光は、私たちの目に見える可視光として電磁波の一部を占めますが、物理的には見えない波長の光も存在し、それらが人の心や感情に影響を与えるという発想があります。
上海の若者たちのグループは、この「目に見えない光」というアイデアを公共アートとして具現化しました。彼らの企画した展示では、自分自身を見つめ直すこと、他者とつながること、誰もが参加できる包摂性、そして創造性といったテーマが、光になぞらえて表現されています。街を行き交う人びとは、作品を通じて自分の内側にある光や、他者との関係性に思いを巡らせることになります。
都市化が進む中国の大都市において、若い世代が公共空間を舞台に、自己探求と共生のメッセージを発信している点は注目に値します。華やかなネオンや大型ビジョンだけではない、人びとの心に届く「もうひとつの光」が模索されているとも言えるでしょう。
蘇東坡が教える逆境の楽しみ方:黄州から現代へ
番組の旅は、さらに時間軸をさかのぼります。取り上げられるのは、中国史に名を残す詩人・学者の蘇東坡です。彼は詩文の才能と幅広い教養で知られると同時に、料理への創意工夫でも人びとを魅了してきた文化的アイコンです。
蘇東坡は政争の中で黄州に左遷されましたが、その逆境の時期こそが、創作と人生観を深める大きな転機となりました。番組では、彼が最初に流された地・黄州を訪ね、この地でどのようにして苦難を受け止め、詩や料理といった形で昇華させていったのかをたどります。
およそ千年にわたって、中国の人びとを惹きつけてきたのは、華麗な作品そのものだけではありません。困難な状況のなかでもユーモアと創造性を失わず、日々の暮らしを味わい尽くそうとした姿勢こそが、現代の視聴者にも共感を呼んでいるようです。チチハルや深センの冬のスポーツが「身体の楽しみ」だとすれば、蘇東坡の物語は「心のしなやかさ」を教えてくれます。
氷、光、詩人の物語がつなぐ現代中国
『Meet China』第30回で描かれた4つの場面は、一見バラバラに見えますが、共通しているキーワードがあります。それは、レジリエンス(しなやかな回復力)と創造性、そして文化の進化です。
- チチハルでは、冬の厳しさを活かし、アイスホッケー文化とスケート産業が世界へと広がりつつあります。
- 深センでは、南の温暖な都市に人工の冬をつくり出し、新しいレジャーと消費スタイルが生まれています。
- 上海の光のアートは、若い世代の自己表現と包摂の願いを、目に見えない光になぞらえて提示しています。
- 黄州の蘇東坡の物語は、逆境に向き合いながら創作を続けることの意味を、千年の時を超えて今に伝えています。
政治や経済の指標だけでは見えてこない現代中国の姿は、こうしたスポーツ、アート、歴史的人物の物語の中にも表れています。氷上を走る刃のきらめき、室内スキー場の人工雪、街角の光のインスタレーション、そして古い詩の一節――それらを並べて眺めてみると、中国社会がどのように変化し、何を大切にしようとしているのかが、少しずつ輪郭を帯びて見えてきます。
日々のニュースとあわせて、こうしたカルチャーや人物の物語にも目を向けることが、国際ニュースを立体的に理解する手がかりになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








