米国12州がトランプ「白紙委任」関税を提訴 非常事態権限はどこまでか
米国の12州が、トランプ大統領による「リベレーション・デー関税」の発動は権限の乱用だとして、差し止めを求める訴訟を起こしました。国際ニュースとして、米大統領の非常事態権限がどこまで認められるのかが、改めて問われています。
何が起きているのか:12州が関税差し止めを要請
現地時間の水曜日、米ニューヨーク・マンハッタンに拠点を置く米国際貿易裁判所で、3人の判事による合議体がこの訴訟の口頭弁論を開きました。
- 原告はニューヨーク、イリノイ、オレゴンなど民主党系の州司法長官が率いる12州
- 対象はトランプ大統領の「リベレーション・デー関税」
- 米国に対して貿易黒字を計上している国からの輸入品に、一律の追加関税を課す措置
- 大統領は国家非常事態を宣言し、この関税を正当化している
判事たちはその場で結論を出さず、関税の合法性についての判断は今後数週間以内に示される見通しだとされています。
州側の主張:IEEPAは「白紙委任状」ではない
訴訟の焦点となっているのは、米国の「国際緊急経済権限法(IEEPA)」です。州側は、大統領がこの法律を大きく誤解し、「貿易を自由にコントロールできる白紙委任状」のように扱っていると批判しています。
オレゴン州を代表する弁護士、ブライアン・マーシャル氏は法廷で、トランプ大統領がIEEPAについて
「どの国に対しても、どれだけの関税でも、どれくらいの期間でも設定でき、裁判所はそれを審査できない」
と主張してきたと指摘しました。
これに対しマーシャル氏は、IEEPAは本来、米国に対する「異例で重大な」脅威に対応するための法律であり、大統領の行為は「特定の緊急事態」に密接に結び付いていなければならないと説明しました。そのうえで、
- 関税を単なる「交渉上のテコ(レバレッジ)」として使うことはIEEPAの想定外
- 非常事態権限を貿易政策の一般的な道具にしてはならない
と訴えています。
政府側の主張:レバレッジとしての関税は正当
一方、米司法省のブレット・シュメイト氏は、政権側を代表して、IEEPAは大統領に幅広い権限を与えており、関税を交渉のレバレッジとして使うことも認められると主張しました。
シュメイト氏は、IEEPAが大統領に「取引を調査し、規制し、または禁止する」権限を与えていると説明し、その範囲に関税も含まれると位置づけています。法文に「関税」という言葉が明示されていなくても、経済取引を制限する手段として関税は含まれるという解釈です。
同氏は、
「これらの関税の目的は圧力を生むことだ。関税は今まさに、大統領が必要とするレバレッジを与えている」
と述べ、大統領が貿易交渉や外交目標を達成するためにIEEPAを用いることは正当だと強調しました。
裁判官の問いかけ:司法はどこまで口を出せるのか
国際貿易裁判所の判事たちは、州側・政権側双方に厳しい質問を投げかけました。争点のひとつは、「大統領の非常事態権限を、裁判所がどこまでチェックできるのか」という点です。
レスタニ判事:何でも許されるのか
共和党のレーガン元大統領が任命したジェーン・レスタニ判事は、シュメイト氏に対し、「IEEPAの発動後は、議会以外は大統領の行為を審査できない」という政府側の立場を問いただしました。
レスタニ判事は、
「どれほど突飛で無関係な措置であっても、裁判所は止めることができないということなのか」
と尋ね、大統領の裁量が無制限に拡大することへの懸念をにじませました。シュメイト氏は、非常事態が宣言された後に大統領が「合理的に行動したかどうか」を裁判所が判断することはできないとの立場を崩さず、「調査・規制・禁止」という枠組みから外れる例を挙げるよう求められても、「想像するのは難しい」と答えています。
カッツマン判事:司法は「後部座席の運転手」か
一方、民主党のオバマ元大統領が任命したゲイリー・カッツマン判事は、州側のマーシャル氏に対し、外交・貿易といった分野で裁判所がどこまで踏み込むべきかを問いかけました。
カッツマン判事は、司法が大統領の外交判断に口を挟む「後部座席の運転手」のような存在になるべきなのかと疑問を呈し、均衡の取り方を探ろうとしました。これに対しマーシャル氏は、
- 非常事態への対応が「合理的」であることは最低限の要件
- そうでなければ、非常事態権限が事実上「無制限」に広がりかねない
と述べ、司法による一定のチェックは不可欠だと訴えました。
相次ぐ訴訟:関税政策を巡る広がる波紋
今回の州による訴訟は、トランプ政権の関税政策に対する法廷闘争の一部にすぎません。すでに少なくとも7件の訴訟が提起されているとされ、さまざまな主体が関税に異議を唱えています。
- カリフォルニア州は、サンフランシスコの連邦裁判所に別途訴えを起こしている
- 小規模事業者5社も同じ国際貿易裁判所で類似の訴訟を提起し、先週口頭弁論が行われた
- 企業、法律支援団体、ブラックフィート・ネーションのメンバーなども関税を争っている
国際貿易裁判所の判断は、ワシントンD.C.の連邦巡回区控訴裁判所、さらに最終的には米連邦最高裁判所に上訴される可能性があります。つまり、この「リベレーション・デー関税」を巡る争いは、米国の司法制度の頂点にまで持ち込まれる展開も視野に入っています。
なぜこのニュースが重要なのか:貿易と権力分立の交差点
今回の訴訟は、一見すると米国内の法律問題に見えますが、国際ニュースとしても無視できません。理由は大きく三つあります。
- 大統領権限の線引き:国家非常事態を理由に、どこまで経済・貿易政策を一方的に動かせるのかという、権力分立の根幹に関わる問題が問われているためです。
- 貿易ルールの安定性:IEEPAの解釈次第では、貿易赤字や外交上の不満を理由に、関税が頻繁に使われる前例ができる可能性があります。これは、対米輸出に依存する国や企業にとって不確実性の要因になり得ます。
- 司法の役割:外交や安全保障に関わる領域で、司法がどこまで行政をチェックできるのかという問いは、他国の読者にとっても政治制度を考える手がかりになります。
日本を含む多くの国や地域にとって、米国の関税政策は自国の輸出入や企業活動に間接的な影響を及ぼし得ます。その背景にある国内政治や法制度の動きを押さえておくことは、単なる米国ニュースを超えた意味を持ちます。
今後数週間以内に示されるとみられる国際貿易裁判所の判断は、トランプ大統領の「白紙委任」とも言われる関税権限をどこまで認めるのか、そして米国の貿易政策と法の支配のバランスをどう考えるのかを占う重要な判断材料となりそうです。
Reference(s):
12 U.S. states decry Trump's 'blank check' tariffs in lawsuit
cgtn.com








