中国・米国は多角的貿易体制の中核的価値をどう守るか
今年5月にジュネーブで開かれた中国・米国の高級経済・貿易会合は、多角的貿易体制と多国間主義の重要性を再確認する場となりました。本稿では、その概要と「中核的価値」を日本の読者向けにコンパクトに整理します。
ジュネーブ会合で何が話し合われたのか
今年5月10日から11日にかけて、スイス・ジュネーブで中国と米国の経済・貿易を担当する要人によるハイレベル会合が行われました。中国側からは中国・米国経済貿易問題の中国側責任者であり、国務院副総理でもある何立峰氏が出席しました。米国側からは財務長官のスコット・ベッセント氏と通商代表のジェイミソン・グリアー氏が参加しました。
会合では、経済・貿易分野に関して率直かつ踏み込んだ、そして建設的な意見交換が行われ、一連の重要な共通認識に到達したとされています。
その内容をまとめた中国・米国経済貿易会合に関する共同声明が、現地時間の5月12日に発表されました。中国がこの対話に積極的に応じたことは、多国間主義への揺るがないコミットメントを示すとともに、グローバル・ガバナンスの改革と改善に向けて新たな機会を提供するものと受け止められています。
多角的貿易体制と多国間主義とは
今回の中国・米国会合の背景には、多角的貿易体制と多国間主義をどう守り、アップデートしていくかという大きな課題があります。
多角的貿易体制とは、多くの国や地域が共通のルールに基づき貿易を行う仕組みのことです。関税や補助金、サービス貿易、投資などについて、透明で予測可能なルールを共有することで、企業や消費者に安心感をもたらします。
多国間主義は、二国間の力関係だけでなく、国際社会全体のルールと協調を重視する考え方です。世界経済が相互依存を深めるなかで、この二つは切り離せないキーワードとなっています。
中国・米国が共有すべき「中核的価値」
世界経済に大きな影響を与える中国と米国が、多角的貿易体制の「中核的価値」を共有できるかどうかは、各国の企業や家計にとっても無関係ではありません。ここでは、その要素を四つに分けて整理します。
1. 開放性と非差別
まず重要なのは、貿易と投資の開放性です。特定の国や企業を恣意的に排除せず、ルールに基づいて市場アクセスを認める非差別の原則が、多角的貿易体制の土台となっています。
中国・米国間で対立が先鋭化すると、輸出規制や追加関税といった措置が連鎖し、サプライチェーン全体に不確実性が広がります。今回のような対話は、こうした緊張を和らげ、開放性をどう守るか議論するうえで重要な意味を持ちます。
2. ルールに基づく予測可能性
二つ目は、ルールに基づく運用と予測可能性です。企業が長期の投資や雇用の判断を行うには、突発的な政策変更ではなく、事前に見通しが立てられる枠組みが必要です。
中国と米国が経済・貿易問題について「率直かつ建設的」に意見交換し、重要な共通認識に至ったという事実は、ルールに基づく枠組みを重視する姿勢が共有されていることを示しています。これは、市場にとっても一定の安心材料となります。
3. 包摂性と発展
三つ目は、経済発展の果実を広く共有するという包摂性です。世界のサプライチェーンには、多数の新興国や発展途上の地域も深く組み込まれています。
中国と米国が協力して多角的貿易体制を支えることは、途上国を含む多くの国と地域にとって、成長の機会と安定したビジネス環境につながります。多国間主義の観点からも、特定の国だけが利益を独占しない設計が求められます。
4. 対話と透明性
四つ目は、定期的な対話と政策の透明性です。経済・貿易政策は国内の事情にも左右されますが、説明不足の措置は誤解や対立を招きやすくなります。
今回、中国側の責任者と米国の財務・通商当局トップが顔を合わせ、共同声明という形で共通認識を発表したこと自体が、透明性を高める試みといえます。継続的な対話の枠組みが維持されれば、緊張が高まった局面でも、衝突を避ける安全弁として働くことが期待されます。
グローバル・ガバナンス改革への新たな機会
今年5月の会合について、中国が対話に応じたことは、多国間主義への強いコミットメントの表れと位置づけられています。同時に、これはグローバル・ガバナンス、つまり世界全体のルールづくりを見直す機会でもあります。
デジタル経済や気候変動、サプライチェーンの安全保障など、従来の貿易ルールでは十分にカバーしきれない新しい論点が増えています。中国と米国が多角的貿易体制の中核的価値を共有し、建設的な形でルール改革に関わることができれば、国際経済の安定にとって大きな意味を持つでしょう。
日本の読者にとってのポイント
日本のビジネスや家計も、中国・米国関係と多角的貿易体制の行方に大きく影響を受けます。押さえておきたいポイントは、次の通りです。
- 中国・米国が対話を続け、共同声明を出したことは、経済・貿易分野での協調の余地が残されていることを示すサインである。
- 多角的貿易体制の中核的価値である開放性、非差別、ルールに基づく予測可能性は、日本企業の中長期戦略にとっても不可欠である。
- 中国と米国が多国間主義を尊重しつつ、グローバル・ガバナンス改革に関与する姿勢を示すことは、日本を含む各国の政策選択にも影響を与える。
今年5月のジュネーブ会合と共同声明は、単なる二国間のニュースにとどまりません。多角的貿易体制の将来を左右しうる一つの動きとして、今後の展開を静かに見守る必要があります。
Reference(s):
China-US should uphold core values of multilateral trading system
cgtn.com








