トランプ関税で米国投資に急ブレーキ TSMCアリゾナ計画にも影
米国の関税政策が、半導体から自動車まで「世界の投資マネー」の流れを大きく変えつつあります。世界最大の半導体メーカー、台湾のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)が、アリゾナ州での1,650億ドル規模の大型投資計画に黄色信号がともったと警告しているためです。
TSMCの1,650億ドルアリゾナ投資に立ちはだかる関税
TSMCは米商務省に対し、米国の関税が同社のアリゾナ投資計画に深刻な影響を与えると伝えました。この計画は、次のような内容を含む「メガ投資」です。
- 6つの半導体工場(ファブ)
- 2つのパッケージング・試験工場
- 1つの研究開発(R&D)センター
総額1,650億ドル(約1,650億ドル)にのぼるこのプロジェクトは、米経済に2,000億ドルの成長をもたらすと見込まれていました。しかしTSMCは、現在の「関税の混乱」が続けば、このメガ投資計画そのものが中止される可能性もあると警告しています。
半導体は安全保障やデジタル産業の中核にあるだけに、TSMCの姿勢は「米国は本当に安心して投資できる場所なのか」という問いを突きつけています。
1.9兆ドル規模のグローバル投資ビジョンも不透明に
影響はTSMCだけにとどまりません。ソフトバンク、アップル、CMA、欧州自動車大手のステランティスなどが関わる、総額1.9兆ドル規模の投資ビジョンも、同様に不透明になっているとされています。
もともとこの巨大な投資構想は、米国を先端産業とモビリティのハブとして位置づけるものでした。しかし、関税をめぐる先行き不透明感が強まるなか、企業側の計画は慎重姿勢へと傾きつつあります。
投資は「長期勝負」です。10年、20年先のルールやコストが読みづらくなると、企業はどうしても身構えざるを得ません。関税政策が頻繁に変わる、あるいは予測しにくいと映れば、巨額投資ほどリスクが大きく見えてしまいます。
トランプ氏の25%自動車関税、狙いと逆の結果
ドナルド・トランプ氏は、世界から米国への自動車と自動車部品の輸入に25%の関税を課しました。狙いはシンプルで、「海外の自動車メーカーに、米国内での生産を迫ること」だったとされています。
しかし、これまでのところ、現実は狙いとは逆方向に動いているようです。
自動車産業では今年、雇用が20%減
2025年これまでの動きを見ると、自動車産業はむしろ雇用を削減しています。業界全体で仕事が20%カットされたとされ、雇用の面でも関税の「副作用」が表面化しています。
欧州の自動車大手ステランティスは、米国内の5つの工場で計900人を一時解雇しました。さらに、カナダとメキシコでの操業も停止しており、北米全体の生産体制を見直していることがうかがえます。
本来、「関税で海外勢に圧力をかけ、米国内での生産と雇用を増やす」というストーリーが想定されていました。しかし現状では、企業がコスト増と不確実性を嫌い、投資や生産を抑える方向に動いているという構図が浮かんできます。
「投資を呼び込みたい国」と「保護関税」のジレンマ
今回のTSMCや自動車産業の動きは、「投資を呼び込みたい国」と「保護関税」の間にあるジレンマを象徴しています。
企業が投資先を判断する際に重視するのは、次のようなポイントです。
- 予測可能で安定したルール(関税や規制の見通し)
- 長期的なコスト構造(人件費だけでなく、部品や物流コストなど)
- サプライチェーン全体の安定性
関税が急に引き上げられたり、どこまで広がるか読めなかったりすると、企業はサプライチェーン全体の組み替えを迫られます。TSMCのような半導体メーカーにとっても、自動車メーカーにとっても、これは小さくないリスクです。
結果として、「国内製造を増やしたい」という意図で導入された関税が、逆に投資の足を遠のかせる要因になっている——。今回示された事例は、そんな逆説的な姿を見せています。
日本とアジアの読者が押さえておきたい視点
日本やアジアの企業、そして私たち生活者にとって、このニュースはどんな意味を持つのでしょうか。考えたいポイントを3つに整理します。
- 米国市場の「魅力」と「不確実性」
技術や人材、市場規模の魅力は依然として大きい一方で、関税や規制の不透明さは、投資リスクとして無視できない段階にきています。 - サプライチェーンの再設計
半導体と自動車は、日本やアジア経済とも深く結びついた産業です。米国での投資が揺らげば、生産拠点や調達先の見直しが連鎖的に広がる可能性があります。 - 「保護」と「開放」のバランス
どの国も自国産業を守りたい一方で、極端な保護主義は長期的な投資と雇用を弱めかねません。今回の事例は、そのバランスの難しさを改めて示しています。
これから何を見るべきか
2025年12月時点で、TSMCのアリゾナ計画や1.9兆ドル規模の投資ビジョンは、関税をめぐる政策次第で大きく方向が変わり得る局面にあります。
今後、
- 米国の関税政策に修正や例外措置が入るのか
- グローバル企業が投資先をどのようにシフトさせるのか
- 半導体・自動車を中心とした産業地図がどう塗り替わるのか
といった点が、国際ニュースの重要な観察ポイントになっていきます。
関税という一つの政策手段が、投資や雇用、サプライチェーン、そして各国の成長戦略にどこまで影響を与えるのか。引き続き、丁寧に追いかけていきたいテーマです。
Reference(s):
cgtn.com








