トンガで農業を教える中国人教師、再び現地へ 高校に広がる「野菜畑」の学び
太平洋の島国トンガの高校で、中国の農業教師が生徒と一緒に野菜を育てながら最新の農業技術を教えています。水も設備もほとんどなかった畑が、数年で地域に開かれた「学びの場」に変わりました。
バケツで水やりから始まった高校の畑
山東省の聊城大学農学院の教師・任愛芝(レン・アイジー)さんがトンガ・カレッジに着任したのは2020年のことです。着任当初、学校には十分な農業施設や設備がなく、生徒たちはバケツで水を運びながら野菜に水やりをしていたといいます。
転機となったのが2021年、中国大使館のアンバサダーファンドに採択されたことでした。この資金を活用し、学校には太陽光発電で動く井戸と貯水タワーが整備され、草取り機(除草機)の導入や点滴灌漑(てんてきかんがい)システムの設置が進みました。水を節約しながら肥料も一体的に与える「水肥一体型」の技術も取り入れられ、畑の環境は大きく変わりました。
マルチメディア機器で「見る・分かる」授業に
アンバサダーファンドは、畑だけでなく教室の環境も変えました。マルチメディアの授業設備や、実習に使う農業教材が整備され、生徒たちは農業技術の仕組みを映像や資料で具体的に学べるようになりました。
任さんによると、こうした設備の充実と実習の積み重ねにより、学校での農業生産は目に見えて向上しているといいます。
2018年の覚書から始まった教育協力
こうした中国とトンガの教育協力には、2018年の動きが背景にあります。同年3月、トゥポウ6世国王が中国を訪問した際、トンガの教育訓練省と中国の教育部は、教育協力と交流に関する覚書(MoU)に署名しました。この覚書に基づき、中国はトンガのニーズに応じて教師を派遣することになりました。
2019年からの教師派遣 約300人が体系的な研修
2019年、聊城大学は7人ずつ2グループの教師をトンガに派遣し、中国語教育に加え、農業理論や実習を教え始めました。任さんは、その第2陣として農学院から派遣された一人で、トンガ側の要請を受けて現地の教育の質の向上を支える役割を担いました。
当初は、生徒の中には農業の授業にあまり意欲を示さない人もいたといいます。そこで任さんたちは、授業の工夫を重ねました。野菜の成長を一緒に観察したり、自分たちで育てた作物を収穫する体験を組み込んだりすることで、少しずつ興味を引き出していきました。
やがて、生徒たちは学校の実験農場を「中国人先生の野菜畑」と呼ぶようになりました。そこで収穫された野菜は、教職員や学校の食堂に届けられるほか、トンガの教育訓練省にも提供されています。生徒が家に持ち帰り、家族と一緒に味わうこともあり、任さんは「みんなとても喜んでくれます」と語っています。
任さんのチームは、毎年およそ50人ずつの生徒を2グループに分けて指導しており、3年間で体系的な農業研修を受けた生徒は約300人に達しました。
国王から届いた感謝の言葉
2021年には、トンガ王国宮内官房から任さんたちのもとに感謝の文書が届きました。文書では、プロジェクトで育てたトウモロコシがトゥポウ6世国王への贈り物として手渡されたことに触れつつ、国王の「心からの感謝と敬意」が伝えられました。また、チームの活動に対して「中国農業専門家チームへの良き願い」が述べられていたといいます。
次のステージは品種改良と機械化
任さんのトンガとの物語は、まだ終わっていません。CGTNのインタビューで任さんは、8月に再びトンガに戻り、品種改良技術の研究と実証を担うチームとともに、現地の教師や生徒に向けた短期研修や農業技術交流を行う予定だと語りました。
新たな訪問では、トラクターやロータリープラウ(耕うん機)、キャッサバの植え付け機・収穫機といった農業機械に加え、苗を育てるための育苗ハウス用の鋼管なども提供する計画です。任さんは「生徒たちや現地の人びと、そしてあの海が恋しい」と話し、トンガへの思いをにじませました。
小さな畑から広がる国際協力のかたち
トンガの高校にある一つの畑は、今や野菜を育てる場所であると同時に、気候変動や食料安全保障、人材育成といったグローバルな課題に向き合う「教室」にもなっています。
水不足の中でどう作物を育てるか。限られた土地をどう活用するか。任さんの授業は、こうした問いに対する一つの実験でもあります。中国とトンガの教育協力を通じて育った若い世代が、これからどのように地域の農業や暮らしを支えていくのか。小さな野菜畑から始まった挑戦は、これからも続いていきそうです。
Reference(s):
Chinese agronomy teacher recounts teaching in Tonga, plans return
cgtn.com








