米国関税はエネルギー危機の引き金に?世界経済への警鐘
米国関税は世界経済の「転換点」か
トランプ政権が打ち出した大規模な米国関税が、世界経済とエネルギー市場に深刻な波紋を広げつつあります。エネルギー・資源分野の調査会社ウッドマッケンジー(Wood Mackenzie、以下ウッドマック)が5月下旬に公表した最新分析は、この「関税ショック」がエネルギー危機の引き金になり得ると警告しています。
ウッドマックは、今年4月2日に発表されたトランプ大統領の「解放の日(Liberation Day)」関税宣言を「2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟以来、世界経済にとっておそらく最も重要な瞬間」と位置づけました。ただし、中国のWTO加盟が世界成長を押し上げたのとは対照的に、今回の包括的な米国関税と各国の報復措置は、既存の貿易関係を破壊し、グローバル化からの後退を加速させる恐れがあると指摘しています。
報告書が描く世界像は、すでに不透明感が高まっている世界経済に、さらに大きなリスクを上乗せするものです。
- 最悪の「貿易戦争」シナリオでは、2030年までに世界GDPが2.9%縮小すると試算
- 石油需要は2026年に一時的なマイナス成長に陥り、2030年の需要水準は楽観シナリオより日量250万バレル低下
- 電力・再生可能エネルギー、金属・鉱業などエネルギー関連の広い分野で投資が抑制され、米国は「高コストなエネルギー孤立」に向かうリスク
3つのシナリオと「貿易戦争」ケース
ウッドマックは、トランプ政権の関税政策の影響を検証するため、3つのシナリオを設定しました。その中で最も厳しいのが「貿易戦争」シナリオです。このケースでは、米国の実効関税率が30%を超える水準まで引き上げられると想定されています。
その結果として、2030年までに世界の実質GDPは基準ケースに比べて2.9%縮小すると試算しています。2030年は、現在からおよそ5年後にあたる年です。世界の成長エンジンである貿易と投資が関税の壁によって抑え込まれることで、長期的な成長力そのものが損なわれるリスクが示されています。
石油産業:シェールブームに冷や水
報告書によると、米国のエネルギー自立の柱である石油産業は、関税政策の「最大の被害者」の一つになり得ます。最悪シナリオでは、世界の石油需要は2026年に初めて「outright fall(実質的な減少)」に転じると想定されています。
その後、需要は2027年から再び伸び始めるものの、2030年の需要水準は最も楽観的なシナリオと比べて日量250万バレル少ないと見込まれます。需要の伸び悩みと景気減速を背景に、2026年の原油価格は平均で1バレル50ドル程度に下落すると分析しています。
ウッドマックは、米国内のシェールオイル(とくに本土48州での掘削)について、「1バレル50ドルでは生産拡大を支える経済性を確保できない」と指摘します。企業は採算ラインの引き下げを目指しているものの、価格急落が投資意欲を冷やし、2030年まで米国の原油生産は関税がなかった場合よりも低い水準にとどまる可能性があります。
米国外の産油国も無傷ではありません。世界的な投資予算の削減により、まだ建設に着手していない上流プロジェクトの開発が遅れるとみられており、中長期的な供給力にも影を落とします。
電力・再生可能エネルギー:不確実性が最大の敵に
電力・再生可能エネルギー分野にも、関税は見えにくい形で重くのしかかります。発電所や送電網、再生可能エネルギー設備は、5〜10年単位の長期計画で投資が行われるビジネスです。
ウッドマックは「5〜10年の計画サイクルを持つビジネスにとって、翌年やその次の年のコストが読めない状況は極めて破壊的だ」と強調します。実際、多くの企業がすでに戦略や事業計画の見直しに着手し、一部の投資は先送りされていると指摘しています。
関税によるコスト増と不確実性によって、米国は再生可能エネルギーや蓄電池の分野で「高コストな立地」として固定化される恐れがあります。トランプ政権は関税を通じて製造業の国内回帰を図り、海外サプライチェーンへの依存を減らすことを掲げてきましたが、報告書は少なくともエネルギー分野では、こうした目標とは逆の結果を生んでいると示唆しています。
金属・鉱業:エネルギーインフラの「素材」にも打撃
関税の影響は、エネルギーインフラを支える金属・鉱業分野にも広がります。アルミニウムや銅、鉄鋼、リチウムは、送電線やパイプライン、発電設備、電気自動車用電池など、エネルギー関連の幅広い用途で欠かせない素材です。
ウッドマックの分析によると、最悪シナリオでは2026年のアルミ需要は基準ケースに比べて約400万トン減少し、銅需要も120万トン減ると見込まれています。鉄鋼需要は9000万トン、リチウム需要は7万トンそれぞれ減少するとの試算です。
こうした需要の落ち込みは、金属価格や鉱山投資にも下押し圧力をかけ、結果としてエネルギーインフラの更新・拡張プロジェクトの遅れにつながる可能性があります。
企業戦略とエネルギーの将来像
ウッドマックは、エネルギー・資源企業は「今後数カ月、そしておそらく数年にわたり、関税をめぐる不確実性と向き合わざるを得ない」と警告します。そのなかで、リスクの高い投資は削減され、柔軟性を高める戦略が優先されると見ています。
これは、米国のエネルギー開発の軌道を今後長年にわたり根本から変えてしまう可能性があります。長期の大型プロジェクトよりも、短期間で回収できる小型案件や、需要や価格の変動に応じて素早く調整できる投資が好まれるようになるかもしれません。
私たちは何を注視すべきか
2030年まであと数年となった今、関税政策が世界のエネルギーと経済に与える影響は、日本を含むアジアの読者にとっても無関係ではありません。石油価格や金属価格の変動は、エネルギー輸入国・輸出国の双方にとって、景気やエネルギー転換の計画を左右する要因になり得ます。
今回のウッドマックの分析は、関税という一見「国内産業保護」のための政策が、エネルギー安全保障や気候変動対策、そして世界経済そのものにどう跳ね返ってくるのかを考えるきっかけを与えてくれます。
読者のみなさんは、次のような点を意識しながらニュースを追うとよいかもしれません。
- 米国と主要国の関税交渉・報復措置が、原油や金属の価格・投資計画にどう反映されているか
- 各国政府や企業が、関税リスクを踏まえてエネルギー政策や調達戦略をどのように見直しているか
- エネルギー転換(脱炭素)の動きが、貿易摩擦によってスピードアップするのか、あるいは減速するのか
「読みやすいけれど考えさせられる」国際ニュースとして、今後もエネルギーと世界経済の動きを継続的に追っていきたいテーマです。
Reference(s):
U.S. tariffs to trigger energy crisis amid global economic uncertainty
cgtn.com








