トランプ大統領、日本製鉄によるU.S.スチール買収を条件付き承認 米政府が「黄金株」で拒否権
米国のトランプ大統領が、日本製鉄による米鉄鋼大手U.S.スチールの買収を、大統領令によって条件付きで承認しました。前政権のバイデン氏がいったん阻止した取引が、安全保障を軸にした新たな枠組みのもとで再び動き出した形です。
この記事では、国際ニュースとして注目されるこの買収問題について、次の3点を中心に整理します。
- トランプ大統領が承認した条件付き買収の中身
- 110億ドル投資と米政府の「黄金株」の意味
- バイデン政権による拒否から訴訟、そして今回の転換までの流れ
何が決まったのか:条件付きで買収を承認
日本製鉄とU.S.スチールは、米国時間の金曜日に共同声明を発表し、トランプ大統領が日本製鉄によるU.S.スチール買収を条件付きで認める大統領令に署名したと明らかにしました。これは、前のバイデン政権が下した買収ブロック(阻止)を覆す決定です。
大統領令そのものには、国家安全保障に関する合意の具体的な条件は詳しく示されていません。しかし、両社の共同声明によると、買収承認の前提として、次の条件が含まれています。
- 日本製鉄が2028年までに、米国内で約110億ドルを投資すること
- 米政府に特別な1株(いわゆる「黄金株」)を付与し、国家安全保障に関わる重要な企業判断に対して拒否権を認めること
つまり、買収そのものは認める一方で、米国内への大型投資を約束させ、さらに米政府が企業の意思決定に一定の「最後の一線」を引けるようにする枠組みだといえます。
「黄金株」と110億ドル投資の意味
今回の国際ニュースで特徴的なのは、米政府が手にする「黄金株」の存在です。黄金株(ゴールデン・シェア)とは、株式数がごくわずかでも、持ち主に特別な議決権や拒否権を与える仕組みを指します。
共同声明では、米政府が黄金株を通じて、国家安全保障に関わる重要な企業判断に拒否権を持つとされています。具体的にどのような項目に適用されるかは公表されていませんが、一般的には次のような決定が対象になることが多いとされています。
- 重要な事業や資産の売却・譲渡
- 工場など主要拠点の大規模な再編・閉鎖
- 安全保障に関わる技術や設備への影響が大きい投資判断
トランプ大統領の大統領令では、国家安全保障合意の詳細は明示されていませんが、この黄金株の仕組みを通じて、米国側が「最後のチェック権限」を維持することを狙っているとみられます。
もう一つの柱である約110億ドルの投資も、米国の鉄鋼業や関連産業への長期コミットメントを意味します。設備更新や環境対応、地域経済への波及効果などを通じて、「海外企業による買収であっても、米国内の雇用と生産基盤は強化される」というメッセージを打ち出した形です。
バイデン政権の拒否から訴訟へ
日本製鉄によるU.S.スチール買収計画をめぐっては、今年1月、当時のバイデン政権が国家安全保障などを理由に取引を拒否していました。この決定を受けて、日本製鉄とU.S.スチールは、決定の撤回と審査の再開を求める訴訟を起こしています。
両社は司法の場を通じて、買収計画の正当性や手続きのあり方を争う構えを見せていましたが、今回トランプ政権が条件付きとはいえ承認に転じたことで、この訴訟を今後どう扱うかも焦点になりそうです。
トランプ氏の姿勢:反対から「条件付きの支持」へ
トランプ氏は大統領選の運動期間中、日本製鉄によるU.S.スチールの買収に反対する姿勢を示してきました。一方で、「ホワイトハウス入り後には何らかの形で合意を模索できる」とも語り、条件次第で受け入れる余地があることを示唆していました。
今年5月23日には、トランプ氏は両社が「計画されたパートナーシップ」を形成すると述べ、買収計画を支持する意向を明らかにしています。今回の大統領令による承認は、その流れを具体化したものだといえます。
結果として、トランプ政権は、単純な「賛成」でも「反対」でもなく、投資拡大と安全保障上のコントロールを条件とした「管理された買収」を選んだ形です。これは、製造業と安全保障を重視しつつも、海外からの資本と技術を取り込もうとする姿勢を示すシグナルとも受け取れます。
なぜ鉄鋼が国家安全保障の問題になるのか
今回のニュースでは、鉄鋼会社の買収が「国家安全保障」の問題として扱われている点も重要です。鉄鋼は軍事、インフラ、エネルギーなど、国家の基盤となる分野に欠かせない素材であり、安定供給が安全保障と結びつきやすい産業の一つとされています。
このため、各国政府は、鉄鋼を含む重要産業への海外企業による投資・買収について、通常の競争政策だけでなく、安全保障の観点からも審査を行う傾向が強まっています。今回、米政府が黄金株という強い権限を持つ形で買収を認めたことは、そうした流れの一つの象徴といえるでしょう。
日本企業と国際M&Aへのメッセージ
日本製鉄とU.S.スチールのケースは、日本企業による海外M&A、とりわけ安全保障に関わると見なされる分野での投資が、今後どのような枠組みのもとで認められていくのかを示す事例にもなり得ます。
ポイントは次の三つです。
- 大型M&Aは「オール・オア・ナッシング」ではなく、投資拡大やガバナンスの条件付きで認められるパターンが増える可能性
- 受け入れ国の政府が黄金株などを通じて、戦略的な決定に関与する余地を確保しようとする動き
- 企業側も、雇用や地域社会へのコミットメント、技術や設備の扱いについて、より明確な説明責任を求められること
日本企業にとっては、海外での買収や投資を検討する際、財務面のシナジーだけでなく、受け入れ国の安全保障政策や政治情勢とどのように折り合いをつけるかが、これまで以上に重要になっていきます。
今後の焦点:買収完了までの道のり
トランプ大統領の大統領令によって、日本製鉄によるU.S.スチール買収は大きなハードルを一つ越えたことになります。ただし、買収が実際に完了するまでには、国家安全保障合意の具体化や、既に提起されている訴訟の取り扱いなど、いくつかの論点が残されています。
米国内の政治や世論の動き、そして両社がどのような形で投資や雇用の約束を実行していくのか。日本から国際ニュースをフォローする読者にとっても、今後の展開は、日米経済関係や海外M&Aの新しい「ルール」を考えるうえで注目すべきポイントになりそうです。
Reference(s):
Trump approves U.S. Steel sale to Nippon Steel with conditions
cgtn.com








