中央アジアの「後発優位」:デジタル・シルクロードで広がる技術協力
2025年6月16日の中国・中央アジアサミットを機に、中国と中央アジアのテクノロジー協力が新たな段階に入りつつあります。デジタル格差を縮め、「後発優位」を生かせるかどうかが、今後の成長と貧困削減を左右しそうです。
アスタナで示された「デジタル時代のシルクロード」
2025年6月16日、習近平国家主席はカザフスタンの首都アスタナを訪れ、第2回中国・中央アジアサミットに出席しました。古代シルクロードで結ばれてきた中国と中央アジアの関係を、デジタル技術とイノベーションを軸に再構築する節目となる訪問です。
世界経済がデジタル技術を成長の原動力とする時代に入り、通信ネットワークやクラウド、データセンターなどのデジタル・インフラは、かつての電力網や鉄道網に相当する「新たな基盤インフラ」になっています。
デジタル空間は、多くの人が参加するほど価値が高まる「デジタル・コモンズ(共有のデジタル空間)」という性格を持ちます。利用者が増えるほど知識の交換が進み、サービス同士の連携が深まり、新たな価値が生まれていきます。
こうした発想に基づき、習主席は2017年に「21世紀のデジタル・シルクロード」構想を打ち出し、一帯一路に参加する国々のデジタル格差を縮めることを提案しました。2025年12月現在、中央アジアはこの構想の重要なパートナーとして位置づけられています。
中央アジアのデジタル格差とキャッチアップのチャンス
中央アジアにとっての課題は、単に通信網を整備するだけでなく、デジタル技術を教育、商取引、医療など日常生活のあらゆる場面にどう組み込むかという点にあります。包摂的なデジタル接続を実現できれば、経済成長だけでなく社会的な格差の緩和にもつながります。
すでに他地域で成熟したデジタル・ビジネスモデルは、中央アジアにとって「そのまま、あるいは少し手を加えて導入できる設計図」として活用できます。具体的には次のような分野です。
- 教育:スマートフォンを前提とした学習アプリやオンライン授業によって、地方や教育資源が限られた地域でも、職業訓練や語学、デジタルリテラシー教育にアクセスしやすくなります。
- 商取引:モバイル決済や越境電子商取引(クロスボーダーEC)は、中小企業や個人商店が海外市場とつながるための有力な手段です。物流管理やデジタル決済の仕組みを導入すれば、地域の生産者が世界の消費者に直接アクセスできるようになります。
- 医療:遠隔医療やオンライン診療は、医師不足や広大な国土という課題を抱える中央アジアにとって有効な選択肢です。基礎的な診断や相談をオンラインで行えるようにすれば、医療へのアクセスを広げると同時に、公衆衛生システムの強靭化にも寄与します。
これらのモデルは、すでに他の新興市場で機能している点が重要です。十分な接続環境とユーザーの基本的なリテラシーが整えば、中央アジアでも比較的短期間でスケールしやすいと考えられます。
「後発優位」をどう生かすか —— 鍵は人材
技術面で遅れていることは一見不利に見えますが、別の見方をすれば戦略的なチャンスでもあります。これが「後発優位」と呼ばれる考え方です。新興国は、先進国が時間とコストをかけて試行錯誤してきた段階を飛び越え、すでに実証された技術やビジネスモデルを一気に導入できる可能性があります。
実際、ベトナムやインドネシア、フィリピンなどでは、モバイル通信やデジタル金融などの技術をうまく取り入れることで、成長の加速につなげてきた例が見られます。中央アジアも同じように、戦略的に技術を取り込むことで追い上げを図ることができます。その際に決定的に重要になるのが人材戦略です。
習主席は2017年、一帯一路の枠組みの中で、科学技術分野の協力とイノベーションを促進する計画を提案しました。そこでは、科学・文化交流、共同研究室、サイエンスパークの連携、技術移転などが掲げられています。中央アジアはこの枠組みを活用し、次の二つのトラックで人材育成を進めることができます。
ハイエンド人材:共同研究で「つくる側」に
第一に、研究者やエンジニアといったハイエンドの科学技術人材です。中央アジアの国々が中国の大学や研究機関と共同研究や共同ラボを立ち上げれば、単に技術を導入する段階から、改良や応用を行う「つくる側」に近づくことができます。
こうした人材は、人工知能(AI)、通信技術、スマート農業など成長分野での共同プロジェクトを通じて育成できます。長期的には、地域発のスタートアップや技術ベンチャーを生み出す土壌にもなります。
テクニカル人材:現場を支えるスキルの底上げ
第二に、導入された機器やシステムを運用・保守するためのテクニカル人材です。ITインフラを維持し、工場や農場で最新の設備を使いこなすためには、多数の技能者や技術者が不可欠です。
職業訓練校や専門学校を強化するとともに、中国企業が現地で実施する技術トレーニングプログラムなどを組み合わせれば、外部の技術支援への過度な依存を減らすことができます。ハイエンド人材と現場の技能者双方をそろえることで、中央アジアは「後発優位」を現実の競争力へと転換しやすくなります。
農業テックと貧困削減:土地のポテンシャルを引き出す
近年、中央アジアは比較的安定した状況が続いており、貧困問題に本格的に取り組むための重要な時間を迎えています。その際に参考となるのが、中国が歩んできた貧困削減の経験です。過去数十年で数億人が貧困から抜け出しましたが、その背景には農業技術の革新がありました。
高収量の作物品種や近代的な農業手法によって、農村の生産性が大きく高まりました。中央アジアは広大な農地を持つ一方で、気候が厳しい地域も多く存在します。そのため、干ばつに強い作物品種や、環境負荷を抑えつつ収量を維持・向上させる技術が特に重要になります。
具体的には、次のような農業テックが有望とされています。
- スマート灌漑:センサーや自動制御を用いた灌漑システムにより、水資源を節約しながら作物に必要な水を安定的に供給します。
- 自動化された病害虫管理:ドローンやセンサーを活用し、必要な場所にだけ農薬を散布することで、コストと環境負荷を低減します。
- 精密農業:土壌や気象データを細かく取得・分析し、肥料や種まき、収穫のタイミングを最適化します。
- 衛星・リモートセンシング:人工衛星やリモートセンシング技術を使い、広大な農地の状態を把握して、収量予測やリスク管理に役立てます。
こうした技術を中央アジアの環境や作物に合わせてローカライズし、スケールさせることができれば、農業部門の生産性向上と貧困削減の両方に貢献することが期待されます。
キャッチアップ成長に向けた中央アジアの選択
古代のシルクロードが絹や香辛料、物語や文化を運んだように、今日の一帯一路構想は、デジタル技術や新しいビジネスモデルを中国と中央アジアの間で行き来させています。
2025年12月現在、中国と中央アジアの間には、デジタル・シルクロードや科学技術協力を支える枠組みが整いつつあります。今後の焦点は、それをどの分野に、どの優先順位で実装していくかという具体的な選択に移っています。
デジタル・インフラへの投資、人材育成、農業を含む産業での技術活用を組み合わせ、「後発優位」を戦略的に生かすことができれば、中央アジアはキャッチアップ型の成長と、より包摂的な繁栄への道筋を描くことができるでしょう。これから数年は、その方向性を定めるうえで極めて重要な時間になりそうです。
Reference(s):
Latecomer advantage: Central Asia's prospects for embracing technology
cgtn.com








