カナダはデジタルサービス税撤回、EUは強硬 米国高関税を前に揺れるデジタル規制
米国が複数の貿易相手国に最大50%の高関税を再発動する期限としていた7月9日を前に、カナダは米国の圧力を受けてデジタルサービス税を撤回し、欧州連合(EU)はデジタル規制では一歩も引かない姿勢を示しました。この国際ニュースは、デジタル税と貿易交渉がどれほど緊密に結びついているかを映し出しています。
カナダはデジタル税撤回、米国との交渉再開
ホワイトハウス国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長は月曜日、カナダがデジタルサービス税(DST)を撤回したことを受け、米国とカナダの貿易協議が直ちに再開されると明らかにしました。
ハセット氏によると、トランプ大統領は今月、カナダで開かれたG7首脳会合の場でマーク・カーニー首相に対し、デジタルサービス税を撤回するよう求めていました。ハセット氏は米テレビ局のインタビューで「カナダ側は検討を重ね、最終的に同意した。これで交渉に戻ることができる」と語りました。
カナダのフランソワ=フィリップ・シャンパーニュ財務・歳入相は日曜日、米国とのより広範な貿易協定の準備として、カナダがデジタルサービス税を取り下げると発表しました。
当初は月曜日に発効する予定だったこの税制は、アマゾン、グーグル、メタといった米国の巨大IT企業がカナダの利用者から得る収入に対し、3%の課税を行う内容でした。トランプ大統領は、こうしたデジタルサービス税が米国企業を狙い撃ちにするものだとして、金曜日にはカナダとの貿易協議を打ち切ると宣言していましたが、カナダ側の撤回で一転して協議再開が決まりました。
関税リスクを避けたカナダの「現実路線」
カナダの判断の背景には、7月9日までに貿易合意に至らなければ、米国が複数の貿易相手国に対して最大50%もの関税を再発動する可能性があったことがあります。高率の関税が実際に課されれば、カナダの輸出企業や雇用への影響は大きくなります。
デジタル経済に独自の課税ルールを設ける権限よりも、目前の高関税リスクを避け、米国との包括的な貿易合意を優先したカナダの選択は、対米関係における「どこまで譲るのか」という現実的な計算を浮き彫りにしています。
EUは「デジタル法制は交渉の対象外」と強調
一方、欧州連合は米国の要求に対して、より強硬な姿勢を見せています。欧州委員会のトーマス・レニエ報道官は月曜日の会見で、米国との通商交渉においてEUのデジタル関連法制は「テーブルに載っていない」と述べ、交渉の対象外であることを明確にしました。
レニエ氏は、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長が以前から「EUの法律は交渉の対象ではない」と繰り返し表明してきたことに触れ、「もちろんデジタル法制もその一部だ」と説明しました。
さらに同氏は「第三国の行動に合わせてEU法の施行を調整することはしない。もしそれを始めれば、数多くの第三国に対して同じことをしなければならなくなる」と述べ、米国の圧力でデジタル規制の運用を変える考えはないと強調しました。その一方で、欧州委員会としては7月9日までに米国との貿易合意を目指す姿勢は維持するとしています。
DMAとDSAをめぐる米欧の攻防
米国は、EUが導入したデジタル市場法(DMA)とデジタルサービス法(DSA)について、米国の大手IT企業に不利な不公正な規制だと繰り返し批判してきました。ホワイトハウスは2月のメモで、EUの規制当局がDMAやDSAを根拠に米国企業を標的にする場合、報復措置を検討すると警告しています。
その約2カ月後の4月には、欧州委員会が米アップルとメタがDMAに違反したと認定し、両社に対して多額の制裁金を科しました。EUにとっては、自ら定めたデジタル市場ルールを一貫して適用することが信頼性の源泉であり、ここで軸足を動かせば、他の分野の規制にも影響が及びかねません。
関税交渉のカードとしてのデジタル規制
欧州委員会のマロシュ・シェフチョビッチ貿易・経済安全保障担当委員は、7月1日にワシントンを訪れ、米EU間の通商合意に向けた協議を続けると明らかにしました。これは、7月9日の関税再発動期限を前にした最後の詰めの局面と位置づけられていました。
米メディアの報道によると、EUは多くの輸出品に一律10%の関税を課すという枠組みを受け入れる用意がある一方で、医薬品や酒類、半導体、民間航空機といった重要分野では、より低い関税率を米国に求めています。
さらにEU側は、自動車や自動車部品に対する25%関税、鉄鋼やアルミニウムに対する50%関税についても、実質的な負担を軽くするための輸入枠や免除枠の設定を米国に要求していると伝えられています。
こうした駆け引きの中で、カナダのようにデジタルサービス税そのものを取り下げるのか、それともEUのように自らのデジタル規制の正当性を守り抜くのかは、各国や地域がどの価値を優先するのかを示す試金石となっています。
私たちにとってこの国際ニュースが意味するもの
今回の一連の動きは、単なる二国間・地域間の通商問題にとどまらず、次のような問いを投げかけています。
- デジタル経済のルールづくりを、各国はどこまで主権的に決められるのか
- 巨大IT企業への規制強化と、貿易摩擦の回避は両立できるのか
- 高関税を「交渉カード」として使うアプローチは、長期的に見て本当に得策なのか
カナダのように「関税リスクを回避するために譲る」選択もあれば、EUのように「法律の一貫性と規制主権を優先する」選択もあります。どちらが良い悪いという単純な話ではなく、デジタル課税やIT規制をめぐる国際交渉の複雑さを浮き彫りにしていると言えます。
日本を含む多くの国々にとっても、デジタル課税や巨大IT企業の扱い、そして通商政策をどう組み合わせるかは避けて通れないテーマです。スマートフォン一つで世界中のサービスにつながる私たちの日常の裏側で、どのような交渉と駆け引きが行われているのか。カナダとEUの対照的な対応は、その一端を考えるきっかけになります。
Reference(s):
Canada backs down, EU holds firm as U.S. tariff deadline looms
cgtn.com








