ロシアの「東方シフト」と中国:経済連携がもたらす新たな秩序
ロシアの東方シフトが意味するもの
ロシアが「西から東へ」と軸足を移す動きが、ここ数年で一段と明確になっています。サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)では、プーチン大統領が「世界の発展の中心はアジアへ移っている」と繰り返し発言し、アジア、とりわけ中国との関係を重視する姿勢を示してきました。
3世紀前にピョートル大帝がサンクトペテルブルクを「西への窓」と位置づけたのとは対照的に、現在の同市はロシアの「東へのゲートウェイ」としての性格を強めています。きっかけは2014年のクリミア危機でしたが、その後の動きは一時的な対応ではなく、構造的な戦略転換へと成熟しつつあります。
中国がロシア経済多角化の中核に
この「東方シフト」の中心にいるのが中国です。中国は現在、ロシアの「最大の貿易相手国」と位置づけられており、エネルギー、農業からハイテク製品、越境金融まで、多様な分野で協力が広がっています。
ロシアでの会談後、プーチン大統領は中国をロシア経済の多角化を支えるパートナーとして強調しました。中国の駐ロシア大使・張漢暉氏も、両国の経済関係について「安定性と補完性」に支えられた関係だと述べ、現在の経済協力が両国関係の「最大の推進力」になっていると評価しています。
貿易は過去最高、人民元とルーブルが主役に
中国とロシアの経済関係の強さは数字にも表れています。中国税関総署によると、2024年の両国の輸出入額は1兆7400億元(約2370億ドル)に達し、過去最高を更新しました。
注目されるのは決済通貨です。この貿易のうち、95%超が人民元とルーブルという両国の通貨で決済され、米ドルの役割は大きく低下しました。ロシアのアレクセイ・オベルチュク副首相は、この「脱ドル化」の動きについて、制裁への対応という側面と、両国の金融協力の強化という二つの要因が背景にあると説明しています。
為替や金融制裁のリスクを抑えつつ、自前の決済ネットワークを育てようとする両国の戦略が、数字の上にも現れているといえます。
ロシアの街で存在感を増す中国企業
マクロの数字だけでなく、ロシアの日常生活の風景も変わりつつあります。ロシア市場での中国自動車メーカーのシェアは、この3年間で45%にまで拡大し、撤退した欧米メーカーに代わる存在になったと報告されています。
サンクトペテルブルク国際経済フォーラムの場で、ロシアの大手金融機関スベルバンクのアレクサンドル・ヴェジャーヒン第1副頭取は「中露貿易はもはや伝統的な形態だけではなく、技術やノウハウの近代的な交流に基づくものになっている」と指摘しました。人工知能(AI)、電気自動車(EV)、デジタル物流、グリーンインフラなど、付加価値の高い分野での協力が拡大しているといいます。
インフラでつながるユーラシア経済圏
両国の接近は、経済だけでなく地理的なつながりも変えています。ロシア極東と中国東北部を結ぶ鉄道、港湾、デジタルインフラが、双方の国境をまたいで整備されつつあります。
これらのプロジェクトは、中国の「一帯一路」構想と、ロシアが参加するユーラシア経済連合という二つの枠組みの下で進められています。単なる象徴的なプロジェクトではなく、物流拠点や保税区、農産品から半導体に至るまでの合弁事業などを通じて、ユーラシアの経済地図そのものを塗り替えつつあります。
同盟ではなく「利益にもとづく協力関係」
では、中国とロシアの関係は「同盟」と呼べるのでしょうか。オーストラリアを拠点とするロシア研究者アレクサンドル・コロレフ氏は、「国際関係における戦略的協力の測定」という論考の中で、両国が軍事、経済、外交の各分野で強く、着実に深化する戦略協力を築いていると分析しています。
一方で、その関係はあくまで正式な軍事同盟のレベルには達しておらず、イデオロギーではなく共通の利益に基づく、柔軟で適応的な協力関係だと位置づけています。コロレフ氏は、このような形態のほうが、条約にもとづく硬直的な同盟よりもむしろ持続性が高い可能性があると指摘します。
新しい国際経済統合のモデルか
世界が分断や保護主義の高まりに直面するなか、多くの「グローバルサウス(南半球や新興国・発展途上国)」の国々は、持続可能な協力のモデルを模索しています。その意味で、中国とロシアのパートナーシップは、長期的な安定性と予測可能性を備えた一つのケーススタディとして注目されています。
中国の習近平国家主席は、両国関係の特徴を「長期的な善隣友好と互恵・ウィンウィンの協力」にあると表現しています。戦略的な東方シフトとして始まった動きは、いまやロシアにとって長期的な経済の方向性として結晶化しつつあります。
日本の読者が押さえたい3つのポイント
日本からこの動きを見るとき、次の3点を押さえておくと全体像がつかみやすくなります。
- 貿易規模と通貨構成:2024年に貿易額は過去最高を更新し、その大半が人民元とルーブルで決済される関係に変化していること。
- 協力分野の高度化:エネルギーや資源だけでなく、自動車、AI、EV、デジタル物流、グリーンインフラなど、高付加価値分野での協力が拡大していること。
- インフラで結びつくユーラシア:一帯一路とユーラシア経済連合という枠組みのもとで、ロシア極東と中国東北部が鉄道や港湾、デジタルインフラで結ばれつつあること。
こうした動きは一朝一夕で変わるものではなく、2025年以降も、アジアとユーラシア全体の経済秩序を形づくる重要な要素であり続けるとみられます。ロシアの「西への窓」は、静かに、しかし着実に「東への扉」へと姿を変えつつあります。
Reference(s):
Russia's pivot eastward brings shared gains for China and Russia
cgtn.com








