90日関税猶予の失敗 トランプ米政権の関税再開はなぜ危ういのか
2025年7月7日、トランプ米大統領が日本や韓国を含む14カ国に対する新たな関税を発表しました。90日間続いた関税猶予措置は、米国が狙った「各国からの譲歩」と「貿易赤字の縮小」をほとんど実現できないまま終了し、8月1日からは関税再開が始まっています。本記事では、2025年12月の今振り返って、この90日間の失敗が何を示しているのか、そして関税再開がなぜ問題解決につながりにくいと考えられているのかを整理します。
14カ国への新関税:日本と韓国も対象に
新関税は、90日間の一時停止期間が終わる2日前に発表されました。対象となったのは、日本と韓国という米国の主要な貿易相手に加え、マレーシア、インドネシア、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュ、セルビア、南アフリカなど計14カ国です。
- 日本、韓国:25%
- マレーシア:25%
- 南アフリカ:30%
- インドネシア:32%
- バングラデシュ、セルビア:35%
- タイ、カンボジア:36%
- ラオス、ミャンマー:最大40%
新関税は2025年8月1日に発効しました。発表から発効まで約3週間を設けることで、米国は各国に追加的な譲歩を迫り、場合によっては税率を調整する交渉カードとして関税を使おうとしました。しかし、この一方的なやり方は、14カ国すべてで強い反発を招きました。日本では、石破茂首相が速やかに厳しい姿勢を示し、対話の必要性を認めつつも、米国の姿勢には応じられないとの立場を明確にしたとされています。各国の間では、こうした一方的な関税は「いじめ」に等しいとの批判も出ています。
成果なき90日間:交渉はなぜ進まなかったか
今回の関税再開は、90日間の関税猶予を通じて相手国から譲歩を引き出すという構想が、ほぼ実現しなかったことの裏返しでもあります。トランプ氏は2025年4月2日時点で、100カ国以上が米国と交渉し譲歩するために行列を作っていると豪語していました。しかし、7月7日までに実際に枠組み合意にこぎ着けたのはベトナムのみでした。
英国との通商協定はBREXITに伴うものであり、今回の相互関税交渉とは別枠とされています。米国の2024年の世界全体の貿易赤字は1.2兆ドルに達し、そのほとんどは欧州連合(EU)、中国本土、メキシコ、カナダ、日本、韓国、台湾地域、ベトナム、インド、マレーシアという10の主要な貿易相手との取引から生じていました。ところが、このうちEU、日本、カナダ、メキシコ、インドとの交渉は依然として行き詰まり、唯一の大国である中国本土との枠組み合意も、米国側が関税の一部を引き下げる内容で、トランプ政権が期待した相手国の譲歩とは逆の方向になったとされています。
結果として、90日間の関税猶予は、米国自身が掲げた目標に照らすと成果なき期間だったと言わざるを得ません。
数字が語る逆効果:輸入急増で赤字拡大
さらに厄介なのは、関税政策が肝心の貿易赤字削減に逆効果をもたらしている点です。2025年1〜5月の米国の世界全体の貿易赤字は604.23 billionドル(約6,000億ドル)に達し、前年同期より1,500億ドル以上増えました。このペースが続けば、2025年通年の貿易赤字は1.44兆ドルを超え、すでに過去最高だった2024年をさらに20%上回る可能性があります。
- EUとの赤字:137.31 billionドルで前年同期比48.5%増
- カナダとメキシコを合わせた赤字:105.07 billionドルで15.2%増
背景には、関税パニックと呼べる動きがあります。企業が将来のさらなる関税引き上げを恐れ、今のうちに輸入を前倒しした結果、2025年1〜5月の輸入額は1.5兆ドルに達し、前年から15.4%、額にして2,000億ドル増加しました。一方で、同期間の輸出の伸びはわずか5.3%にとどまりました。関税がかかる前に駆け込みで輸入が増える一方、相手国の不信感や不確実性の高まりが、米国からの輸出を押し下げていると見る向きもあります。
皮肉なことに、世界に向けた一方的な関税政策は輸入を減らし輸出を増やすどころか、輸入を増やし輸出を鈍らせる方向に働いていると、数字は示しています。
日本とアジアの視点:何がリスクで何が論点か
日本やアジア諸国にとって、今回の動きは単なる米国と個々の国との二国間問題を超え、国際貿易のルールやサプライチェーン全体の安定性にかかわる問題として受け止める必要があります。
日本は米国の主要な輸入先の一つであり、自動車や機械、電子部品など幅広い製造業が対米輸出に依存しています。25%の追加関税は、輸出企業の利益を圧迫するだけでなく、現地で事業を展開する日系企業の戦略見直しも迫ります。韓国や東南アジアの国々も同様に、米国市場向けの生産や投資計画を再考せざるを得ない状況です。
また、多くの専門家が懸念しているのは、関税が交渉カードとして頻繁に使われることで、世界貿易機関(WTO)など多国間のルールに基づく秩序が弱まり、予測可能性が低下することです。とくに、日本やアジア各国の企業は、長期の投資判断を行ううえで、ルールの安定性を重視します。一方的な関税の応酬が常態化すれば、企業は生産拠点や調達先の分散を急ぎ、結果として世界のサプライチェーンは複雑さとコストを増していくことが予想されます。
これから注視したい三つのポイント
2025年12月現在、関税再開をめぐる米国と各国の駆け引きは続いています。今後の動きを見るうえで、次のような点が重要になりそうです。
- 米国の貿易赤字が今後も拡大を続けるのか、それとも政策変更により減少に向かうのか。
- 日本やEU、中国本土など主要な貿易相手が、二国間交渉だけでなく、多国間の枠組みを通じてどのような対応策を取るのか。
- 企業や投資家が、関税リスクを織り込んだサプライチェーン戦略や市場戦略をどのように組み直していくのか。
今回の90日間の関税猶予とその後の関税再開は、強硬な関税で貿易赤字を一気に解消するという発想の限界を浮き彫りにしました。短期的には圧力をかける効果があるように見えても、数字のうえでは赤字拡大という形で跳ね返ってきています。国際ニュースとしての動きだけでなく、日本やアジアの経済に直結するテーマとして、今後も冷静にフォローしていく必要がありそうです。
Reference(s):
cgtn.com







