EUがトランプ関税に「核オプション」 反強制措置ACIとは
EUが導入した新たな通商ルール「反強制措置(Anti-Coercion Instrument=ACI)」が、ドナルド・トランプ米大統領によるEU製品への高関税案をめぐり、初めて本格的に検討されています。サービス産業やデジタル企業も巻き込む可能性があり、米欧関係と世界経済にとって大きな意味を持つ動きです。
2023年末に発効したEUの反強制措置制度
反強制措置(ACI)は、2023年末に発効したEUの新しい通商防衛ツールです。第三国がEU加盟国に対し、政策変更を迫るために経済的な圧力をかけた場合に、EUとして対抗措置をとる枠組みを整えたものです。
27加盟国が足並みをそろえて対応することで、個々の国が一方的な圧力に屈しないようにする狙いがあります。2025年12月時点でも、ACIは「核オプション」とも呼ばれつつ、実際に発動されたことはありません。抑止力として存在すること自体に意味があるとみなされてきました。
トランプ政権の30%関税案とEUの危機感
ロイターが伝えるところによると、ドイツを含む複数のEU加盟国は、トランプ米大統領がEUからの輸入品に対し30%の関税を課すと警告したことを受け、通商合意がまとまらない場合にはACIを使った対抗措置も辞さない構えを見せています。
トランプ大統領は、2025年8月1日までに30%関税を導入する可能性に言及していました。これに対しEU側は、通常の報復関税だけではなく、サービスや投資にも踏み込んだ広範な措置を検討できるACIを「核オプション」として位置づけています。
ACIで取り得る対抗措置は何があるのか
ACIの特徴は、単なる関税のかけ合いにとどまらず、モノ・サービス・投資・知的財産など幅広い分野を対象にできる点です。EUは、第三国の「強制的な行動」をやめさせ、被った損害を回復するのに最も効果的と判断される措置を組み合わせて選ぶことになっています。
1. 関税や輸出入規制
もっとも分かりやすい手段が、物品への追加関税です。トランプ政権の関税案に対抗し、EU側も米国からの輸入品に関税を上乗せすることが想定されています。
ACIはさらに、輸出入に数量制限(クオータ)を設けたり、特定の商品にライセンス制度を導入したりすることも可能です。これにより、戦略的に重要な品目の流れを絞ることができます。
2. 公共調達からの排除や不利な評価
EU域内の公共調達市場は、建設や防衛調達などを含め年間約2兆ユーロ規模とされています。ACIのもとでは、この巨大な市場へのアクセスをテコに、米国企業へ圧力をかける選択肢があります。
- 入札案件のうち、米国の財やサービスの比率が50%を超える場合、その入札を排除する
- 米国企業の入札にペナルティとなる評価調整を加え、競争上、不利な点数を付ける
こうした措置は、米国の建設、防衛、インフラ関連企業にとって大きな打撃となり得ます。
3. デジタルサービスなどへの影響
ACIは、米国がEUに対して貿易黒字を計上しているサービス分野にも焦点を当てています。具体的には、アマゾン、マイクロソフト、ネットフリックス、ウーバーといった米国発のデジタルサービス企業が念頭に置かれています。
EUがACIを発動すれば、これらの企業のEU市場での活動に影響を与える措置をとることも可能です。一般の利用者にとっても、料金やサービス内容に変化が生じるシナリオは無視できません。
4. 米国からの直接投資の制限
米国は、EUにとって最大の対内投資元の一つです。ACIにもとづき、EUは米国からの直接投資を制限する手段をとることができます。これは企業買収や新規投資プロジェクトに影響し、金融市場にも波及する可能性があります。
5. 知的財産、金融、化学品・食品への制約
ACIは、知的財産権の保護水準の調整や、金融サービス市場へのアクセス条件の見直しといった形でも活用できます。また、化学製品や食品のEU市場での販売に制限を設けることも、選択肢として想定されています。
いずれも、個別の企業にとどまらず、広範なサプライチェーン(供給網)に影響し得る措置です。
どのように措置が選ばれるのか
ACIの条文上、EUは「第三国の強制的な行動をやめさせ、必要に応じて被害を回復するうえで最も効果的な措置」を選ぶことになっています。つまり、単に報復のインパクトが大きいかどうかではなく、相手に行動の変更を促すうえでの効果が重視されます。
同時に、EU自身の経済への副作用も無視できません。特に、デジタルサービスや金融サービスはEU企業や消費者にとっても不可欠なインフラとなっているため、対抗措置の設計には慎重さが求められます。
日本を含む世界への意味
今回のACIをめぐる動きは、EUと米国という二大経済圏の関係だけでなく、世界の企業や投資家にとっても重要です。サプライチェーンが国境をまたいで入り組むなか、一つの地域での関税や規制強化は、別の地域の企業にも波及しやすくなっています。
- EU域内に生産拠点を持つ日本企業は、対米輸出やEU内の公共調達への参加に間接的な影響を受ける可能性があります。
- クラウド、動画配信、配車アプリなど米国発のサービスを利用する企業や消費者は、料金体系やサービス条件の変化に注意する必要があります。
- 通商ルールを安全保障や地政学と結びつける動きが強まるなかで、各国・地域の規制を立体的に読み解く力が求められます。
今後の注目ポイント
ACIはこれまで一度も発動されておらず、EUにとっても未知の部分が多い制度です。今後の展開を理解するうえで、次の点が焦点となりそうです。
- EUとトランプ政権が、どの程度まで交渉で妥協点を見いだせるか
- ACIの発動に必要な27加盟国の合意が得られるかどうか
- サービスや投資など、モノ以外の分野をどこまで対抗措置の対象に含めるか
- 企業や金融市場が、ACIの発動リスクをどのように織り込んでいくか
EUの反強制措置制度は、いまのところ抑止力としての性格が強いといえます。しかし、トランプ政権の関税案次第では、実際に「核オプション」のスイッチが押される可能性もあります。国際ニュースとしての表面的な対立だけでなく、その裏にある制度とロジックを押さえておくことが、今後の世界経済を読み解くうえでのヒントになりそうです。
本記事は、ロイターの報道内容をもとに再構成しました。
Reference(s):
cgtn.com








