米EU通商合意で関税15% 欧州に広がる安堵と不満
米国と欧州連合(EU)が合意した新たな通商協定をめぐり、欧州の政治指導者や市場関係者の評価が分かれています。多くのEU輸出品に一律15%の関税がかかる一方で、米国向けの高関税発動は回避され、今年の国際経済を左右しかねない「貿易戦争」の危機はいったん遠のいた形です。
合意の中身:EU輸出に15%関税、米国向けはゼロ関税
今回の米EU通商合意は、米国とEUの間で高まっていた関税引き上げの応酬を回避するためにまとまったものです。合意は、ドナルド・トランプ米大統領と欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長がスコットランドで行った協議の中で、8月1日の「高関税発動期限」を目前に控えた日曜日に最終決定されました。
主なポイントは次の通りです。
- 米国がEUからの大半の輸出品に対し、15%の関税を課す。
- これに対し、EU側は米国からの輸入品にゼロ関税を適用する方向でコミットする。
- 欧州側関係者によれば、この15%という水準は、現在の平均的な関税率のおよそ4倍に相当する。
つまり、関税合戦による一段のエスカレーションは避けられたものの、少なくとも短期的にはEU側の負担が大きい「不均衡な取引」だと受け止められています。
欧州指導者の受け止め:安堵より「不均衡」への不満
欧州議会ランゲ氏「不満足で著しく不均衡」
欧州議会の国際貿易委員会委員長を務めるBernd Lange氏は、この通商合意の枠組みについて「不満足」であり「著しくバランスを欠いている」と批判しました。
Lange氏は、とくに次の2点を問題視しています。
- EUから米国への輸出に対する関税率が、平均水準の4倍に跳ね上がること。
- その一方で、EUは米国産品にゼロ関税を適用することを約束していること。
このため、EU側が一方的に譲歩した形になっているとの不満が、欧州議会内で広がる可能性があります。
フィンランドのタヴィオ氏「落ち着いたが、祝う理由はない」
フィンランドの開発協力・対外貿易相Ville Tavio氏も、フィンランド公共放送Yle Newsの取材に対し、15%という関税率は「高すぎる」と指摘しました。
同氏は「状況は落ち着いたが、祝うべき理由はない」と述べ、危機回避そのものは評価しつつも、合意内容がEU側にとって厳しいものであるとの認識を示しています。
フランス首相Bayrou氏「自由な人々の同盟が屈した日」
フランスのFrancois Bayrou首相はロイターの取材に対し、より政治的・理念的な懸念を表明しました。
同氏は、米EU関係を「共通の価値観と利益を守るために結ばれた、自由な人々の同盟」と位置づけたうえで、「そうした同盟が、屈服に身を委ねる日である」と述べ、今回の合意が長年の同盟関係に象徴的な影を落としたと受け止めています。
言い換えると、EUが強い圧力のもとで不利な条件を受け入れたように見えることが、欧州の一部で「自律性の後退」と映っているのです。
ウォール街と市場はどう見ているか
一方、金融市場やウォール街の専門家は、この合意をどう評価しているのでしょうか。米CNBCによれば、足元では「米国の景気後退リスクはやや後退した」との見方が広がる一方で、成長への重荷となる可能性も強く意識されています。
Morgan Stanleyのストラテジスト、Michael Zezas氏は「最もありそうなシナリオは、低成長と粘り強いインフレが続く展開だ」と指摘しています。貿易や移民に対する制限が成長を抑えるマイナス効果の方が、規制緩和や財政拡大によるプラス効果を上回る、という見立てです。
為替・株式市場も敏感に反応しました。ロイターによると、この通商合意を受けて、投資家が安全資産とされるスイスフランを売り、米ドルを買う動きが強まり、ドルは対スイスフランで約1%上昇しました。一方、ユーロは5月半ば以来となる大幅な下落となり、市場の不安定さを映し出しています。
何が争点で、今後どこに注目すべきか
今回の米EU通商合意は、「貿易戦争」という最悪シナリオを回避したという意味では市場に一定の安心感を与えましたが、その中身を細かく見ると、欧州側の政治的・経済的な負担の大きさが浮かび上がります。
今後、注目すべきポイントを整理すると、次のようになります。
- EU内の政治プロセス:欧州議会などで、今回の合意がどの程度支持を得られるのか。Lange氏らの批判がどこまで広がるかが焦点です。
- 企業への影響:自動車、機械、化学製品など、米国向け輸出比率が高い欧州企業にとって、15%関税は収益を圧迫しかねません。価格転嫁が難しければ、投資や雇用にも影響する可能性があります。
- 世界貿易への波及:米国とEUという世界経済の二大プレーヤーが、事実上「不均衡な相互関税」に合意したことは、他の国や地域との交渉にも影響を与えかねません。
- 為替と金融市場:ユーロの下落やスイスフラン、ドルの動きは、今後も通商交渉のニュースに敏感に反応するとみられます。投資家心理の変化を通じて、新興国市場やアジア市場に波及する可能性もあります。
日本を含むアジアの投資家や企業にとっても、この米EU通商合意は「遠い地域の出来事」ではありません。世界的なサプライチェーン(供給網)や為替市場を通じて、輸出入コストや資金調達環境に影響が及ぶことも考えられます。
欧州で聞こえてくる安堵と不満、そしてウォール街の冷静な計算。この三つの視点を頭に入れておくことで、今後の国際ニュースをより立体的に読み解くことができそうです。
Reference(s):
cgtn.com








